1年からチームの主砲として活躍するも、2年秋に不調に苦しんだ 186センチ、79キロと、細身ながら鋭いスイングで打球を飛ばす。10月11日のドラフト会議で上位指名候補として名前が挙がっている昌平高(埼玉)の吉野創士外野手(3年)は、高校通算…

1年からチームの主砲として活躍するも、2年秋に不調に苦しんだ

 186センチ、79キロと、細身ながら鋭いスイングで打球を飛ばす。10月11日のドラフト会議で上位指名候補として名前が挙がっている昌平高(埼玉)の吉野創士外野手(3年)は、高校通算56本塁打を積み上げ、スターへの道を上りつつある。ただこの3年間、全てが順調なわけではなかった。

「出ていたらチームの士気が下がるので、今大会、僕は身を引きます」。昨秋の埼玉大会が始まる前、吉野が黒坂洋介監督に言った言葉だ。

 入学前に「プロに行ける素質がある」と黒坂監督から言われ、卒業後のプロ入りを目指して昌平高の門を叩いた。捕手との兼業から外野手に専念すると打撃が開花し、1年春からレギュラーで出場。その夏には早くもクリーンアップに座り、本塁打を量産し始めた。

 事件が起きたのは2年夏が終わり、新チームが始動したころだ。「捉えられるのも、捉えられないし、ボールにバットが当たらない。どうしていいかわからなかったです」という絶不調に陥った。自分のプレーに悩み、周りを気にすることができない日々が続いた。

 チームに迷惑がかかると思い、監督に自ら背番号の返納を直訴。しかし、黒坂監督は「その考え方が違う。自分のプレーが上手くいかなくても、チームへの貢献の仕方があるはずだ」と認めなかった。また、チームメートも、秋の県大会が始まる前にミーティングを開くと、ベンチ外だった岸望樹主将が泣きながら吉野に訴えた。

主将の一言で変化、秋には打率.591、3本塁打と打棒が開花

「俺は試合に出てなくても言わなくちゃいけないんだ。出ている吉野が自分の結果ばかり気にして全力でプレーしなくてどうするんだ」

 ハッと気づいた。野球は自分だけでやるものではない。「考え方が子どもだったんです」と当時を振り返る。そこから野球に対する意識を見直した。自身は不調でも、声や練習態度でチームの士気を上げるようにした。すると、打棒が爆発。秋の県大会は打率.591、3本塁打、12打点で、昌平の初優勝に貢献した。最後の夏までに56本を積み上げ、プロから注目される選手へと成長した。

 目指しているのは、楽天・浅村栄斗内野手。広角に長打が打てる技術と、打点王2回を誇る勝負強さに魅了されており「チャンスに強い打者になりたいです」。勝負強さを手に入れるために意識しているのは、考え方だ。

「元々追い込まれると余裕がなくなり、焦ってしまっていたのですが、ビハインドとかチャンスで打席に立つなら、楽しんだ方が自分にとっても得だと感じるようになりました」。象徴的なのは、3年夏の埼玉大会5回戦、1点ビハインドの9回に立った打席だ。1度、左翼への大飛球がファウルになったが、打ち直しで左翼線への二塁打。その後同点のホームを踏み、チームの逆転サヨナラにつなげた。打席を楽しむことができた結果だった。

 ドラフトまで残り1週間を切った。「緊張しているんですが、自分の職業が決まるのもあるので楽しみです」と心待ちにする。昌平高での“気づき”を武器に、プロの舞台へ挑戦する。

○吉野創士(よしの・そうし)
2003年10月27日、千葉県浦安市生まれ。小学1年時に舞浜フェニックスで野球を始め、6年時にはマリーンズジュニアに選出。中学時代は硬式の東京城南ボーイズに所属した。捕手と外野を兼務してきたが、昌平高では外野に専念。主に3番を務めた。広角に長打が打てる打撃が持ち味で、高校通算56本塁打を誇る。遠投は105メートル。憧れの選手は楽天・浅村栄斗内野手。身長186センチ、体重79キロ。右投右打。(川村虎大 / Kodai Kawamura)