かつてJEF千葉に身長204センチのFWオーロイがいたころ、ヘディングの競り合いで、身体に足をかけてよじ登ったDFが…

 かつてJEF千葉に身長204センチのFWオーロイがいたころ、ヘディングの競り合いで、身体に足をかけてよじ登ったDFがいたのには驚いた。彼はJリーグ史上で最長身の選手であり、フィールドプレーヤーとしては世界でもっとも高いと紹介されていた。同チームだった166センチの町田大和(現在は大分トリニータ)と並ぶと、倍以上は高く感じたものだ。そんなわけはない? でも、身長はサッカーでもっともいいかげんなデータなのである。

■4か月間で20センチ伸びた

 1993年に日本でFIFAのU-17世界選手権(現在のFIFA U-17ワールドカップ)が開催された。その大会では、出場各国に選手の身長と体重を登録させたのだが、ナイジェリアのヌワンコ・カヌ(プログラム上では「ウワァンコ・カヌ」となっている)という選手の身長と体重が176センチ、78キロとなっていた。

 ところがチームが来日してみると、この選手がとてつもなく大きい。本人に聞くと、197センチあるという。予選時から急激に伸びたのだろうか。だがタケノコやアスパラガスではあるまいし、この年の4月の予選から大会が行われた8月までわずか4カ月間で20センチも身長が伸びるというようなことがあるはずがない。

 この大会の年齢制限は現在のように1月1日ではなく、欧州諸国の慣習に基づいて8月1日で区切られていた。1993年U-17世界選手権の出場資格は、1976年8月1日以降生まれの選手。センターフォワードとして大活躍し、ナイジェリアを優勝に導くことになるカヌは、もうひとりの攻撃の中心であるドリブラーのイブラヒム・ババンギダとともに、ぴったり1976年8月1日生まれと登録されていた。あるFIFAの技術委員は、17歳になったばかりというのに、ババンギダにはすでに4人の子どもがいるらしいと教えてくれた。

■サッカーで身長と体重の公開は必要か

 さて、今回のテーマは、サッカー選手のプロフィールに「身長・体重」のデータは必要だろうかということである。私自身、選手を紹介するとき、記事のなかによく身長と体重のデータを入れる。それによって読者が選手のイメージを結びやすくなるのではないかと思うからだ。そして試合を見ながら、「あの選手は何センチあるんだろう」とメンバー表を出して確認したり、「平均身長185センチを超す相手DFラインに競り勝って、ヘディングでゴールを決めた」などと書くこともある。

 しかし最近、さまざまな競技で選手の身長と体重を非公開にしているという記事を朝日新聞で読んだ。身長や体重が競技の本質と関係があるかないかを検討し、関係がないと判断されたものは非公開にしているというのだ。身長・体重を公表することで「ネットでの誹謗(ひぼう)中傷や誤った情報拡散」につながるからだという。とくに近年、女子選手にその被害が多いという。

 サッカーでは、なでしこジャパンもなでしこリーグも、そして新しくできるWEリーグも、すべて現時点では身長も体重も公開である。

 だが、私がオレギ先生に「コパも小さかったよ」と励まされたときに感じたように、「このデータって、必要なの?」と思っている選手が少なからずいるに違いない。私自身、よく「長身DF」とか「小柄なFW」とか書いてしまうが、よく考えると、サッカー選手としての技量や個性は、背が低いとか高いとかで表すことは適当ではないような気がする。

■オーバーヘッドが得意な202センチ

 たとえば背が高くてヘディングが強ければ、単に「ヘディングが得意」とか、「打点の高いヘディングでたびたびゴールを陥れる」と書けばいい。実際のところ、背は高いのにヘディングが苦手な選手もいる。

 2006年ワールドカップ(ドイツ大会)に出場したイングランド代表に、ピーター・クラウチというストライカーがいた。身長202センチ。まさに「塔」である。だが若いころのクラウチはヘディングが得意ではなく、むしろオーバーヘッドキックのようなアクロバチックなプレーを得意にしていたという。

 1999年にFIFAワールドユース選手権(現在のFIFA U-20ワールドカップ)に出場、1次リーグ最終戦の日本戦にも、日本が2-0とリードした後の後半7分から交代出場した。「でかいやつが出てきたな」という印象はあったものの、辻本茂輝、手島和希、中田浩二で組んだ日本の「フラットスリー」を脅かすには至らなかった。アディショナルタイムにはいってヘディングシュートを1本放ったが、南雄太が安定したセービングで弾き出した。

 その一方で、背は高くなくても圧倒的なヘディングの力をもった選手もいる。私の身近では、『サッカー・マガジン』の編集長を長く務めた故・千野圭一さんがそうだった。千野さんは身長は私とさして変わらなかったが、ジャンプ力があり、ヘディングは非常に強かった。

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