『特集:球春到来! センバツ開幕』 3月19日、2年ぶりとなるセンバツ大会が開幕した。スポルティーバでは注目選手や話題の…
『特集:球春到来! センバツ開幕』
3月19日、2年ぶりとなるセンバツ大会が開幕した。スポルティーバでは注目選手や話題のチームをはじめ、紫紺の優勝旗をかけた32校による甲子園での熱戦をリポート。スポルティーバ独自の視点で球児たちの活躍をお伝えする。
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「高校野球って、やっぱりええなあ」
大会第5日目、第1試合のゲームセットの瞬間、ネット裏からそんな声が聞こえてきた。

初の甲子園で、東海大菅生にあと一歩及ばず敗退した聖カタリナ
2020年秋の東京王者の東海大菅生と、創部5年で初めて甲子園にたどりついた愛媛の聖カタリナ学園の対戦。聖カタリナが1点差まで追い上げた9回表、ツーアウト満塁の場面で、四番打者・川口翔大が打席に立った。
攻撃力が売りのチームを代表する強打者が放ったゴロを、東海大菅生の小池祐吏が捕って三塁ベースを踏みゲームセット。川口は一塁まで走るのをやめ、肩を落とした。その後、甲子園常連校を「一打出れば逆転」まで追いつめた聖カタリナの選手たちに、スタンドから大きな拍手が送られた。
かつて"野球王国"と呼ばれた愛媛勢だが、春のセンバツの成績は振るわない。2017年の帝京第五、2018、2019年の松山聖陵はいずれも初戦敗退を喫している。2015年に準優勝した済美を除けば、この10年で2勝7敗という成績だ。
激戦の東京大会で関東一、日大三という強豪を下してチャンピオンになった東海大菅生には、エースの本田峻也、捕手の福原聖矢というU-15日本代表の経験があるバッテリーがいる。さらに、四番・堀町沖永、五番・小池を中心とした強力打線は、公式戦8試合で52盗塁を記録したように機動力も備えている。
戦力的には東海大菅生が圧倒的に有利だった。しかし、聖カタリナのエースである櫻井頼之介も、スライダーに絶対的な自信を持つ好投手。170cm、58kgと小柄だが、ストレートの最速は145キロ。愛媛大会、四国大会では、キレのいいスライダーで三振の山を築いてきた。そして四番に座る川口は、昨秋の公式戦8試合で打率.440、8打点を記録したスラッガーだ。
東海大菅生に対抗できるとすれば、「エースが抑えて四番が打つ」という展開になった時だけ。そうならないと、大敗もありうると考えていた。
東海大菅生は、左肩に違和感を覚えた本田が登板を回避し、先発マウンドには背番号11の鈴木泰成が上がった。しかし、聖カタリナはなかなかチャンスの糸口をつかめない。一方で櫻井は、2回裏にソロホームラン、3回にはツーランホームランを許して主導権を奪われてしまった。
「櫻井くんのスライダーがすばらしいから、ストレートを狙っていては打てない。だから『スライダーを狙え』と言った。スライダーを打ってしまえば投げる球がなくなるだろうから」という東海大菅生・若林弘泰監督の作戦が当たった。
3回が終わったところで0対3。川口が2回にチーム初ヒットを放ったが、エース自慢のスライダーを2本もスタンドに放り込まれ、打線はヒットを打てない。苦しい展開の中で、聖カタリナの越智良平監督は選手たちにこう言った。
「ここまでは相手のペースだけど、我慢すればこちらの流れに持ち込めるはず。強い気持ちで戦おう」
聖カタリナが反撃に転じたのは7回。ツーアウト一塁から九番・足達遥都のライト前ヒットでチャンスを広げ、パスボールで1点を返した。
1対4で迎えた9回表に最大の山場が訪れた。2本のヒットと四死球でチャンスを作り、相手のバッテリーエラーと犠牲フライで1点差。ツーアウト満塁で打席に立ったのが四番の川口だった。だが、打球は力なく転がり、初めての甲子園が終わった。
聖カタリナのエース・櫻井は9回を投げ切って、許したヒットは6本。7つの三振を奪ったが、勝利はつかめなかった。四番の川口は、絶好のチャンスをモノにできなかった。
あのスライダーが高めに浮かなければ......。
最後の打席で仕留めることができていれば......。
後悔と悔しさを持って、彼らは甲子園を後にした。
試合後、櫻井は淡々と自分のピッチングを振り返った。
「甲子園球場は自分が思っていた以上に広くて、その圧に負けた気がする。はじめはボールが少し浮いてしまい、自分のピッチングができなかった。夏に向けてしっかりと体作りをして、勝負強いピッチングができるような練習をしたい」
最後のバッターになった川口は悔しさをにじませながらこう言った。
「四番なのに、自分の力不足でチームを負けさせてしまった。まっすぐ一本に狙いを絞って、一振りで決めたいと思っていたのに......自分が打てなかったせいで負けた」
勝敗を分けたのは、「勝負強さだ」と聖カタリナの越智監督は分析する。
「大事なのは、チャンスで1本出せるかどうか。相手はホームランで得点を重ねたけど、うちは2回も満塁の場面を作りながら、ひと押しができなかった。その差を埋められるように、夏に向けて準備したい」
センバツは、夏に向けた通過点。大会前にそう語っていた越智監督。甲子園という大舞台で悔しさを味わったエースと四番に残された時間は多くない。100日ほどで何を積み上げることができるのだろうか。