「スポーツ業界で働きたい!」と思っている学生や転職を希望している人が多くなる中、どんな職種があるの?どんなスキルが必要…

「スポーツ業界で働きたい!」と思っている学生や転職を希望している人が多くなる中、どんな職種があるの?どんなスキルが必要なのか?など分からないことが数あり、仕事の実際を知ることが意思決定には重要となる。そこで、スポーツを仕事としている人にインタビューし、仕事の“あれこれ”を聞く。
名前:星川太輔(ほしかわ・だいすけ)さん 職業歴:2000年〜
仕事内容 ・トラックマンの野球部門責任者 ・新規事業コンサルティング ・野球振興活動
取材・文/佐藤主祥
2015年冬からトラックマンの営業・保守活動を始めた星川太輔さん。はじめに行ったのは、すでにトラックマンを導入していた東北楽天ゴールデンイーグス以外のプロ野球球団への営業。当時、トラックマンはまだ国内での知名度は低かったため、各球団との交渉は長引き、導入に至るまでに、約1年もの歳月を要したという。
「トラックマンは、当時メジャー全30球団が導入していたので、アメリカの人はみんな知っているんです。でも日本ではほとんどの人が知りませんでした。だからトラックマンがどういう機械なのかを、イチから説明する必要がありました。
例えば、投球におけるボールの回転数や速度、打球の角度や初速・終速など、さまざまなデータを読み取ることができますよ、と。それによって野球用語で用いられる“キレ”や“伸び”という表現を言語化することが可能になる。加えて、細かいデータを取ることにより、各選手の強化・育成にもつながる。導入することによるメリットを説明していきました」
しかし、球団と交渉するだけでは契約することはできなかったという。なぜなら、自前の球場でない限りは、球団と球場は別会社。トラックマンは球場に設置しなければならないため、球場を管理する会社とも交渉する必要があったのだ。
「球場によっては設置するにも場所が限られているので、交渉が難航してしまうんです。“ここなら付けていいですよ”と言われたとしても、こちら側の設置条件が合わなければ質の高い良いデータが取れないので。だから球団によっては、契約するまでに1年以上かかってしまいました」
契約を結ぶまでの1年間は収入がなかったため、スポーツ界への新規参入調査などのコンサルティング事業などで生計を立てていたという。
「トラックマンは買って終わりではなく、1年毎の契約なので、球団には毎年お金を支払っていただく形になります。だから我々としては、契約後は設置してからのサポートが大事になるわけです。
今は40人のアルバイトを雇っているのですが、毎試合、1球場に1人、トラックマンを管理するオペレーターを派遣しています。年間で1球場に1人の担当だと絶対に回らないので、1球場だいたい5〜6人でシフトを組んで回しています。サポート体制がしっかりしていないと、毎年契約を更新してもらうための信頼を得ることができません」
2018シーズンまでは球団のサポートに従事した星川さん。19シーズンからは、さらにサービス展開を進めトラックマンの事業規模を拡大していった。
余談ではあるが、2019シーズンのプロ野球は、開幕戦で福岡ソフトバンクホークスの千賀滉大が161キロを連発。4月6日には横浜DeNAベイスターズの国吉佑樹が同じく161キロをマークし、話題になっていた。
これは、いずれも従来のスピードガンではなく、トラックマンが測定した数値。これまでテレビや球場のスコアボードに表示されていた球速はリリース直後の初速を示したものだが、スピードガンは設置している場所によって測定地点が変化してしまうのに対し、トラックマンが設置している球場では同じ基準での球速になるので球場毎のスピードの差が発生しない。設定すればスコアボードにも表示が可能だという。これは、選手にもファンにとっても望ましいことだ。
今後プロ野球だけではなく、独立リーグやアマチュア野球にも導入されていけば、日本野球界のさらなる発展が現実味を帯びてくるのではないだろうか。現在は、東京六大学野球や都市対抗でトラックマンのデータが活用されていて、選手にデータが提供されテレビ画面にもデータ表示がされ始めている。そこまで注目されなかった選手が想像以上の数値を計測したことで一気にドラフト注目の選手に評価が変わったこともある。時間がかかるかもしれないがアマチュア界への普及には期待が高まるばかりだ。あわせて星川さんはアナリストの育成にも力を入れていきたいという。
「いくら計測機器が発達してもそれを理解して現場に伝えられる人が増えないと結果として野球界が発展していきません。アメリカ(MLB)との差は拡まるばかり、これは日本野球界の大きな課題の一つだと思います」 星川さんは、トラックマン事業以外にも行っている活動がある。それは、スポーツ教室やイベントを開催している、一般社団法人Double Education (ダブルエデュケーション)による野球普及活動。同法人の代表理事を務め、活動を通じて子どもたちが野球に触れられる機会を作っている。
「もともとは大学時代の後輩がやっていた活動を、僕が引き継ぐ形で始めました。上原浩治さん、高橋由伸さん、川﨑宗則さん、和田毅さん、杉内俊哉さん、斎藤佑樹さん、杉谷拳士さん、小林誠司さん、野村祐輔さんなど、プロ野球界のトップレベルの方たちと一緒に野球教室やイベントを行っています」
プロのスポーツ選手と直接触れ合い、さまざまな学びが得られるような場を提供することで、子どもたちに夢を与えていきたいと話す。さらに、そういった活動を含め“将来の子供たちのことを考えた野球の普及・発展にはさらに力を入れていくべき”と力強く語り、こう続けた。
「今の野球界はさまざまな問題を抱えていて、特に少年野球における子どもたちへの指導方法や大会運営の仕方は、できるだけ早く変えなければいけません。というのも、小学校や中学校の大会って、全部トーナメント制じゃないですか。そうすると、負けられない戦いがずっと続くことになるので、毎試合レギュラーメンバーを起用し、エースを投げさせざるを得なくなります。
体の成長が不十分な子どもが投げ続ければ故障の原因にもなりますし、一方で試合に出場できない選手は実戦経験を得られず、野球をやめちゃう可能性だってあるわけです。加えて、たくさんのポジションを経験できないことが原因で、適性のある場所を見つけられないまま埋もれてしまう選手も増えてしまう。競技人口の減少や、肩や肘などの故障の増加を食い止めるには、そういった環境や指導方法を見直す必要があると思います」
加えて社会人野球チームが減少する中、都市対抗野球出場を目指して新しく発足されたチームのサポートも行っている。現在は、建設業を主に行う『日本晴れ』が、Nbuy(エヌバイ)という野球チームを立ち上げ、日本野球連盟(JABA)に登録申請中だ。
「携わらせていただく中で、野球をもっと続けたいのに様々な理由でやれる環境が周りにない、苦しんでいる選手が多いという現状を肌で感じ、“彼らに野球を続けられる環境を整備してあげたい”と、心から思うようになりました。その環境を構築したいという日本晴れの築山社長の想いには、とても共感しています。もちろん、これまでと同じやり方では難しいと思いるので、運営側も規制緩和やルール変更が時代に合わせて必要だと思います」
“野球が好き”という気持ちが根底にあるからこそ、トラックマン事業を含め、野球界の変革・改善をするための取り組みを行っている星川さん。最後に、この仕事に就くために必要なことを聞いた。
「スポーツ界の課題を自分なりにどう感じているか、そしてそれを解決するためにどういう立ち位置で仕事をしたいのかだと思います。今の自分、もしくは将来の自分に必要なスキルを見極めて、そのスキルが無いなら2~3年で身につければいいと考えています。
ただ20代なら、すぐにでも海外に行きスポーツビジネスの現場で経験を積むことを勧めたいです。その上で、日本のスポーツ界に活かせる部分があれば活かせば良いと思います。また英語も重要です。私は留学経験も駐在経験もないので、今でも英語に苦労しています。毎日勉強していますが下手です(笑)。
スポーツの世界ではデータアナリスト以外にもさまざまな仕事があります。どれが自分にフィットするかは実際やってみないとわかりません。SNSも発達しているので、関連する仕事をしている人に積極的にアプローチして交友を深め、人生を切り開いていって欲しいです」
(プロフィール) 星川太輔(ほしかわ・だいすけ) 1976年生まれ、東京都出身。慶応義塾大学進学後、卒業後は株式会社アソボウズ(現データスタジアム株式会社)に入社し、データアナリスト、プロスポーツチーム向けコンサルティング事業を担当。2009年の第2回WBCではデータ分析担当としてチーム帯同し侍ジャパンの優勝にも貢献。同年にデータスタジアムを退社後、商社(株式会社ミスミ)での勤務を経て株式会社リバー・スターを設立し代表取締役に就任。トラックマンの野球部門責任者を務める他、野球の普及活動にも取り組んでいる。
※2021年5月27日時点