『特集:We Love Baseball 2021』 いよいよプロ野球が開幕する。8年ぶりに日本球界復帰を果たした田中将…

『特集:We Love Baseball 2021』

 いよいよプロ野球が開幕する。8年ぶりに日本球界復帰を果たした田中将大を筆頭に、捲土重来を期すベテラン、躍動するルーキーなど、見どころが満載。スポルティーバでは2021年シーズンがより楽しくなる記事を随時配信。野球の面白さをあますところなくお伝えする。

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 2021年のプロ野球ペナントレースが開幕する。今年、開幕投手を託された12人の顔ぶれは以下のとおりだ。

巨人/菅野智之(4年連続7度目)
阪神/藤浪晋太郎(初)
中日/福谷浩司(初)
DeNA/濵口遥大(初)
広島/大瀬良大地(3年連続3度目)
ヤクルト/小川泰弘(2年ぶり5度目)

ソフトバンク/石川柊太(初)
ロッテ/二木康太(初)
西武/高橋光成(初)
楽天/涌井秀章(3年ぶり10回目)
日本ハム/上沢直之(2年ぶり2度目)
オリックス/山本由伸(初)

 阪神の藤浪は昨年わずか1勝からの大抜擢で話題になったが、12人の顔ぶれを眺めていると、あらためて開幕投手に対する考え方、野球そのものの変化を感じずにはいられない。



初の開幕投手に指名された阪神・藤浪晋太郎

「オレたちが現役の頃は、各チームに開幕投手といえば『この人!』っていうピッチャーがいました。オレがプロに入ったのは77年だけど、あの頃の阪急(現・オリックス)なんて開幕は山田(久志)さんって決まっていた。いくらオープン戦で調子が悪くても、『今年の開幕は誰になる?』なんて話題にもならなかった。エースっていうのがはっきりしていた時代だったよね」

 そう語るのは、自身も阪急、オリックスで2度開幕投手を務めた佐藤義則だ。

 話に出た山田は通算284勝を挙げた大エースだが、70年代から80年代のパ・リーグには、そのほかにも近鉄の鈴木啓示、ロッテの村田兆治、太平洋(のちにクラウン、西武)の東尾修......と、いずれも通算200勝以上を挙げた絶対的エースがズラリと並び、もちろん開幕投手の常連だった。

 開幕投手について佐藤は「1年間、チームの柱として投げる投手に任させるのが本筋」としたうえで、近年の開幕投手の傾向について次のように語る。

「菅野くらいの力があれば相手に関係なく開幕を任せるでしょうけど、どのチームもそこまで抜けたピッチャーがいません。そうなると、対戦相手との相性で決めるチームも徐々に増えてきている印象だね」

"格"や"プライド"よりも、データをもとに勝つ確率を求めての起用といえる。

「開幕カード、2戦目の相手を見て、誰をどこで投げさせればいいのか......。相性を考えながら、ローテーションが決まっていくイメージです」

 ソフトバンクや巨人といった特定チームを意識して、エースをぶつけていくローテーションを組むだろうし、その逆もあるという。

「勝てる確率を考えて、チームの軸となる投手を開幕ではなく、2戦目や2カード目の頭に持っていくという考えもある。逆に、分が悪いとわかっていても、あえてぶつけて、3連勝を狙うということもある。そのあたりは監督の考えだけど、いろいろシミュレーションするなかで開幕投手やローテーションが決まっていくんです」

 2カード目の頭にエースが回るケースについて、近年の投手事情も含め、次のように語る。

「阪神の西(勇輝)なんかは調整が遅れた関係で2カード目に回るみたいだけど、そういうのは別にして、オレらの時代の先発は中4日が当たり前だった。それがある時から中5日になって、今は中6日が普通。中4日なら、開幕で投げて、2カード目も投げるから相手の相性なんて考えなくてよかった。でも今は1週間に1回しか投げないから、どうしても相性を考えてしまう」

 そもそも、かつては相性が悪かろうが、開幕戦はエースが投げると決まっていた。だが佐藤は「今は誰が見てもエースというのは、菅野くらいじゃない?」と、近年のエース事情について言及する。

「エースが育ちにくい時代になってきたんだろうね。当然、先発としていい成績を続けることが一番なんだけど、去年なんて規定投球回数に達した投手はパ・リーグが8人で、セ・リーグは6人しかいない。先発として圧倒的な数字を残しにくくなっていて、20勝なんて夢の話になりつつある。ダルビッシュ(有)や田中(将大)が日本でずっと投げ続けていたらそういう存在になったんだろうけど、今はエースの風格が出てきたところでメジャー挑戦というのもあるしね」

 ダルビッシュ、田中以外にも、前田健太や菊池雄星らが日本で投げ続けていれば、誰もが認める大エースになり、迷うことなく開幕を任される投手になっていたはずだ。

 佐藤自身の開幕投手について話を向けると、こんな時代を感じさせるエピソードが返ってきた。じつは、初の大役を任された1987年の開幕には苦い思いがある。それまで12年連続開幕投手を務めてきた山田に代わり、佐藤が抜擢されたのだが、これは当時の阪急にとっては"大事件"だった。

「開幕4、5日前の練習中に上田(利治/当時監督)さんから言われてね。その時は『えっ、なんでオレなの?』って、うれしい気持ちなんて少しもなかった。だって、うちの開幕は山田さんって誰もが思っていたし、ましてあの年は山田さんの13年連続開幕投手の世界記録がかかっていた。

 山田さんもオレに怒っているわけじゃないけど、面白くなかっただろうし、しばらく口を聞いてくれなかった(笑)。チームも変な空気になって......精神的にキツかった。もちろん、上田さんなりの考えがあってそうしたんだろうけど、『なんであのタイミングでオレだったの?』って理由を聞いてみたかったですね」

 この年の前年、佐藤は最優秀防御率のタイトルを獲得し、その前々年には21勝で最多勝に輝いていた。成績だけを見れば開幕投手に指名されても誰も驚かないが、それでも阪急には山田がいた。まさに、大エースのいた時代ならではの事件だった。

 佐藤は現役引退後、阪神、日本ハム、楽天、ソフトバンクで一軍投手コーチを歴任。当然、開幕投手選びにも関わってきた。コーチとして、開幕投手を決める際、監督と意見が食い違うようなことはなかったのだろうか。

「そこはなかったね。阪神の時は井川(慶)がいて、楽天では岩隈(久志)、田中(将大)、則本(昂大)......。少し考えたのは、田中がWBCに出た時(2013年)くらい。開幕で投げるには日程的に余裕がないということになって、それで星野(仙一/当時監督)が『田中が難しいなら、新人に任せるもの面白い』となって、則本になったんです。状態もよかったですから。

 また、ソフトバンクの時は攝津(正)が2回くらいやってくれて、日本ハムでは金村(暁)とダルビッシュが初めて開幕をやった時はオレがいた時だったね。オレがコーチをしたチームにはエースと呼べるピッチャーがまだいたし、開幕投手にしても順当だった」

 時代とともに開幕戦のとらえ方、考え方が変わってきたが、それでも佐藤は「開幕戦は特別」と言って、こう続けた。

「チームにとって、ここから戦いが始まるという最初の試合。そこを任されるわけですから、起用の理由や背景はそれぞれあるでしょうけど、『今年はこのピッチャーを軸でいく』というメッセージでもある。そこは今の時代の選手であっても意気に感じると思いますし、開幕戦を経験すれば得るものも大きい。まして勝てば自分もチームも勢いに乗る。やっぱり開幕戦というのは、特別な一戦ですよ」

 はたして、今年選ばれし12人の投手はどんなピッチングを見せてくれるのか。いよいよ、プロ野球シーズンが本格的に幕を開ける。

(=敬称略)