「前半は、日本のプレースピードがスローだったと言わざるを得ない。必要以上に手数をかけすぎていた。結果として、相手に守備陣…

「前半は、日本のプレースピードがスローだったと言わざるを得ない。必要以上に手数をかけすぎていた。結果として、相手に守備陣形を作る余裕を与えてしまっていた」

 スペインの目利き、ミケル・エチャリは、日本がモンゴルに14-0と大勝した後、真っ先にそんな指摘をしている。大量得点=完璧な勝利。その図式は必ずしも成り立たない。

 長らく日本代表をスカウティングしてきたエチャリは、森保一監督が率いる日本の戦いをどのように見たのか?

「日本は韓国戦から両サイドバックだけ変更し、同じ4-2-3-1のシステムで臨んでいる。序盤から試合を支配。モンゴルとの戦力差は誰が見ても明らかだった。

 日本の試合の入り方は、落ち着いていたというようにも映った。しかし、プレーがスローだった、というほうが正しい。ボールをゆっくり動かし、人数をかけて崩す、という姿勢は必ずしも悪くはないが、単純に相手に、守備を整える時間を与えてしまっていた。



モンゴル戦でも日本の攻撃のキーマンになっていた鎌田大地(フランクフルト)

 いい動きを見せたのは、鎌田大地だろう。

 韓国戦もキーマンのひとりだったが、サイドに流れるような動きで、うまくスペースを作っていた。どこでボールを受け、どこにボールを運べば相手が苦しむか、よくわかっているのだろう。次のプレーを読めることで、相手ボールを奪うようなプレーも見せられた。そしてキックの精度も出色で、シュートの場面でも落ち着き払っていられる。プレーを動かせる選手だ。

 しかし、チームとしての戦い方に着目すると、改善の余地があった。

 前半13分、左サイドバックの小川諒也のクロスを右サイドバックの松原健が拾い、それを中央に入っていた南野拓実が受け、左足でゴール左隅にコントロールして先制。この後、前半だけで4点を追加した。

 しかし、攻撃のテンポはあまり上がらなかった。

 6-3-1のような陣形になったモンゴルを相手に攻めあぐねた、というよりも、自らプレーを複雑化していた。サイドバックが高い位置でプレーし、サイドアタッカーが中に入って、攻めの人数を増やす戦い方が悪いわけではない。しかし、十分にサイドの選手で攻め崩せる相手だったはずだ」

 エチャリは厳しい指摘をしつつも、後半のプレーについては高い評価を与えている。

「後半、日本は守田英正を下げ、浅野拓磨を投入している。フォーメーションも、4-2-3-1から4-1-4-1に変更した。遠藤航がアンカーで、伊東純也、鎌田、南野、浅野の4人が並び、前線に大迫勇也という形になった。

 森保監督が振ったこの采配は、大きく功を奏している。

 日本は後ろを軽くしたことで、ボールが前に速く入るようになった。技術レベルが高い選手たちがコンビネーションを使い、幅を取りながら、深みを作るようになる。相手ペナルティエリアでのプレーが増え、攻撃が活性化した。

 後半は、吉田麻也が伊東をめがけて出した縦パスなど、前への推進力が出た。その点、伊東の右サイドでのスピードを生かした攻め上がりは際立っていた。それによって、左サイドの浅野も躍動を見せる。結果、モンゴルは守備が手いっぱいになり、トップ下の鎌田が左に流れると、折り返したボールを大迫が叩き込んだ。

 これを口火に、後半だけで9得点が決まった。完全にラインを押し下げたことによって、ミドルシュートも面白いように決まるようになった。

 今後も、さまざまな戦況が考えられるだろう。その点、4-1-4-1での戦いはひとつのバリエーションになるかもしれない。前線の選手の躍動が印象的だった」

 エチャリは14-0という分析が難しい試合から、収穫を導き出している。

「試合結果そのものは大差がついて、大勝したという結果で、それ以上でも、以下でもないだろう。率直に言って、モンゴルに日本と戦うだけの力はなかった。

 しかし、その中でも、森保監督は前半から後半にかけてプレーを改善させている。迅速に、最短距離でボールを入れ、サイドから深みをつけることで、波状攻撃を生み出すことに成功。大勝に隠れがちだが、その采配は見事だった」

 エチャリは、変化・修正の重要性を強調した。それは次につながるアプローチなのだろう。次の代表戦は「6月シリーズ」だ。

「モンゴル戦のような楽勝ムードでも、テンポを落とさずに、むしろプレーを楽しむことができた。それは、次の試合への準備にもなったと言えるだろう。結果がポジティブだっただけでなく、内容的にも実りがある試合だった」