その小柄で金髪の選手は、Jリーグでも希有なプレースタイルの持ち主だ。完全な左右両利きなのだ。豊富な運動量でピッチのあち…
その小柄で金髪の選手は、Jリーグでも希有なプレースタイルの持ち主だ。完全な左右両利きなのだ。豊富な運動量でピッチのあちこちに顔を出してボールを受けてはさばき、左右両足から繰り出す長短のパスを自在に操ってチャンスを演出する。小泉佳穂はめざましい活躍によって、2021シーズン躍進を見せる浦和レッズの攻撃サッカーの欠かせない重要なピースとなった。日本代表でその奮闘を見る日もそう遠くはないだろう――。
■またたく間に浦和サッカーの不可欠なピースに
今季、小泉は開幕のFC東京戦で先発、J1にデビューした。ポジションはトップ下。「緊張した」と語るが、前半5分には山中亮輔からパスを受けると左足のスルーパスで杉本健勇を突破させ、ゴールを決めさせた。副審は旗を上げなかったが、VARチェックでオフサイドとされ、得点は認められなかった。
しかし後半29分、右CKを任された小泉はニアポストに走った明本考浩の頭に右足でピタリと合わせた。明本が流したボールを槙野智章がシュート、そのリバウンドを阿部勇樹が決めて浦和に待望の先制点をもたらした。小泉はその直後に交代、終盤に同点ゴールを許して1-1の引き分けに終わったが、スタートは上々だった。
その小泉がどんどん存在感を増していく。ロドリゲス監督は過密日程になると大胆なターンオーバーをするが、小泉には絶大な信頼を寄せている。先発させなくてもベンチに置き、勝負どころで投入するのだ。5月22日の神戸戦(ホーム)、浦和は今季初めて小泉を先発から外した。しかしハーフタイム後に小泉を送り込むと、前半は圧倒されていた試合が一変、試合のテンポが上がって2-0の勝利をつかんだ。6月23日の柏戦もまったく同じだった。この試合では、5月にデビューしてまたたく間にエースとなったキャスパー・ユンカーとともに後半16分に投入されると、たちまち試合を変え、これも2-0の勝利に結びつけた。
「小泉がいるときといないときでは試合が違い過ぎる。それをどう思うか」。ロドリゲス監督にこう質問をぶつけると、いつもストレートな回答をする監督には珍しく、言葉を濁し、「チーム全体で戦えている」などという話をした。それは、ロドリゲス監督自体が小泉を替えのきかない選手と認識している証拠だった。
■美しかったアビスパ福岡戦での左足ゴール
「ゴールが足りない」と言っていた小泉の浦和初ゴールは6月13日、ルヴァンカッププレーオフの神戸戦(ホーム)。序盤から果敢にゴールを狙っていた小泉だったが、前半16分、神戸の左CKを浦和がはね返したボールを神戸の酒井高徳がけり損なったところをすかさず奪う。そして自陣ペナルティーエリア前からそのボールを追って相手陣に進み、いちど左に走るユンカーにボールが渡った後も足を止めずに前進、そこにGKを引きつけたユンカーから「どうぞ」と言わんばかりのパスがきた。小泉は体を開き、左利き選手として左足で無人のゴールにボールを送り込んだ。
Jリーグでの初得点はさらに鮮烈だった。6月27日の福岡戦(ホーム)。前半11分、相手ペナルティーエリアの右前で右タッチライン際の西大伍から絶妙のポジショニングでパスを受ける。ボールタッチは左足インサイド。この瞬間の小泉は「右利き」だった。だが右前から福岡MF前寛之がくるのを見た瞬間に「左利き」にスイッチが変わる。
右足インサイドで左へ持ちだして前のタックルを誘うと、左足アウトサイドでそれをかわし、次の左足で相手ゴール方向にボールをもちだす。そしてペナルティーアークの前に侵入すると、左足で強烈なシュートをゴール右隅に叩き込んだのだ。
キック自体も本当に美しいものだった。左足を振り回したとか、左足でけったというようなものではなかった。腰を鋭く回転させてまず左の骨盤を強く押し出し、左足はその骨盤に引っぱられてついてくるような形でボールにミートしたのだ。筋力ではなく、自分の体がもっている力をすべてボールのミートポイントである左足インステップに集約させたキックだった。
それは、小泉佳穂というプレーヤーがいかにその体をうまく使い、自分のもっている力を無駄にすることなくプレーに結びつけているかの、何よりの証拠だった。そしてそうした能力と「完全左右両利き」という他に例のない能力が相まって、彼は能力を開花させ、急速にJリーグのトップクラスに躍り出たのだ。
■ヨシオはこれまでと違う「新しいサッカー選手」
私が見てきたJリーグの選手のなかで、実はもうひとり、「左右両利き」に近い選手がいる。それが、興味深いことに、7月に柏から浦和への移籍が決まった江坂任なのだ。江坂は本来右利きらしいが、左足でボールをキープ、ドリブルすることもできるし、左足でシュートを打つだけでなく、CKやFKを左足でけることもある。ロドリゲス監督は江坂を「小泉のポジションができる。小泉と並べて使うこともできる」と評している。
小泉は、狭い地域でパスを受けることもできるし、下がってパスを受け、たくみにターンしてスルーパスを出すこともできる。ポジションの的確さとタイミングは、文句のつけようがない。相手からボールを守ることだけでなく、相手からボールを奪うことにも長けている。当然、今後、日本代表からも声がかかるはずだ。そうなれば、中学生時代からの親友である坂元とコンビを組むこともあるかもしれない。
スルーパスやシュートなど勝利に直結するプレーだけでなく、小泉佳穂という選手の「完全左右両利き」という「新しいサッカー選手像」を見るだけも、浦和の試合を見に行く価値は十分ある。小泉が今季のJリーグ最大の驚きのひとつであることは間違いない。
以下は蛇足である。小泉に関して、私には小さな違和感がある。監督や仲間、チームスタッフから、「ヨシオ、ヨシオ」と呼ばれていることだ。何か、ロックに凝って髪の毛を金色に染めてしまった高校生の男の子を、親から頼まれ、親戚のおじさんが「ヨシオあのなあ、世の中はそんなに甘くないぞ……」と叱っているような印象を受けるのは私だけだろうか。私なら「ヨシ」と呼ぶが……。まあ、この呼び名は琉球時代からのものらしいし、サポーターたちも、オールドサポーターのおじさんおばさんたちも「ヨシオ」と呼ぶようになった現在、それは愛する「息子」に呼びかけるようでもあり、いまさら変えるのもおかしいかもしれないが。