クリス・エバート(アメリカ)は、1972年に初開催された「WTAファイナ…

クリス・エバート(アメリカ)は、1972年に初開催された「WTAファイナルズ」の前身「バージニア・スリムズ・チャンピオンシップ」で優勝。第4シードとして出場した17歳のエバートは、決勝でケリー・メルビル(オーストラリア)を下したが、彼女はまだアマチュア扱いであったため、2万5,000ドル(現在のレートで約286万円)の賞金を受け取ることはできなかった。【関連記事】パリマスターズ、そしてファイナルズ開催!11月開催の主な大会まとめ

「その週は旅費として400ドル(現在のレートで約4万6,000円)貰えて、父が喜んでいたわ。当時の私たちはそれだけしか受け取ることが許されていなかったの。ガソリン代と食費としてね。」エバートは笑いながらこう語った。現在エバートは、自身がこの大会の船出に一役買ったのと同じ街、米フロリダ州のボカラトンで、兄弟のジョンと共にエバート・テニスアカデミーを運営している。

エバートはこのシーズン最終戦の、最初の6回のうち4回で優勝。その後、チェコスロバキア出身のパワフルな左利き選手であったマルチナ・ナブラチロワ(アメリカ)が、1978年から1986年までの10大会のうち8回を制した。(1986年にはニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで2度の大会が開催された。)

ナブラチロワは1983年から1986年まで5年連続優勝を果たした。ファイナルズの最初の16回のうち、ナブラチロワとエバートの2人だけで合わせて12回優勝している。「私たちはしばらくの間、その大会を独占しているようなものだった」とナブラチロワ。一方のエバートは「16回のうち12回?まあ、それは本当に支配と呼べるわね」とコメント。

かつては偉大なライバルであった2人は今や友人関係にあり、今年の「WTAファイナルズ・グアダラハラ」(メキシコ・グアダラハラ/11月10日~11月17日/室内ハードコート)の公式アンバサダーを務めている。これは、たくさんの成長株の選手たちがキャリア最高記録を樹立した、素晴らしいシーズンの終わりにふさわしい大会だ。出場する8人の女子選手のうち1人が、初の最終戦の栄冠を手にする。エバートとナブラチロワによる戦況分析を、WTAツアーの公式オンラインメディアが伝えた。

前編として、今回は上位4人の今シーズンの主な実績と、エバートとナブラチロワの意見を紹介する。

アリーナ・サバレンカ(ベラルーシ)

2021年獲得タイトル:2(「WTA500 アブダビ」、「WTA1000 マドリード」)

2021年成績:44勝16敗(勝率73%)

キャリアタイトル数:10

WTAファイナルズ出場回数:初

サバレンカはシーズン開幕時に世界ランキング10位であったが、1月の「WTA500 アブダビ」ですぐさま優勝し、躍進のシーズンの基礎を築いた。シーズン前半には、「全豪オープン」4回戦でのセレナ・ウイリアムズ(アメリカ)戦、「WTA500 ドーハ」と「WTA1000 ドバイ」でのガルビネ・ムグルッサ(スペイン)戦、そして「WTA1000 マイアミ」と「WTA500 シュトゥットガルト」でのアシュリー・バーティ(オーストラリア)戦で何度か手痛い敗北を喫したが、振り返ってみれば、こうした逆境が彼女の糧になったようだ。

サバレンカは「WTA1000 マドリード」で決勝までやすやすと勝ち上がり、そこでバーティを6-0、3-6、6-4で下し、今年を特徴づける優勝を成し遂げた。「ウィンブルドン」出場時点で、過去に出場した14度の四大大会でのサバレンカの最高成績は2度の4回戦進出であったが、この時は準決勝まで進出し、そこでカロリーナ・プリスコバ(チェコ)に敗れた。「全米オープン」でも同じく準決勝まで勝ち上がり、そこでレイラ・フェルナンデス(カナダ)に屈した。

ナブラチロワの見解:

「球足が遅いと予想されるコートと標高の高さを考えると、ボールをかなりフラットにラインぎりぎりに打つ彼女にとっては厄介になりそう。2度準決勝に進出したものの四大大会タイトルを獲得できなかったことには落胆しているかもしれないけれど、彼女はこの1年に感激しているでしょう。彼女は四大大会で優勝する選手として2年前に私が挙げた選手だったから、来年は優勝すると思うわ。この大会はいい足掛かりになるでしょう」

エバートの見解:

「彼女は出場選手の中で最高のポイントを獲得している。グランドスラム初優勝を飾る次の選手は彼女だと思うわ。今年、試合面だけじゃなく感情的な安定の面でもすごく進歩した。思い切ってプレーする心づもりができていると思うわ」

カロリーナ・プリスコバ(チェコ)

2021年獲得タイトル:0

2021年成績:35勝18敗(勝率66%)

キャリアタイトル数:16

WTAファイナルズ出場回数:5回目(2016年・2017年:グループリーグ敗退、2018年・2019年:準決勝)

プリスコバは「全豪オープン」で3回戦に、「WTA500 シュトゥットガルト」でベスト8に進出。芝のシーズンは「WTA500 ベルリン」と「WTA500 イーストボーン」での敗北で幕を開けたが、「ウィンブルドン」では見事なプレーを見せ、決勝に進出した。バーティを相手に最初のセットを落とした後、熾烈なタイブレークの末に第2セットを奪ったものの、最終的に3-6、7-6(4)、3-6で敗れた。

これにより、プリスコバが北米のハードコートシーズンで素晴らしい活躍をする素地が整った。「WTA1000 モントリオール」では決勝でカミラ・ジョルジ(イタリア)に敗れたが準優勝を果たし、「WTA1000 シンシナティ」ではジェシカ・ペグラ(アメリカ)やパウラ・バドーサ ジベルト(スペイン)を破ってベスト4入り。そして「全米オープン」では準々決勝に進出した。

ナブラチロワの見解:

「チェコの同胞にはいつも大きな希望を寄せているけれど、サバレンカと同じね。海抜5,000フィート(約1,524m)の標高は彼女にとってすごく厄介になるでしょう。それに彼女もラインぎりぎりに打つわ。遅いコートは彼女にとって友好的ではない。それでも、特にファイナルズに何度も出場していることを考えれば、この1年に花を添える素晴らしい機会ね」

エバートの見解:

「安定している。経験豊富で、冷静。出場するどんな大会でも優勝する能力がある。過去10年を振り返ると、彼女はグランドスラムで優勝していない中で最高の選手よ」

バーボラ・クレイチコバ(チェコ)

2021年獲得タイトル:3(「WTA250 ストラスブール」、「全仏オープン」、「WTA250 プラハ」)

2021年成績:45勝14敗(勝率76%)

キャリアタイトル数:3

WTAファイナルズ出場回数:初

クレイチコバより速く、テニス界の最高峰に駆け上がった選手はほとんどいない。シーズンが始まった当初、クレイチコバは世界65位で、9試合のうち5試合でしか勝利していなかった。そしてドバイでの出来事が起きた。

予選をぎりぎりで免除され、彼女は本戦を切り裂くように勝ち進んだ。1回戦で当時世界25位のマリア・サカーリ(ギリシャ)を下すと、続く2回戦と3回戦ではエレナ・オスタペンコ(ラトビア)とスベトラーナ・クズネツォワ(ロシア)という2人のグランドスラム優勝経験者を破った。さらにアナスタシア・ポタポワ(ロシア)とジル・タイヒマン(スイス)に勝利して決勝に進み、そこでムグルッサに敗れた。

そしてそこから彼女は解き放たれ、ストラスブールでキャリア初優勝を遂げると、ノーシードで出場した「全仏オープン」で2つ目のタイトルを獲得。この大会で、彼女はエリナ・スビトリーナ(ウクライナ)、ココ・ガウフ(アメリカ)、サカーリ、そして決勝でアナスタシア・パブリウチェンコワ(ロシア)を相手に番狂わせを演じた。「東京オリンピック」ではカテリーナ・シニアコバ(チェコ)とのダブルスで金メダルを獲得しており、「WTAファイナルズ・グアダラハラ」で単複両方に出場する唯一の選手となっている。また、直前の週の「ビリー・ジーン・キング・カップ by BNPパリバ ファイナルズ」に出場した唯一の選手でもある。

ナブラチロワの見解:

「ダブルスでファイナルズに出場したことがあるから、それは利点ね。完全に新しい経験ではないわけだから。今回はシングルスとダブルス両方で出場権を得た。“WTAファイナルズ”では本当に長い間、そういう例はなかったわ。彼女については、なんて頭角の表し方なの、と言う以外ないんじゃない?もっと前からシングルスでいい結果を出していなかったのが驚きだったけど、今はどれほどいい結果を出したかに驚いているわ。ダブルスで1番なら、本当にいい選手のはずよ。偶然そうなることはないからね。私は彼女のコートでの振る舞いが好き。涼しい顔をして、穏やかで、冷静だわ。彼女は優雅にプレーする。誰もが思い描くようなベースライナーでは全然ない。コートのどこからでも安定したショットを打てる。彼女のプレーはどのサーフェイスにも適応すると思うから、メキシコのコンディションも気に入るんじゃないかしら。もう少し位置取りで攻撃的になってもらいたいわ。それが次の一歩ね。ネットに出ること」

エバートの見解:

「美しい物語よね、“全仏オープン”優勝。懐かしくて感傷的だわ。落ち着いた様子でのあの勝ち方。卓越したオールコート型の選手ね。もちろん素晴らしいダブルスの選手でもある。ダブルスの選手が素晴らしいシングルスの選手になるのを見るのは気分がいいわ」

イガ・シフィオンテク(ポーランド)

2021年獲得タイトル:2(「WTA500 アデレード」、「WTA1000 ローマ」)

2021年成績:35勝13敗(勝率73%)

キャリアタイトル数:3

WTAファイナルズ出場回数:初

昨年秋に「全仏オープン」で驚きの初優勝を遂げた後、シフィオンテクは2021年も安定した成績を残した。オーストラリアでの大会では9勝2敗とし、アデレード決勝ではベリンダ・ベンチッチ(スイス)をストレートで下してキャリア2つ目のタイトルを獲得。ローマでは目を見張るような勝ち上がりを見せ、間もなく「全仏オープン」を制するクレイチコバ、スビトリーナ、ガウフ、そして決勝ではプリスコバを撃破した。タイトル防衛を賭けた「全仏オープン」では4試合で勝利したが、準々決勝でサカーリに敗れた。

「ウィンブルドン」の芝コートでは、最終的にオンス・ジャバー(チュニジア)に敗れたものの2週目まで勝ち残った。同様に、「全米オープン」でも4回戦に進出したが、そこでベンチッチに屈した。

ナブラチロワの見解:

「彼女は四大大会での予想外の初優勝を裏付ける結果を出したわ。全仏優勝はほんの1年前だったかしら?1年と1ヶ月ね、実際は。誰もが初めての四大大会優勝の後にそれにふさわしい結果を出せるわけじゃない。でも彼女は大丈夫だろうと私は思っていたわ。“全仏オープン”で優勝した時の様子を見れば、盤石な試合で、素晴らしいアスリートで動きもとても良かった。テニスのIQも高いわ。フォアハンドのトップスピンは、グアダラハラの高度も手伝って対戦相手を困らせると思う。相手の頭の上に跳ね上がるのよ。相手コートに空いた空間を作りやすくなる。いやなフォアハンドよ。彼女の1年を強調するいい機会になるでしょう」

エバートの見解:

「彼女には大きな強みがあるけれど、まだ調子を掴みかねているわね。でも調子を上げてくると思うわ。波のある1年を終えたところね。“全仏オープン”優勝後に人々が想像したような成果はまだ残していない。プレッシャーに対処しなければいけなかったし、それが影響したんだと思うわ。調子が整った時、恐ろしい選手になるでしょうね」

(テニスデイリー編集部)

※写真は2016年の「WTAファイナルズ」の記者会見に出席中のクリス・エバート

(Photo by Clive Brunskill/Getty Images)