32年にわたるプロ生活で通算219勝を挙げたレジェンド・山本昌氏(元中日)が、今年もドラフト会議直前にプロ注目の好投手をアナライズ。甲子園不出場だった高校生と大学生・社会人・独立リーグのドラフト候補13名について語り尽くした。山本昌の20…

 32年にわたるプロ生活で通算219勝を挙げたレジェンド・山本昌氏(元中日)が、今年もドラフト会議直前にプロ注目の好投手をアナライズ。甲子園不出場だった高校生と大学生・社会人・独立リーグのドラフト候補13名について語り尽くした。

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甲子園出場は果たせなかったが、ドラフト1位指名候補の高知・森木大智

森木大智(高知高/184センチ・90キロ/右投右打)

 非常にまとまりのあるフォームで、高校生としては完成度が高いです。中学3年生時に軟式ボールで150キロを投げたと聞いて注目していましたが、順調に成長していると感じます。腕の振りの強さはストレートだけでなく、曲がりの大きなカーブ、抜けのいいチェンジアップにも生かされています。私が映像を見た高知大会準決勝(高知中央戦)では腕が出てくる角度が少し低いかなと感じましたが、これから体力をつけながら自然と上がってくると理想的です。今まで以上に角度がつき、ボールが走るようになるでしょう。いずれにしても、過去に評論した小園健太くん(市和歌山)、風間球打くん(ノースアジア大明桜)と「高校BIG3」と言われるだけの能力は十分にありますね。



今夏の東東京大会で152キロをマークした関東一高の市川祐

市川祐(関東一高/182センチ・80キロ/右投右打)

 今夏の東東京大会で152キロをマークして話題になったそうですね。剛腕タイプではなく、ホームベースに向かって真っすぐラインが取れていてコントロールもいい投手です。彼のすばらしい点は、リリース時に手首がしっかりと立つところ。腕が遅れて出てくる少し変則的なテイクバックですが、最後に手首が立つのでボールに強いスピンがかけられる。さらにチェンジアップのような縦変化の球種をコントロールできる利点もあります。あとは肩関節がもう少し回る余地があるので、うまく使えるようになるとさらにいいボールが投げられるはずです。



「和製ランディ・ジョンソン」の異名をとる八王子の羽田慎之介

羽田慎之介(八王子高/191センチ・85キロ/左投左打)

 今夏は左ヒジの状態が万全ではなく登板を回避したそうですが、これだけスケールの大きな左投手となると時間がかかるのは仕方ないと思います。上背があって、腕の振りが強く、やや横に近い角度から腕が出てくる。左バッターはとくに打ちづらそうです。ボールのシュート回転が少ない点もプラス材料でしょう。少し気になるのは、腕を振る際に顔を上下に振るクセがあること。この動作が入ることで、わずかなブレを生んでいます。岡島秀樹くん(元レッドソックスほか)のように首を振っても大成する投手もいますので、本人の投げやすい形を追求してもらいたいですね。いずれにしても粗削りな素材なので、時間をかけて力をつけていってもらいたいです。



中学時代は野球部に所属せずに両親と練習していた神村学園・泰勝利

泰勝利(神村学園高/173センチ・83キロ/左投右打)

 いかにも馬力がありそうで、さらにボールのキレも感じられる左腕です。上背はさほどありませんが、腕が上から出てくるので角度がある。縦に大きく割れるカーブは私好みの球種です。気になる点を挙げるなら、投球モーションの始めからかかと重心のため、体が捕手方向に近づきにくい投げ方になっていること。とはいえ実戦経験が浅いようですし、投手として本格的に開花するのはこれからでしょう。



大学野球選手権の上武大戦で14奪三振をマークした西日本工業大の隅田知一郎

隅田知一郎(西日本工業大/177センチ・76キロ/左投左打)

 バランスよくまとまった投球フォームで、ボールの走りも見事なサウスポーです。変化球のレベルも非常に高く、とくにチェンジアップはプロでも勝負球として使えるでしょう。また、西日本工業大という全国的には有名ではない大学から彼のようなレベルの高い投手が台頭してきた点にも驚かされます。今後は体重移動の距離をもう少し長く取れるようになると、ストレートのキレがさらに増すはずです。プロでも早い段階で先発ローテーションに入るだけの実力はあります。



最速152キロを誇る筑波大の佐藤隼輔

佐藤隼輔(筑波大/182センチ・82キロ/左投左打)

 今春のリーグ戦よりも、開幕戦で152キロをマークした今秋のほうが状態は上向きに見えました。彼の長所はテイクバックでボールが体からうまく離れて腕を振れるので、ストレートの走りがいいこと。軸足でしっかりと立てて、捕手に向かって真っすぐにステップできるので、コントロールを乱すこともなさそうです。少し気になるのは、スライダーを投げる際にわずかに腕が緩み、ヒジが下がる場面があること。ストレートと腕の振りが違えば、プロの打者は見逃してくれません。今後は改善してもらいたいです。



昨年秋のリーグ戦でMVP、最優秀投手賞、ベストナインに輝いた創価大・鈴木優斗

鈴木勇斗(創価大/174センチ・83キロ/左投左打)

 腕と足をゆったりと上げて、上背の乏しさを感じさせないダイナミックな投球フォームですね。彼の長所は体重移動する際に左腕がトップにあがってくるまでの間(ま)があること。ここで一瞬の時間があることで、力強いストレートが投げられます。はまった時のストレートは目を見張る反面、リリースのタイミングが合わないケースも目立ちます。伸びのある球とそうでない球の落差が出てしまうので、変化球の精度を含めて今後の課題になるでしょう。プロに入って本格的に技術を覚えてもらいたいですね。



木更津総合時代から評判の投手だった法政大・山下輝

山下輝(法政大/188センチ・100キロ/左投左打)

 木更津総合時代にも分析させてもらった大型左腕です。軸がブレないフォームで、カーブやツーシームといった変化球もしっかりと腕を振って投げられるので武器になるでしょう。独特の間があって、打者はタイミングを合わせにくそうです。テイクバックの動作が高校時代と変わっていて違和感を覚えたのですが、大学で左ヒジのトミー・ジョン手術を受けたそうですね。少し変則的な動きなのでスカウトによって好みが分かれそうです。私が映像を見た春のリーグ戦よりも夏場にかけてボールが走るようになったと聞きますので、秋のパフォーマンスが楽しみです。



今年春のリーグ戦で防御率0.70と圧巻の投球を披露した関西学院大の黒原拓未

黒原拓未(関西学院大/173センチ・76キロ/左投左打)

 体は大きくありませんが、左投手でコンスタントに145キロ超のストレートを投げられる存在は貴重です。カットボールが評価されているようですが、私としては大きく曲がるカーブを投げられる点を評価したいです。軸、ラインともしっかりしており、ホーム方向に真っすぐに踏み出せるので、ストレートに力があります。プロでは先発よりリリーフのほうが合っているかもしれません。プロで決め球の精度を高められれば、早い段階で1軍戦力になれるでしょう。



今年6月の大学選手権で154キロをマークした東北福祉大の椋木蓮

椋木蓮(東北福祉大/179センチ・82キロ/右投右打)

 サイドスローに近いスリークオーターの角度から、指にかかった時のストレートは目を見張るものがあります。先発タイプというより、ボールの勢いを生かして短いイニングを抑えるリリーフタイプでしょう。又吉克樹くん(中日)の若手時代のような、イキのいいピッチングに期待したいです。ストレートが時折抜けてシュートしながら高めに入ってくる悪癖の修正と、変化量のある球種を覚えて緩急差を使えるようになると、投球の幅がさらに広がりそうです。



社会人ナンバーワンの呼び声高い、三菱自動車倉敷オーシャンズの廣畑敦也

廣畑敦也(三菱自動車倉敷オーシャンズ/175センチ・83キロ/右投右打)

 ストレートを1球見ただけで、その馬力とボールの迫力に圧倒されました。変化球も縦のカーブと横に小さく曲がるスライダーがあって、プロでも十分勝負できそうです。体重移動の際にアゴが上がり空を向く独特のモーションですが、村田兆治さん(元ロッテ)のようにトップまでにアゴは戻ってくるのでまったく問題ありません。ただ、左ヒザが折れるタイミングが早いので、もっとスムーズに体重移動できる方法はあるのかなと感じます。



高岡商時代に大阪桐蔭から11三振を奪ったJR東日本の山田龍聖

山田龍聖(JR東日本/182センチ・80キロ/左投左打)

 高岡商にいた3年前、夏の甲子園で大阪桐蔭から11三振を奪った投手として印象に残っています。コンパクトで少し変則的なテイクバックですが、高い位置から左腕が出てくるので縦の角度をつけられるのが魅力です。はまった時の150キロ前後のストレートは非常に球威があり、カーブ、チェンジアップなどの変化球もこの高いリリースポイントだから投げられるのでしょう。高校時代から気になっているのですが、個人的にはもう少しテイクバックでボールが体から離れるといいと感じます。スペースができて、今以上に自然かつ力強く腕が振れるようになるはずです。



独立リーグ初のドラフト1位指名の期待がかかる火の国サラマンダーズの石森大誠

石森大誠(火の国サラマンダーズ/178センチ・80キロ/左投左打)

 プロのファーム相手にも通用していますし、独立リーグにこんな投手がいたのかと驚かされました。これだけ強く腕が振れるとボールは走りますし、スライダー、カーブ、チェンジアップと変化球もよく効きます。高い位置からボールが出てくる点も評価したいです。少し気になるのはかかと重心で投げているので、体の開きがわずかに早いところ。捕手に向かって真っすぐに力を伝えられるようになると、ボールが今以上に走るようになるはずです。

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 もし、私がプロ球団の監督として今年のドラフト候補のなかでひとり指名できるとすれば、春のセンバツ時に分析した小園健太くん(市和歌山)か、夏の甲子園時に分析した風間球打くん(ノースアジア大明桜)でしょうね。チーム状況に応じて、即戦力に近い投手を獲得するなら小園くん、2〜3年時間をかけられるなら風間くんにいきます。

 今回は13名しか分析できませんでしたが、全国には高い能力を秘める"隠し玉"もいるはずです。今年のルーキーたちのように、近未来のプロ野球を盛り上げてくれる新鋭がひとりでも多く現れることを願っています。