まだ全日程の3分の1ほどを消化しただけだというのに、J1は早くも首位攻防の決戦を迎えることとなった。中盤の攻防のカギを…

 まだ全日程の3分の1ほどを消化しただけだというのに、J1は早くも首位攻防の決戦を迎えることとなった。



中盤の攻防のカギを握る、名古屋の稲垣祥(写真左)と川崎の田中碧(同右)

 首位を走る川崎フロンターレと、勝点3差で追走する名古屋グランパスとの直接対決である。もともと5月4日に、第12節の川崎ホームでの一戦が組まれていたのだが、ACL(AFCチャンピオンズリーグ)の日程変更の影響によって第22節が前倒しで4月29日に行なわれることになり、大型連休中の「直接対決2連戦」が実現したのだ。

 しかも、4月29日の"ファーストレグ"まで名古屋の場合は中6日、そして川崎はなんと中10日もの準備期間が与えられた。3月の代表ウィーク以降の連戦でため込んだ疲労からリカバリーし、さらに十分な戦術的な準備も行なえる状況が整ったのだ。フレッシュなチーム同士のハイレベルな戦いとなるのは間違いない。

 何よりも興味深いのは、両チームのコンセプトが対照的であることだ。

 川崎は超攻撃的なサッカーを目指している。12試合を終えて得点はすでに30ゴール。「1試合平均2.5点」である。J1で現在2番目に得点を決めている横浜F・マリノスが20ゴールだから、「30」という数字がどれほど突出しているかがわかる。

 一方、名古屋は12試合を終えてJ1最少の3失点。第10節のサガン鳥栖戦で2失点を喫したが、それまでは開幕節のアビスパ福岡戦でのオウンゴールによる失点のみの堅守ぶり。12試合中、なんと10試合でクリーンシートを達成しており、「ウノゼロ」(※1-0。守備にこだわるイタリアから来た勝利の美学)という勝利の方程式が確立されている。

 つまり、最大の見どころは「最強の盾(名古屋の守備)が最強の矛(川崎の攻撃)を抑えきれるかどうか」である。

 昨シーズンも全34試合で88ゴールを奪って、圧倒的な強さで優勝を決めた川崎だが、その攻撃力は今シーズンさらに凄みを増した。

 最大のプラス材料は田中碧の成長だ。中盤でのボール奪取能力もさらに上がったし、中盤から前線の選手の足元にズバッと付けるボールの正確さとパススピードには、目を見張るものがある。3月にはU-24日本代表のアルゼンチン戦(第2戦)でもボランチとしてプレーし、日本の攻撃のタクトを振るった。今や、Jリーグ屈指のMFと言って過言ではない。

 その代表戦以降の連戦にほぼフル出場した田中は、さすがにこのところ疲労をためていたが、名古屋戦ではすっかりフレッシュになった状態でその能力を発揮できるだろう。

 名古屋としては川崎の攻撃を抑えるために、なんとしても田中を止めなくてはならない。

 しかし、名古屋には3月に日本代表デビューも果たした稲垣祥や、米本拓司という守備力のあるMFがそろっている。この2人が田中、脇坂泰斗、ジョアン・シミッチといった川崎のMFとどのようなバトルを繰り広げるのか。この中盤での戦いこそが「直接対決」の勝敗を決することになるだろう。

 川崎は両サイドからの攻撃も強力だ。右サイドハーフのポジションでは家長昭博が起点となって、彼のビジョンがゲームをつくる。そこに田中や脇坂らのインサイドハーフが加わり、さらに右サイドバックの山根視来がタイミングを見て攻撃参加。ここで繰り広げる狭いスペースでのパスワークは、「わかっていても止められない」だけのクオリティがある。

 山根は3月に日本代表に初めて選出されて韓国戦で先制ゴールを決めたが、ボックス内に進入してフィニッシュに絡んだプレーは、まさに川崎でのプレーそのままだった。

 一方、川崎の左サイドは縦への速さと鋭さが武器だ。昨シーズン、ルーキーイヤーで13ゴールを決めた三笘薫は、そのドリブルによって1人で試合の流れを変えることができる。その三笘をサポートするのが、サイドバックの登里享平。昨シーズン終盤から長期離脱していたが、復帰すると縦への鋭い攻撃参加によって川崎の攻撃をさらに活性化させた。

 堅守を誇る名古屋としても、両サイドが守備に回ってしまうと川崎の攻撃を180分間(2試合)にわたって抑えつづけるのは至難の業だ。

 しかし、名古屋の両翼にはスピードを生かして相手守備ラインの裏を取るのがうまい、相馬勇紀やマテウス、前田直輝といったサイドアタッカーがそろっている。彼らを生かして、川崎のサイドバックが守備に回る時間を長くすべきだろう。

 というのも、川崎には守備面で一抹の不安を抱えているからだ。

 もちろん、川崎は守備力も高い。最前線のレアンドロ・ダミアンをはじめとする前からのプレッシングは強力。また、パスサッカーを追及するだけあって相手のパスコースを読む「目」を持っているから、中盤で相手のパスを分断できる。

 したがって、川崎の守備が機能している時間帯は、相手チームはハーフラインを越えて川崎陣内にボールを持ちこむことすらできなくなってしまう。

 だが、川崎は12試合で8失点しているのも事実だ。

 たとえば、直近の第10節サンフレッチェ広島戦でも川崎のプレッシングは効果的で、前半は広島に自陣への進入を許さず、1本のシュートも打たせなかった。あの青山敏弘が前を向いてボールを持ってもパスコースが見つからず、バックパスせざるを得ない場面が何度もあった。

 だが、川崎は65分に広島のジュニオール・サントスに裏を取られて独走を許し、こぼれ球を森島司に決められてしまった。川崎の典型的な失点パターンである。

 マテウスや相馬、前田といった名古屋の裏抜けの名人たちが、その川崎の弱点を突けば必ず得点チャンスは生まれるはずだ。

 両チームのプレースタイルから考えて、川崎がボールを保持して攻める時間が長くなるのは間違いない。だが、名古屋守備陣がホーム豊田スタジアムでの"ファーストレグ"を無失点で切り抜けたとすれば(アウェーでのスコアレスドローは勝点でリードしている川崎にとっても悪い結果ではない)、ホームに戻った川崎は「超攻撃的の看板にかけても得点しよう」と攻撃の意識がさらに高くなるはず。

 そこで、川崎の最終ラインが前がかりになった瞬間に、名古屋のスピードスターたちがうまく裏を取れれば、名古屋はアウェーで「ウノゼロ」の勝利をものにできる。

 つまり、もし名古屋が川崎の攻撃力を180分間完封できれば、名古屋は2試合で勝点4以上を手にして、勝点で川崎に並ぶことができるわけだ。

 だが、第10節で鳥栖が名古屋にやったように、川崎が高い位置でのプレッシングによって名古屋を押し込み、早い時間に得点できれば、川崎が複数得点で名古屋を粉砕し、2連覇に向けて大きな一歩を踏み出すこともありうる。

 川崎の攻撃力が上回るのか、それとも名古屋の守備がそれを抑えられるのか......。今シーズンの優勝の行方を占う「天王山」に大いに注目したい。