「女性蔑視について話し合いが足りない」と語るたぬかな■たぬかなインタビュー後編 格闘ゲーム『鉄拳』の女性プロゲーマー、たぬかな。彼女は、国際大会で上位の成績を残してきたが、ゲームセンターに通い始めた中学時代から現在に至るまで、女性蔑視、誹謗…



「女性蔑視について話し合いが足りない」と語るたぬかな

■たぬかなインタビュー後編

 格闘ゲーム『鉄拳』の女性プロゲーマー、たぬかな。彼女は、国際大会で上位の成績を残してきたが、ゲームセンターに通い始めた中学時代から現在に至るまで、女性蔑視、誹謗中傷を受け続けてきた。

 eスポーツにおいて、その問題は根深い。eスポーツがリアルスポーツと決定的に違うのは、オンラインでも試合を行なえる点だ。オンラインのよさはプレーヤーとファンの距離感が圧倒的に近いことだ。ゲーム配信をする場合は、リアルタイムにコメントを書き込めるし、それに対してプレーヤーが即座に返答することも可能だ。さらに同じ大会に出場することもあり、プロゲーマーとファンが対戦することもありえる。

 しかし、その利点を利用して、女性蔑視的なコメントを書き込む人たちも一定数いる。

「一番困るのは、『無敵の人』ですね。自ら『僕は社会的地位はないし、無職だし、お金もない。訴訟をされても痛くもかゆくもないです』と言って開き直る人です。失うものがないから、誹謗中傷が止まらない。過去には不倫疑惑を書かれたことがあり、それを私の契約メーカーに何度も送りつけた人がいました。そのときは法的措置も考えて、警告文を出したんですが、『むしろ僕が攻撃されて傷ついたので、訴えます』と返される始末でした」

 このような警告文は所属チームを通して誹謗中傷のあった掲示板に掲載している。これによって一時的に沈静化するが、時期が経てばまた少しずつ増えていくのが現状だ。悪質なものについては、実際に訴訟を起こすべく弁護士と相談することもあるという。さらにたぬかな自身も、競技に集中するためにさまざまな工夫をしている。

「やっぱりネット断ちするのがよかったですね。それまでは掲示板を見ていたんですが、『本当に心が病んでしまうからやめなさい』とアドバイスを受けて、1年くらいネット断ちしたんです。それ以降だいぶ気持ちは楽になりましたね。

 また、私の配信まで来て誹謗中傷する人に対しては、早めにアカウントをブロックしちゃってますね。そんなことに気を使わなくてはいけないこと自体、おかしな話だと思います」

 実際のところ、ネットで活動するプロゲーマーやゲーム配信者が完全にネット断ちをすることは難しいため、見るべきものだけ見て、あとは排除するしかない。プロゲーマーやゲーム配信者にとって、ゲームを続けていくうえでの処方術を自ら作っていかなくてはいけないのが現実だ。

 またたぬかなは、これらの女性蔑視、誹謗中傷が常態化していることによって、新しい芽が摘まれている可能性を指摘する。

「女の子でゲームのうまい子に、『プロを目指してみない』と誘っても、『ネットで叩かれるからやりたくない』と言うんです。プロゲーマーどころか、顔出し配信も嫌だし、テレビやオンライン大会などの番組への出演も嫌がる人が多いんですよ。顔を出すと、信じられないくらいブスと言われるんですね。芸能人の女性とゲーマーが並んでいるだけで、『公開処刑』なんて言われます。実力があってもなくても関係ない。軽い気持ちで言ってしまえる雰囲気がネット上で作り上げられているんです」

 これらの女性蔑視問題は、たぬかな本人にとっても現在進行形だ。今もそれは止むことがない。今後自らも含め、女性ゲーマーがストレスなく、競技に集中できるよう、問題から逃げることなく、道を切り開こうとしている。今後の活動についてたぬかなはこう語った。

「ゲームが上手で頑張っている女の子はたくさんいますので、その存在をみんなに知ってほしいと思っています。私は女子チームを作りたいんですが、まずはそのチームを誹謗中傷から守りたいですね。好きなゲームを集中してできる環境を作ってあげたいなと思います。

 この先も女性蔑視は消えないと思います。今はまだ女性に対しての差別について男性側と話し合いができていないと思うんです。差別されていると思う点について、お互い意見を出してすり合わせていく。まずは身近なところからやっていきたいですね」

 eスポーツのよさは、男女区別なく競い合える点、オンライン対戦・配信が可能な点、ファンとの距離が近い点などだが、これら長所が他のスポーツに比べて女性蔑視が表面化しやすい素地になってしまっている。

 今はまだ女性ゲーマーの数が少ないため、表立って抗議する人は少ないが、女性の進出を拒むほどに深刻化している今、ファンの意識改革は最も重要なことだ。それと並行して、eスポーツの団体等による選手とファンの在り方についてのガイドライン作りを始め、プロゲーマーやゲーム配信者に対するメンタルケアもより必要になってくるのではないだろうか。

(前編はこちら)

【Profile】
たぬかな
1992年11月21日生まれ、徳島県出身。eスポーツチーム「CYCLOPS athlete gaming」所属。プレーゲーム「鉄拳」。中学時代から才能を発揮し、高校卒業後に日本人としては2人目となる女性プロゲーマーとなる。アメリカで開催された世界最大規模の格闘ゲーム大会「ComboBreaker 2017」の鉄拳部門で 3位となり、「TEKKEN World Tour Online(Asia-Pacific East)」で2年連続準優勝に輝くなど好成績を残す。