世界選手権女子シングルSPで唯一80点台を出し、トップに立ったアンナ・シェルバコワ 最新のフィギュアスケート女子勢力図は明白だ。〈ロシア勢は底が知れない!〉 その警戒心と畏敬の念は、もはや世界中で定着しつつあるだろう。2018年平昌五輪金メ…



世界選手権女子シングルSPで唯一80点台を出し、トップに立ったアンナ・シェルバコワ

 最新のフィギュアスケート女子勢力図は明白だ。

〈ロシア勢は底が知れない!〉

 その警戒心と畏敬の念は、もはや世界中で定着しつつあるだろう。2018年平昌五輪金メダリストのアリーナ・ザギトワや銀メダルのエフゲニア・メドベージェワを飲み込むように、次々と新世代が台頭しつつあるのだ。

 そして今回の世界選手権でも、ロシア旋風が起きようとしている。

 3月24日、スウェーデン・ストックホルム。女子シングルのショートプログラム(SP)で、16歳のアンナ・シェルバコワが81.00点を叩き出し、世界ランキング1位の紀平梨花を抑えて首位に立っている。

「コロナ前の状態にコンディションを戻すのは、とても大変でした」

 シェルバコワはそう明かしているが、その苦労話を疑ってしまうほど、完璧に近い演技だった。大技トリプルアクセルを跳んだわけではない。しかし演技全体に漂う気配は完全無欠だった。悲しみを拾い集めたような曲『エレジー』をひとつの作品として完成させていた。

 ロシア選手権3連覇の称号は伊達ではない。

「自分のことはファイターだと思っています。もっとキャラクターを見せる必要があるって。瞬間、瞬間を戦わないといけない。普段は寡黙で、小さく、壊れそうに見えるかもしれませんが、氷の上ではすべてを見せられるようにしないと」

 シェルバコワは言う。

 26日のフリースケーティングでは、4回転ルッツ、4回転フリップの大技も引っ提げ、勝負することになるだろう。全日本連覇の紀平との一騎打ちになるか。

「こうしてこの舞台で競えていることが、まず一番うれしいですね。(25日は)ショートとフリーの間にある練習日なので、休む時間と練習時間、そしてフリーについて考える時間を確保できます。フリーに向け、いい準備(集中)ができるのではないかと思います」

 初の世界制覇に向け、シェルバコワは虎視眈々だ。



SP3位のエリザベータ・トゥクタミシェワ。2015年ぶりの世界選手権出場

 一方、15年に世界選手権で優勝を遂げたエリザベータ・トゥクタミシェワの"復活"は、ロシア勢の底力を示している。

 優勝以来の出場となった今大会で、トゥクタミシェワは78.86点を叩き出し、3位と好スタートを切っている。世界女王になったときに成功した"伝家の宝刀"トリプルアクセルは、今回も難なく着氷。1.71点のGOE(出来ばえ点)を獲得した。また、3回転ルッツ+3回転トーループのコンビネーションでも高得点を叩き出している。

 何より、24歳と円熟味を増した演技は、彼女だけのものだろう。黒いシースルーの衣装は、大人の色気がないと似合わない。

「コロナ禍で、どれだけ自分がフィギュアを愛しているか、それを再確認できました」

 トゥクタミシェワはそう言って、コロナ禍による心境の変化を語っている。

「滑れない期間は、何度も何度も(フィギュアを)恋しく思っていました。家の中にずっとこもっている間、人生について考える時間もあって。そう考えてみると、悪い時間でもあり、よい時間だったかなと思います。なぜなら、スケートができないことによって、いろいろと考える時間が生まれたので。(精神的に)成長することができたのかなって思います。この長い期間を経て練習を再開したとき、"もっと大きなパワーを出し、いい動きができるように、再びスケート人生を!"って、(復帰に向けて)ポジティブになることができました」

 フリーでは、2本のトリプルアクセルを武器に挑むことになるだろう。スケーターとして、艶やかな花をリンクで咲かせるはずだ。



ミスが目立ちSP12位となったアレクサンドラ・トゥルソワ

 一方、アレクサンドラ・トゥルソワはシェルバコワと同世代の16歳で、4回転を武器に台頭してきた新星である。2019ー20シーズンにシニアデビューし、グランプリファイナルでは3位に入った。最新の世界ランキングでも4位だ。

 しかし世界選手権では、SPで大きくつまずいている。

 冒頭のジャンプ、トリプルアクセルを回避。ダブルアクセルは無難に降りたものの、どこか冴えない。2本目の3回転フリップは「明確ではない踏切」との判定を受け、得点が伸びなかった。そして最後のジャンプは余裕があり過ぎたのか。3回転ルッツは高く浮かび上がって腕も上げたが、回り過ぎて着氷が大きく乱れ、その後のコンビネーションジャンプをつけられなかった。

 スコアは64.82点で、12位発進。優勝候補のひとりだけに、厳しい結果と言えるだろう。もっとも、トゥルソワはフリーで抜群の強さをみせる。得意とする4回転ルッツは、男子顔負け。わずかだが、逆転優勝の可能性も残す。

 はたして、ロシア勢はその力を余すところなく見せるかーー。

 ちなみに今回、彼女たちはロシア代表ではない。ロシアは深刻なドーピング問題によってペナルティを受けた。今回は、ロシアフィギュアスケート連盟の代表である。しかし、ロシア人であることは間違いない。