ヨーロッパナンバーワンを争うに、ふさわしい2チームが激突する。 今季のチャンピオンズリーグでベスト4に進んだのは、レア…
ヨーロッパナンバーワンを争うに、ふさわしい2チームが激突する。
今季のチャンピオンズリーグでベスト4に進んだのは、レアル・マドリード(スペイン)、パリ・サンジェルマン(フランス)、マンチェスター・シティ(イングランド)、チェルシー(イングランド)だった。決勝に進んだのはシティとチェルシーで、イングランド勢の対決が実現する運びとなった。
この2チームにとって、今季は大きなプラスアルファがあった。その存在なくして、ビッグイヤーを争うファイナル進出はあり得なかった。
■チェルシーにもたらされた新布陣と戦い方の幅
チェルシーは今季半ばに監督交代を断行している。フランク・ランパード監督に別れを告げ、トーマス・トゥヘル監督を招へいした。
フットボールの世界では成績不振の際、往々にして監督交代が行われるが、結果は保証されない。2015-16シーズン、ラファ・ベニテス監督に替えてジネディーヌ・ジダン監督を呼んだR・マドリード、2019-20シーズンにエルネスト・バルベルデ監督に替えてキケ・セティエン監督を据えたバルセロナがどうなったかは、ご存知の通りだ。
チェルシーは賭けに勝った。トゥヘル監督就任後、プレミアリーグ第30節でウェスト・ブロムウィッチに敗れるまで、14試合無敗を維持した。チャンピオンズリーグでは、アトレティコ・マドリード、ポルト、レアル・マドリードを次々に撃破してファイナルに駒を進めた。チェルシーにとって、クラブ史上3度目のチャンピオンズリーグ決勝進出だ。
トゥヘル監督は【3-4-2-1】への布陣変更を決断している。【5-2-2-1】と併用しながら、対戦相手によって選手の配置を入れ替え、バリエーションに富んだ戦い方をする。スピードのあるティモ・ベルナー、万能型のストライカーであるオリビエ・ジルー、中盤が本職のカイ・ハバーツのゼロトップと、最前線の起用からも非常に幅があると見て取れる。
ボランチのポジションはジョルジーニョ、マテオ・コバチッチ、エンゴロ・カンテが分担する。カンテラーノのビリー・ギルモアにもプレータイムを与えながら、トゥヘル監督は全体の底上げを意識してきた。
近年では2度、欧州の頂に近づいた。実際、2011-12シーズンには、ロベルト・ディ・マッテオ監督率いるチームが決勝でバイエルン・ミュンヘンを破り、ビッグイヤーを獲得している。一方で、苦い思いをしたのが2008-09シーズンだ。バルセロナとの準決勝で、セカンドレグの終了間際にアンドレス・イニエスタに得点を許して敗れた。「イニエスタッソ」と称される伝説的なゴールは、ファンの間で語り草になっているが、その時にチェルシーの前に立ちはだかったのが、現在マンチェスター・シティを率いるジョゼップ・グアルディオラ監督である。
■シティ躍進に欠かせなかった腹心
グアルディオラ監督は2016年にシティの指揮官に就任した。バルセロナとバイエルンでのキャリアを携えて、“常勝軍団”を築き上げるためにイングランドに到着した。
現在のシティの主力を見れば、ケビン・デブライネ(移籍金7500万ユーロ)、ベルナルド・シウバ(5000万ユーロ)、ルベン・ディアス(6800万ユーロ)と高額な移籍金で獲得した選手が大半だ。資金力がなければ、ペップ・シティが成立しなかったのは確かだろう。
だが、「金にモノを言わせる」チームビルディングを行ってきたわけではない。今季は【4-3-3】と【4-4-2】を使い分けながら、着実に勝てる組織を構築した。デブライネとB・シウバを2トップ化するシステムでビッグマッチを制してきた。「ボールを握りながらの勝利」と、「ボールを譲りながらの勝利」を両立させてきたのだ。
また監督目線でいうなら、重要だったのはアシスタントコーチを務めるフアンマ・リージョの存在だ。
この2人は古くからの関係だ。グアルディオラ監督が現役時代の最後に過ごしたドラードスで指揮を執っていたのが、リージョだった。2003年にバルセロナで会長選が行われた際には候補者のルイス・バサットが、スポーツディレクターにグアルディオラを、監督にリージョを据えるプランを掲げた経緯がある。
「リージョの影響がなければ、我々は首位に立っていない」とはグアルディオラ監督の弁である。「リージョは私を完全に理解している。私が何を求めているか、その時々で分かっている。リージョには特別なセンスがあり、試合や状況を読むことができる。それは私でさえできないことなんだ」
トゥヘル監督にとっては、昨季のパリ・サンジェルマンに続いて、2年連続のチャンピオンズリーグ決勝だ。グアルディオラ監督にとっては、2010-11シーズンのバルセロナ指揮時以来のファイナルになる。
監督にとって、クラブにとって、大きな大きなタイトルだ。目指すは、勝利のみ――。知的な攻防戦が、ポルトガルの地で繰り広げられる。