女子格闘家ファイル(2)渡辺華奈 インタビュー 前編(ファイル1:ぱんちゃん璃奈 「色物扱い」から12連勝>>) 負けから始まる女王への道。2021年の大晦日、総合格闘家の渡辺華奈は自身のTwitterでこう呟いた。「今年は負けてしまい、多…

女子格闘家ファイル(2)

渡辺華奈 インタビュー 前編

(ファイル1:ぱんちゃん璃奈 「色物扱い」から12連勝>>)

 負けから始まる女王への道。2021年の大晦日、総合格闘家の渡辺華奈は自身のTwitterでこう呟いた。

「今年は負けてしまい、多くの方を失望させてしまいました。悔しさを忘れずに、2022年はもっと努力して這い上がります。」

 2021年6月26日(日本時間)に米コネチカット州で行なわれた「Bellator(ベラトール) 261」で、女子フライ級(‐56.7kg)ランキング2位のリズ・カモーシェと対戦した渡辺は、試合開始直後からパンチの連打を浴び、35秒で無念のTKO負けを喫した。

 日本トップレベルの柔道家から、総合格闘技に転向して12戦目での初黒星。あれから約半年。渡辺が敗北の反省と、そこから得たものを語った。



アメリカの格闘技団体ベラトールで頂点を目指す渡辺華奈

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――まずは2021年を振り返りたいと思います。まずは4月、米格闘技団体のBellatorデビュー戦(アレハンドラ・ララに判定2-1で勝利)は海外での初の総合格闘技の試合でもありました。コンディションはいかがでしたか?

「けっこう私は図太いというか、何も気にしないタイプなので、気負いや疲れはなかったです。柔道をやっていた時代にも、海外での試合は経験していましたから。試合5日前くらいに現地入りしたんですが、減量や食事の時間などのスケジュールで時差の影響は少し感じましたね」

――減量はどうでしたか?

「6キロくらい落とすので、毎回けっこうしんどいです。アメリカは湯船がないですから、『あれば簡単に落ちるのになぁ』と思っていました。アップスペースがメチャクチャ寒くて汗をかきにくく、日本での"水抜き"よりキツくてヒーヒー言ってました(笑)。次回からは、もうちょっと日本で落としていこうと思いました」

――アメリカでの練習環境について教えてください。

「ひとりずつ仕切られたアップスペースが設けられていて、そんな広くはないけど、『自由に使っていいよ』って感じでした。あとは、エアロバイクとランニングマシーンが置いてあって、ポータブルサウナっていうひとり用サウナもありました。てるてる坊主みたいに顔だけ出すやつです(笑)。

 コロナ禍で、到着した日と次の日はまったく部屋から出られない状況でしたね。その後も毎日PCR検査をして、練習場には行けるんですけど、それ以外ではあまり部屋を出ない。アップスペースと練習場はホテルの中にあるので、そこの移動はラクでしたけど」

【ベラトールのトップ選手の強さ】

――Bellatorの上位陣、4位のララ選手、2位のカモーシェ選手と対戦して感じたことは?

「もっとも違いを感じたのは体の強さです。単純に大きいのと、体の強さ、瞬発力も違います。一気にバッと出てくるというか、試合開始と同時に100%でいけるのが日本人選手とは違いました」

――日本でも、『DEEP JEWELS』や『RIZIN』で外国人選手と対戦経験はありますが、レベルが違いましたか?

「そうですね。技術面でもレベルは高いです。体格も、日本では私は大きいほうなんですが、特に2戦目のカモーシェ選手は大きく感じました。彼女は総合格闘技歴が10年以上あって、柔術も黒帯。UFCでは、ロンダ・ラウジー(初代UFC世界女子バンタム級王者)などともタイトルマッチをやっています。コンプリートファイターですね」

 アメリカ進出2戦目、「次期王座挑戦者決定戦」と位置づけられたカモーシェとのランカー対決は、35秒でのTKO負け。渡辺はあと一歩のところで王座挑戦に届かなかった。試合後、自身のTwitterで「自分が弱く、リズ選手が強かった。自分の実力不足です」と完敗を認めた。

――あらためて、カモーシェ戦の反省点を挙げるとしたら?

「ものすごくいっぱいありますね。試合までの調整もそう。それまでは試合のスパンが2カ月~2カ月半くらいと短かったんですが、試合のオファーをいただいた時はケガをしていて練習ができていない状態でした。

また、直前で対戦相手の変更があった(当初はランキング1位の選手と戦う予定だった)時に、気持ちをしっかり作れていなかったのが、本当に反省です。いろいろ重なって、ちょっと弱気になっていました。何も言い訳できないですし、自分が万全でも負けていたとは思います」

【「意味のある負け」に】



ウォーミングアップ中に笑顔

――対戦前、カモーシェ選手にはどんなイメージがありましたか?

「相手の試合映像を何回も見て、最初からガンガンくるタイプではなく、"見てくる"タイプだなと思っていました。でも実際は、試合開始直後からガンと出られて、うまく向こうの作戦にハマってしまった。思い込みがあったというか、準備が甘かったです」

――パンチの連打をもらった場面ですが、渡辺選手はいつものように組みにいくのではなく、打ち合ったところがありました。それは以前よりも打撃に自信をつけた、ということもありますか?

「はい、打撃でも対抗しようと思ってたんですけど......まだまだでしたね」

――12戦目で初黒星。ただ、以前から「全勝にはこだわっていない」と発言していましたよね。

「はい、それは昔から同じです。負けた経験から新しく取り組めることもあるので。もちろん負けること自体はすごく嫌なので、本来は言いたくないのですが、絶対に『意味のある負け』にしないといけないですね」

――アメリカでのBellator、会場やお客さんの雰囲気はいかがでしたか?

「1試合目は無観客、2試合目は観客数が制限されていたので、お客さんは少なめでした。それにコンタクトを外していたので、観客席が全然見えなくてどんな雰囲気なのかもわからず(笑)。私は視力が両目とも0.05くらいで、歩く時に前も見えない感じでした」

――その視力だと、相手の動きや打撃が見えないんじゃないですか?

「それまではコンタクトをつけて出られていたんですが、直前で外すように言われてしまいました。カモーシェ選手のパンチは、たぶんコンタクトをしていてもかわせないくらい鋭かったですけどね。視界がボヤ~っとして、相手の顔もよく見えず集中しにくかったというのはあります。だから今は、自分に合った視力の矯正方法もいろいろ探っているところです」

【乾燥肌が試合にも影響】

――ロープが張ってあるリングと、金網のケージの差は?

「私はケージのほうが好きです。今のジムにはリングがないんですが、ケージで必要なスキルは、壁を使った練習で高めていくことができますから」

――渡辺選手のように組んでからのテイクダウンを主にする選手は、ケージほうが合っている?

「ケージでも、金網に寄りかかられちゃうと倒しにくくなります。逆に倒された状態から立ちやすくもなりますね。でもリングでは、投げる時に相手のヒジがロープに引っかかったり、リングの外に飛び出ちゃったりすることもある。そこでブレイクがかかるのでやりにくい部分があります。

もう私はすっかり"金網仕様"になっています。単純に、あの囲まれてる感じも好きです。閉鎖されて『もう戦うしかない』みたいな感じが」

――Bellatorのマットはどんな感触でしたか?

「Bellatorに限らず、格闘技の試合のマットは全部滑るんですよ。UFCの試合でも、けっこう選手が滑っていますよね」

――そういえば、『RIZIN』のリングに初めて上がったぱんちゃん璃奈選手も「滑った」と話していました。

「そうですよね。さらに私は、足がメチャクチャ乾燥肌で。試合開始から、汗をかいてくるまではツルツルです」

――足の裏に何か塗ったりしないんですか?

「それは禁止されているんです。『もっと足の裏に汗をかく体質だったらいいのにな』っていつも思います。極端に言えばビッチャビチャで上がりたいんですけど、実際はサラッサラなんで(笑)。床にスポンサーさんの名前やロゴが印刷してあるところは、意外と滑りにくいんですけどね。そこのグリップ感の高め方も模索中です」

――前回の試合は、バックボーンである柔道着で入場しましたね。

「Bellator1試合目の時は『(柔道着の)下を履くのはダメ』と言われて上だけ着たんですが、2試合目は上下で大丈夫でした。柔道家として入場できるのは、その世界で生きてきた自分にとって大事な意味があります」

――ララ戦で披露した、赤と白のコスチュームも"映え"ていましたね。

「日の丸カラーのやつですよね? いつも衣装を作っていただいているHODOPHILAXさんのデザインです。すごく評判がよくて、自分でもかっこいいと気に入っています。応援してくださる方たちも、『日本を背負ってアメリカで戦っている』と見てくれます」

――Bellatorでの次戦は?

「まだ決まっていません。前回の試合で眼窩底骨折をして、ちょっと長めに休養を取っていた事情もありますけど。完治した診断書を出さないといけないんですが、それは11月に出しました。Bellatorでの契約も残っているので、これから組んでくれるでしょう」

※取材後、5月13日にデニス・キールホルツ(フライ級3位)との対戦が決定@英国・ロンドンSEEアリーナ

――現在、渡辺さんはランキング4位。十分にベルトが狙える位置です。

「試合が決まったらその試合に向けて、今やっていることをもっと突き詰めていきたい。今は自分の実力を上げる練習にシフトしていて、試合が決まったらスパーリングを増やしたり、勝つための練習に切り替えていこうと思います」

――上位陣は軒並み強敵ですから、万全を尽くさないといけないですね。

「そうですね。誰とやっても強いです。現チャンピオンのジュリアナ・ヴェラスケス選手は柔道ベースなんですけど、ストライキング(打撃)も強い。体も大きい。おそらく近いうちに、カモーシェ選手がヴェラスケス選手と試合をすると思うので楽しみです。カモーシェ選手がチャンピオンになる可能性も十分ある。チャンピオンの寝技のスキルをあんまり見たことがないので、打撃だけでなく寝技での展開も見てみたいですね」

――目標は迷いなく、Bellatorのベルトですね。

「はい、狙います! 獲りたいです!!」

(後編:「オンナ堀口恭司」の愛称に恐縮も「そのレベルを目指したい」>>)

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