『特集:We Love Baseball 2021』 いよいよプロ野球が開幕する。8年ぶりに日本球界復帰を果たした田中将…

『特集:We Love Baseball 2021』

 いよいよプロ野球が開幕する。8年ぶりに日本球界復帰を果たした田中将大を筆頭に、捲土重来を期すベテラン、躍動するルーキーなど、見どころが満載。スポルティーバでは2021年シーズンがより楽しくなる記事を随時配信。野球の面白さをあますところなくお伝えする。

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 今季から楽天の指揮を執ることになった石井一久監督。2018年からGMとしてチームの編成に携わってきただけに、どのようなチームづくりを目指し、どのような戦いを見せてくれるのか楽しみでならない。また楽天にとって最大の注目は、メジャーから8年ぶりに復帰を果たした田中将大だ。石井監督の目に田中はどう映ったのだろうか。



GM兼任監督して楽天の指揮を執る石井一久氏

── 「監督」と呼ばれて振り向けるようになりましたか。

「まぁ、監督はひとりしかいないんでね(笑)。僕のことかな、とは思います」

── ユニフォームを着てグラウンドに立つのと、GMとして背広を着てグラウンドに立つのとでは景色は違うものですか。

「そうですね。アプローチの仕方が違いますから、景色も違います。GMとしてはチームの戦力をどうしていくかということを考えなければならないんですけど、監督としては選手一人ひとりのコンディションやフォームのメカニックなど、どうすればその選手が成長していくのかということが主になってきます。その分、目線が低く、細かく、より選手に近くなった気がします」

── 逆に、GMも監督も同じだなと感じるところはありますか。

「チームがどうやって勝っていくのかを考えるという点では同じです。ただ、GMの『どうやって勝っていくか』と監督の『どうやって勝っていくか』というのはちょっと意味合いが違うんです。今シーズンをどうやって勝っていくかの戦略を考えるのがGMなら、この一戦をどうやって勝っていくかの戦術を考えるのが監督です。選手をどう起用するか、この局面でどういう作戦を取るのか、あとは選手とどんなコミュニケーションを取るか。ユニフォームを着ていると、そういう比重は重くなりますね」

── GMを兼務しながらの監督業ということは、もともとこのチームが掲げていた『常勝』『骨太』のチームをつくるというGMの役割を担いながら、監督として今年、勝負をかけることも必要になってきます。近未来と今年の両方を考えた時、矛盾するところにぶつかったりはしませんか。

「中・長期的に強いチームをつくるというミッションを僕の身体の半分として、3年、4年、5年先へとチームの遺伝子を受け継がせていかなければならないと思っています。同時にユニフォームを着ている以上、今年の優勝は逃したくない。となると、優勝イコールいろんな思いを経験できる、と考えればいいんですよね。勝った経験を中・長期的な強さにつなげればいいとなればシンプルです。短期的な強さ、イコール中長期的な強さ。そうすれば両立できます」

── 監督の考える『常勝』『骨太』というのは何を備えているチームを指すんでしょう。

「それはいろんな引き出しです。負けが込んでくると歯止めが利かずにズルズルいってしまうところを、なにかしらのストッパーを噛ませればこのチームはもう一度、上昇気流に乗っていける。そのストッパーが何なのか、わかっているチーム。ここで止めなければならないという勝負のあやが浸透しているチームは、骨太になると思います」

── 勝負のあやというのは?

「点が取れる時はどうやって勝っていくのか、点が取れない時にはどうやって勝っていくのか。いろんな引き出しを持っておく。そのためには、ただ単に打つ、投げるではなく、瞬発的な判断能力を大事にするマインドが必要になってきます。

 野球の試合って、フィールド上で動くボールは1つじゃないですか。ということは、ボールに触っているのはひとりなんですよね。ショートゴロなら、まずはショートがしっかりと判断する。ランナーが一塁にいたら、この打球はダブルプレーが取れるのか、ファーストで刺すべきなのか。そういう場面ごとの個人的な判断がしっかりとできる選手になってほしい。2塁から3塁を回ってホームに還るかどうかという時も、ランナーコーチャーだけに頼らず、自分なりの判断力を持てる選手になってほしい。そういう選手がひとりでも増えてくれれば、チームは骨太になると思っているんです」

── そういう判断力はゲームに出てこそ身につくものだと思います。今年を勝ちに行くということは、瞬発的な判断力を身につけさせるために我慢して若い選手を使うということが難しくなりませんか。

「そこは今、外国人選手が来日できないという事情もあって、若い子には絶好のチャンスが巡ってきていますよね。外国人選手が来たら優先順位としてはそちらが高くなってしまいますから。そういう意味で、外野は島内(宏明)がレフトにいてくれるとして、センターとライトが空きます。そこに若い子が入って、どこまでそのスポットを自分のものにできるか。

 外国人選手が来日して一軍の試合に出られるようになった時、さて、どうしようかと悩むのを僕はすごく楽しみにしています。田中(和基)、辰己(涼介)、小郷(裕哉)、19歳の武藤(敦貴)といった子たちには熾烈な争いをしてほしいし、とくに田中、辰己にとってはプロで進むべき道が決まってしまう大事なシーズンになります。だからこそ、ぜひ彼らにはスポットを奪い取っていただきたいと願っています」

── ピッチャーに関しては昨シーズン、25歳に満たない若いピッチャーで先発したのは藤平(尚真)投手の1試合だけという状況でした。今年の先発ローテーションの候補を見ても、36歳の岸孝之投手、34歳の涌井秀章投手、30歳の則本昂大投手に32歳の田中将大投手。ドラフト1位の早川隆久投手が開幕ローテに入ってくることは期待していいと思いますが、ビッグネームが並んでいるということは裏を返せば、若いピッチャーがそこへ割り込めていないということにもなります。

「そうなんですよね。ウチは『通算500勝越えのローテーション』なんて書いてもらっていますが、ベテランが多いからこそのキャリアなんです。ならば僕も、ローテーションの1枠は若い子に使っていきたいなと考えています。ただし、奪いに来てくれなければスポットを渡す気はありませんし、岸、涌井、田中、則本の次というのではなく、その中の2番目、3番目に割って入ってくるようなピッチャーでなければ、1年間ローテーションには定着できません。そういう素材でなければ、無理にローテーションに入れても将来的に意味のない話になってしまうのかな、とも思います」

── その4人のベテランに割って入ってほしい若いピッチャーといえば、誰になるんですか。

「もちろん早川ですよね。あとは去年、ジャイアンツからトレードで来た髙田(萌生)は、真っすぐの勢い、変化球の精度ともにベテランたちに引けを取らない、ローテーションに値するピッチャーです。ただ弱点として、球種の使い方やカウント別の力の入れ方がまだわかってないので、そのあたりを経験させていきたいと思っています」

── そんななか、やはり注目は田中将大投手です。監督も現役時代、メジャーからのオファーがあるなかで日本へ戻ることを選択しました。渡米前に78勝、メジャーの4年間で39勝を挙げて、日本へ復帰。古巣のスワローズで2年、ライオンズで6年投げて、帰国後の8年で65勝を挙げています。メジャーから日本へ戻った時のアジャストの難しさについてはよくご存知だと思います。

「とにかくメジャーのマウンドは硬いですからね。たとえば壁当てをする時、硬い壁って跳ね返りが早いじゃないですか。ということはマウンドが硬ければ、それだけ足の裏に伝わる跳ね返りの速度が速くなります。そうすると、パンッと一瞬で力が上半身に伝わりますから、リズムは取りやすいはずです。

 逆に日本のマウンドは柔らかいので、足を着いた時、土の中へ足が押し込まれて、もうワンテンポの溜めが必要になるんですよね。グーッと長くボールを持たなければならなくなるので、ずっと硬いところで投げていたピッチャーは、柔らかいところで投げるリズムにアジャストしていく必要に迫られます」

── 田中投手とはすでにその話をしたんでしょうか。

「彼に『マウンドが柔らかい分、一歩、ズッと入っていくから上半身のタイミングの取り方が難しいよね』と話したら、『そうなんですよね』と言っていて、ああ、同じ感覚を共有しているんだなと感じました。柔らかいマウンドならこうする、ということを田中はとっくに考えていると思いますし、対応して修正する能力の高いピッチャーですから、心配はありません。そもそも僕、考える能力がある人には自分の意見や価値観を押しつけませんからね(笑)」

── 監督として接してみて、田中投手の人柄についてはどう感じていますか。

「まず、人間力の高い選手だなと思いました。ある程度のキャリアを積んできたらツンケンしているところが見えても不思議じゃないんですけど、そういうところがまったくない。あの歳(32歳)ではあまりいない人格者だなと思います。いろんな人、いろんなシチュエーションに対応できる能力がありますし、そういうところは当然、野球にも応用しているんだろうなと思いました」

── 田中投手もチームメイトに「気軽に」と話していたように、2013年の24勝0敗でイーグルスを日本一に導いて、ヤンキースでは6年連続2ケタを挙げた......そうした数々の伝説から、どうしてもチーム内で神格化されてしまうところも出てくるんじゃないかと思います。そういう空気を和らげる必要性は感じていますか。

「正直、僕はそれが必要なのか、必要じゃないのかを見極めようとしていました。でも、そこも彼はわかっているんですよね。いつも自分から一つ落としにかかるんです。挨拶にしても、練習中も、常に一つ落とした雰囲気を出せる。ほっといても出てしまう存在感を、あえて示そうとしないんです。ほら、ハリネズミってそうじゃないですか。針を立てて威嚇する時と違って、針が立っていない丸いハリネズミはかわいいでしょ。田中はいつもそういう存在でいようとしています」

── 田中投手はハリネズミですか(笑)。

「それってすごいことなんですよ。だってマウンドに立てば針を立てて、今にも刺されそうなほどの張り詰めた、周りを寄せつけない空気を出せるピッチャーなのに、みんなといるときは笑ってほしいという柔らかい雰囲気に包まれる。だいたいは下の選手が気を遣うより上の選手が気を遣うほうがいろんなことがうまくいくんですけど、ああいうキャリアを持っている選手が努力して周りを見ようとしてくれるのはありがたいし、チームにとってもすごくいいことだと思います」

── 田中投手のギャグセンスはいかがですか。

「彼は僕とは笑いのツボが違うらしく、みんなに笑ってほしいなっていう時、若干、ちょっとだけ、みんな、あんまり笑ってなかったかな、と......いや、別にスベっているわけじゃないんですけど、そこが今の彼の課題かなとは思います(笑)」