第100回全国高校サッカー選手権特集【青森山田を上回るシュート数】 惜しくも3回戦で涙を飲んだが、記念すべき100回目の…

第100回全国高校サッカー選手権特集

【青森山田を上回るシュート数】

 惜しくも3回戦で涙を飲んだが、記念すべき100回目の選手権で阪南大高(大阪府)が見せた戦いぶりは、多くの人の印象に残ったのは間違いない。



今大会7ゴールと大暴れした、阪南大高の鈴木章斗

 1回戦で丸岡(福井県)を3-0で下し、選手権初勝利を奪うと、続く2回戦の奈良育英(奈良県)戦では8-0と圧勝。3回戦では優勝候補の本命と呼ばれる青森山田(青森山田)に3点を先行されながらも、1点を返した。

 2021年度に、高校年代最高峰のプレミアリーグEASTとインターハイの2冠を達成した青森山田と、張り合えるチームはほとんどいない。失点以前にシュートを打たせないことを徹底する絶対王者相手に、実は1本もシュートを打てないまま試合を終えるチームも珍しくない。

 そのなか、阪南大高は青森山田を上回る9本のシュートを放ったのも評価に値する点と言えるだろう。6年ぶり2度目の出場で確かな爪痕を残したが、濱田豪監督にとっては悔いが残る結果だったのは間違いない。それだけ今年のチームにかける想いは強かった。

 濱田監督は筑波大学在学中に指導の楽しみに気づき、卒業後の1999年にたまたま教員募集していた阪南大高へと赴任した。前任者から引き継ぎ、1年目から指揮官となったが、「強くするなんて無理だと思っていた」と振り返る。

 実際、当初は大阪府の大会で3回戦まで進むのが精いっぱいだったが、次第に勝利への欲望が高まり、2008年には学校に頭を下げて、校内の強化指定クラブとなった。その初年度に入学してきたのが、チーム初のJリーガーとなったFW河田篤秀(現・大宮アルディージャ)だ。

 そこからの部の発展は目覚ましい。2013年にインターハイ初出場を果たすと、2015年には選手権初出場も果たした。2017、18年はプレミアリーグWESTでも戦い、名実ともに強豪の仲間入り。

 着実に成果を挙げる一方、濱田監督がもどかしさを感じていたのも事実だった。手応えのある年に全国大会に行けていないためだ。

 選手権初出場の2015年は下級生主体のチームで、どちらかと言えば本命視していたのは翌年だったが、2016年は予選決勝で敗れている。2度目の勝負の年は、2019年。各ポジションに実力者が揃い、インターハイでも3回戦まで進んだが、選手権はまたもや予選決勝で涙を飲んだ。

【おとなしく真面目な選手たち】

 足元の技術に長けた選手が揃う今年は、3度目となる勝負の年。新チーム発足当初に、「うまいチームではなく、強いチームになってほしい」と話していたのも、選手の質に手応えを感じていたためだ。

 力は確かで夏のインターハイは実力の片鱗を見せ、4年連続での全国行きを決めたが、激戦区の大阪で夏冬連覇を果たすのが難しいのは濱田監督が誰よりも知っている。選手権予選が始まる直前になると、濱田監督はメンタル面で成長を促す賭けに出た。

 阪南大高はおとなしく真面目な選手が多い。忠実に戦術をこなせる利点もあるが、大舞台になると持ち味が出せなかったり、アグレッシブにプレーできない理由にもなり、2度あった勝負の年に勝てなかった原因となっていた。

 これまでいなかった、自己主張できる選手が出てきて欲しいとの想いを込めて、練習試合では出たい選手を志願するように求めた。濱田監督はポジションが被ったら言い争うくらいの気持ちが欲しかったが、出場するメンバーを選手同士が譲り合ったそうだ。

「俺のほうができると思うヤツは行け」と伝えれば、今度は"出なければいけない"と思って仕方なく名乗り上げるような状態で、指揮官が求めるメンタルとはかけ離れていた。予選の初戦も、選手にメンバーを決めさせたが、選手同士で譲り合った結果、最終的には出るメンバーをくじ引きで決めたという。

 普段は温厚な濱田監督だが、この時ばかりはさすがに選手に雷を落とした。最初は見慣れない指揮官の姿に戸惑う選手も多かったが、勝ち上がるにつれて"試合に出たい。勝ちたい"という想いがなぜ大事なのか、チームは身を持って気づいていく。

「怒られた時は『なんで?』となっていたのですが、今考え直せば濱田先生が言っていたことは正しかった。全員がそれを理解し、『勝ちたい』とか『俺が』という気持ちが出たのが結果につながったと思う」と振り返るのは、主将のFW鈴木章斗。

 濱田監督も、「僕が怒ったことに、選手はビックリしたと思う。最初は何を意味しているかわからない選手が多かったと思うけど、『俺がやる』と言う選手が増えたし、それを言われても変わらない選手も出てきた。最終的には勢いを持って戦えた」と続ける。

【FW鈴木章斗が大会7得点】

 結果的に全国大会は悔しい結果に終わったが、多くの選手がうまい選手から、怖い選手へと変貌を遂げたのは事実だ。なかでも、一番の成長曲線を描いたのは、湘南ベルマーレへの加入が決まっている鈴木で間違いない。

 これまでの阪南大高にはいなかった「いい意味で我が強い」(濱田監督)性格の持ち主。中学時代から評価されていたキープ力を活かすため、入学1年目はサイドハーフとして起用されていたが、2年生の途中からはそうしたストライカーに適した性格と10cm近く伸びた身長を買われ(現在178cm)、最前線へとコンバートされた。

 最終学年に入ってからの活躍は目覚ましい。もともとあったボールを奪われない能力に加え、濱田監督は河田の高校時代と同じく、胸トラップを意識させた。本来ならヘディングするような高さのボールを胸で収めた際に、競る相手がパワフルなDFならファールがもらえる。もし寄せてこないなら、そのまま前を向いてシュートまで持ち込めばいい。「フィジカル系のFWには、ヘディングはもったいない。普通の選手では考えられないようなプレーをするのが、FWには必要」(濱田監督)と考えたからだ。

 規格外のFWが持つ"空中で止まっている"と表現したくなるようなプレーを身につけてからは、ゴールのバリエーションが増え、高校生レベルで彼を止めるのは容易ではなくなった。今回の選手権でも活躍ぶりは群を抜いており、初戦では1ゴール。2回戦では前半のうちにハットトリックを達成すると、最終的には5得点をマークした。3回戦の青森山田戦で一矢報いたのも彼で、プロ入り前の名刺代わりとなったのは間違いない。

 今年の阪南大高は選手が殻を破ったことでチームも殻を破り、新たな歴史の一歩を踏み出した。選手権で刻んだこの一歩の価値は計り知れない。今回の経験がベスト8以上のチームとなっていくための基準となっていく。この先へと進む日が必ず来るはずだ。