「躍動感を持ってプレーしていた。次も楽しみ!」 そう語って破顔したのは、前主将FL(フランカー)リーチ マイケル(東芝ブレイブルーパス東京)だ。 リーチが見据えた相手は、日本代表初キャップを獲得したCTB(センター)中野将伍(東京サンゴリア…

「躍動感を持ってプレーしていた。次も楽しみ!」

 そう語って破顔したのは、前主将FL(フランカー)リーチ マイケル(東芝ブレイブルーパス東京)だ。

 リーチが見据えた相手は、日本代表初キャップを獲得したCTB(センター)中野将伍(東京サンゴリアス)。24歳のルーキーが2023年ワールドカップに向けて自ら手を挙げた。



代表初キャップを獲得した24歳の中野将伍

 1週間前にアイルランド代表と戦って5−60と大敗したラグビー日本代表(世界ランク10位)は、現地11月13日にポルトガル代表(同19位)とアウェーで対峙。格下相手に力の差を見せつけて勝ちたかったが、後半は反則を繰り返して劣勢となり、イエローカード(10分間の一時的退場)を2回もらいながら38−25でなんとか勝利を収めた。

 ただ、ホームのファンの応援を背に最後まであきらめない相手に対し、苦しみながら得た勝利にも光明はあった。それは、この試合が日本代表デビュー戦となった中野の存在だ。

「ラインブレイクだったり、オフロードだったり、味方のチャンスの機会を多く作っていければいいなと思っていました。周りの選手がサポートしてくれたので、試合であまり迷いなく思いっきりプレーできました。日本代表のジャージーを来て(初めて)試合に出られて非常にうれしいです」(中野)

 前半4分、SO(スタンドオフ)松田力也(埼玉ワイルドナイツ)の右足アウトサイドキックをキャッチしてチャンスメイク。WTB(ウィング)シオサイア・フィフィタのトライにつなげた。さらに前半終了間際、ラインアウトを起点にしたアタックから角度を変えて走り込み、チームに勢いを与える代表初トライも挙げて勝利に貢献した。

「ビッグゲームに強く、堂々としていて、自分の力を発揮できると信じている」

 日本代表ジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)は、13番で先発起用した中野をそう評価する。「ボールを持つ機会は限られていたが、トライを挙げたし、ラインブレイクやオフロードパスで非常によさが出ていた。将来の日本ラグビー界にとって明るい兆し」と手放しで褒めた。

 このポルトガル戦でゲームキャプテンを務めたCTB中村亮土(東京サンゴリアス)も「彼の強みを引き出しつつ、1週間の準備をサポートしながらやっていた。自信を持って試合に臨めていたと思うので、引き続きサポートしながらお互いにレベルアップしていきたい」と及第点を与えていた。

 身長186cm、体重100kgの恵まれた体躯を持つ中野は、3歳からラグビーを始めた。花園こそ出場できなかったが、福岡・東筑高校時代から関係者の耳目を集めてきた存在だった。高校2年生の3月、高校日本代表を飛び越えて大学生中心の「ジュニア・ジャパン」に選出。まさに若手のホープだった。

 その後、兄・裕太(釜石シーウェイブス)と同じ早稲田大学に進学。1年生からアカクロのジャージーを着て13番として出場を続けた。東京サンゴリアスでもチームメイトとなるSH(スクラムハーフ)齋藤直人らとともに、4年時には大学選手権優勝に大きく貢献した。

 ただ、日本代表初キャップまでの道のりは、決して簡単なものではなかった。

 中野は大学2年時の春、ジョセフHCの指導する代表候補選手たちが集った「NDS(ナショナルディベロップメントスコッド)キャンプ」に招集される。この合宿のメンバーからは、2019年ワールドカップに出場した選手も多かった。だが、中野はケガのために合宿中、フィットネスバイクを漕いでいた。

「チャンスがあったのに、ラグビーでアピールできなかった」

 中野はその時を振り返り、悔しそうな表情を見せた。

 大学シーズン終了後にはサンウルブズの一員としてスーパーラグビーを経験。さらに昨シーズン、ルーキーイヤーで迎えた最後のトップリーグでは、強豪サントリーのなかでSOボーデン・バレット、CTBサム・ケレヴィ、中村ら各国の代表選手とともにレギュラーを張った。本職であるアウトサイドCTB(5試合)だけでなく、WTBとしても5試合に出場。計5トライを挙げるなど、大きく成長の跡を見せた。

「今までやっていたCTBで勝負したい気持ちもありますが、昨季のトップリーグでWTBもやって両方経験したので、ふたつのポジションをできる引き出しになった」

 今春の日本代表合宿に招集される可能性もあったが、トップリーグのプレーオフ決勝で脳しんとうを起こし見送られた。約1カ月で復帰した時、それも前向きに捉えて「フィットネスやスピードメニューを多く取り組んできた」と語っていた。

 そして今秋、日本代表の予備軍であるNDSに名を連ねて、再び合宿に参加。ジョセフHCは中野をCTBとして評価しており、練習も常にCTBだったという。

「毎回の練習で波がないように、いいパフォーマンスをして力を出し切ることが大事。チャンスがあればどんどんチャレンジしたい」

 練習からアピールを続けた結果、BKでは唯一NDSから昇格する形で欧州ツアーメンバーに呼ばれて代表初キャップにつなげた。

 日本代表のCTBは長らく、2019年ワールドカップでも活躍した12番=中村、13番=ラファエレ・ティモシー(コベルコ神戸スティーラーズ)のコンビで定着していた。だが、中野が今回自らのポテンシャルを見せつけ、2023年ワールドカップへ名乗りを挙げた。

「外側でゲインした時、オフロードの精度やボールキープし継続するところなど、細かいところは今後修正していかないといけない」

 ポルトガル戦後、中野は反省も忘れていなかった。

「センターの競争で勝って、試合に出続けるために、毎週、毎週、成長し続けるように、1試合1試合をフォーカスしていきたい」

 中野は自身に語りかけるように、言葉に力を込めた。ポルトガルの地で初キャップを得て、大きな自信を掴んだようだ。24歳の視線は2年後に向いている。