その小柄で金髪の選手は、Jリーグでも希有なプレースタイルの持ち主だ。完全な左右両利きなのだ。豊富な運動量でピッチのあちこ…

その小柄で金髪の選手は、Jリーグでも希有なプレースタイルの持ち主だ。完全な左右両利きなのだ。豊富な運動量でピッチのあちこちに顔を出してボールを受けてはさばき、左右両足から繰り出す長短のパスを自在に操ってチャンスを演出する。小泉佳穂はめざましい活躍によって、2021シーズン躍進を見せる浦和レッズの攻撃サッカーの欠かせない重要なピースとなった。日本代表でその奮闘を見る日もそう遠くはないだろう――。

■必見の「のれんに腕押し」フェイント

 史上最多の20クラブ、全38節の長丁場で行われているJリーグ1部(J1)。その前半戦の最大の驚きは、新任のリカルド・ロドリゲス監督が戦術を浸透させて急速にチーム力を上げた浦和レッズに違いない。そしてその浦和のなかでまたたく間に成長し、いまや完全にチームの中心といえる存在になったMF小泉佳穂は、間違いなく、今季のJリーグで最も「見るべき」プレーヤーのひとりだ。その最大の強みは、サッカーでは希有の存在と言っていい「両利き」であることだ。

 初めて見る人は「左利き」と思うに違いない。彼は左足でボールを止め、右肩を前に出して左足でボールをもって顔を上げ、状況を判断する。相手の寄せを右半身で受け止め、左足を一振して決定的なパスを送る。

 だが次のプレーで、見た人は混乱する。彼は右足でもまったく同じようなプレーをするのだ。スペースを一気に突っ切る高速ドリブル。当たりにくる相手を右足アウトでかわし、次の右足インサイドで相手の背後にはいり込むと、そのまま右足を振り抜いてシュートを放つ。これが同じあの金髪の選手か、完全に右利きのプレーではないか……。

 「両利き」が最も力を発揮するのは、相手の逆をとってボールをキープし、小柄な小泉を体ごと押しつぶそうとする相手の圧力を「のれんに腕押し」のようにさらりとかわして前進するプレーだ。相手が当たりにくる方向に応じて右利きにも左利きにもなれる彼は、最初のコンタクトで優位に立ち、次には相手の動きを利用して自在に逆を取る。それはまるで、柔道の名選手を見るようだ。

■左利き右利きの不思議

 人間には「右利き」と「左利き」があり、それは主に手の話として語られる。基本的に「左右対称」につくられている人間の体。なのに使うのが得意な手とそうでない手があるのはとても不思議だ。脳に左右の別があることが由来だとする説、遺伝説、母親の胎内にいたときの姿勢に由来するという説、さらには生まれてからの習慣によるとする説など、さまざまな説が提唱されているが、まだ定説はないらしい。

 もうひとつの不思議は、「右利き」が圧倒的に多いことだ。左利きは全人類の10%しかいないという。英語でright(右、正しい)とleft(左、残されたもの)というような言葉があるように、古くから「右」を神聖とし、「左」を汚れたものとする風習があり、生まれてから左利きを右利きに直された例も少なくない。しかしそれ以前に、人間には左利きの割合は少ないのだという。

 よく世間で言う「両利き」は、本来は左利きで、ボールは左で投げるが、箸やペンは右手で使うというような例である。明らかに親のしつけ(あるいは強制)の結果であり、現在では、精神的に悪い影響を与えるということから推奨されていない。

 さて、サッカーで重要なのは足である。足にも右利きと左利きがあるのは、誰でも知っている。左利きの名手と言えば、マラドーナであり、メッシであり、日本で言えば名波浩、中村俊輔、本田圭祐、堂安律久保建英など、「天才」と言われたタイプに多い。こうした選手たちは、ほとんどのプレーを左足でプレーするイメージがある。1974年ワールドカップで世界を震撼させたオランダ代表のMFビム・ファンハネヘンは、「僕の左足は精密機械だが、右足はただの棒」と話していた。

■瞬間的にスイッチが切り替わる

 右利きだが、左足のキックもすごいという選手は少なくない。釜本邦茂がその好例だ。右利きで、右45度からのシュートは目をつむっていてもゴールの左隅にたたき込めると豪語していた釜本。しかしその右足が有名になると、DFたちは右足だけを抑えにくるようになった。そこで釜本が取り組んだのが左足のシュートだった。

 右で打つと見せかけて右足インサイドで左にボールを運び、左足を振り抜く。シンプルなプレーだが、釜本の右足へ恐怖が大きければ大きいほど効果があった。そして釜本の左足には、右足にない威力があった。右足では細かなテクニックが使えたが、左足はインステップで正確にボールを叩くことに特化していた。だから右足以上に強烈だったのだ。

 ペレも、幼いころ元プロサッカー選手だった父に「左足もけれるようになれ」と言われ、一生懸命練習した。そして左足でも強烈なシュートが打てるようになった。だがそれは、あくまで「右利き選手の左足キック」である。

 だが、小泉はこうした「両刀づかい」とは根本的に違う。彼は本来右利きとのことだが、サッカーをプレーするなかでは、瞬間的にスイッチが切り替わり、左利きになり、左利きとしか思えないプレーをするのである。現在のJリーグの選手たちの大半は利き足でないほうでも正確なキックができる。しかし小泉のような選手はほとんどいない。

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