女子プロレス団体「スターダム」で活躍する白川未奈 photo by Hayashi Yuba 本を出版することだけを夢見…

女子プロレス団体「スターダム」で活躍する白川未奈
photo by Hayashi Yuba
本を出版することだけを夢見て生きてきた。2019年にようやく出版した本が『最強レスラー数珠つなぎ』(イースト・プレス)だ。毎回インタビューの最後に、自分以外で最強だと思うレスラーを指名してもらい、次はそのレスラーにインタビューをする。テーマは「強さとはなにか?」。
夢が叶った。しかしその途端、筆が止まった。1年半ほど何も書けない状況が続き、見るに見かねた女性編集者が「note」での連載を提案してきた。しかしひと筋縄ではいかず、彼女と始めた往復書簡に「とっとと結婚して、"女の幸せ"とやらを掴んだほうがいいのかなあ」と書いた。(2021年1月14日/note『最強レスラー数珠つなぎ外伝 プロレス往復書簡』「取材する、しないじゃないんだよ! 書くんだよ! わたしは文章を書くんだよ!」より)
これを読んで、Twitterで反応してくれたレスラーがいる。「闘魂Hカップグラドル」こと、白川未奈だ。グラビアアイドルとして活躍していたが、プロレス好きが高じて、2018年8月にプロレスデビューした。
「こちらのnoteを2時間半くらい眺めてた。『女性の幸せ』じゃなくて、『ムギ子さん(※筆者)の幸せ』を追ってほしいなぁーて思いながら。」(2021年1月14日/白川未奈twitterより)
女の幸せとはなにか? 女の強さとはなにか? 私の幸せとはなにか――。
筆者と女性編集者が「白川未奈にインタビューしたい」と強く思うまでに時間はかからなかった。そしてまた、「強さとはなにか?」を追い求めたい。私たちは『最強レスラー数珠つなぎ」女子レスラー編を始めることを決めた。
***
ピンクのロングヘアーを風になびかせながら取材場所に現れた彼女をひと目見て、「天使が舞い降りた......」と思った。天使の微笑みはあまりにも眩しく、思わず目線を下にそらすと豊満な胸が目に入り、同性ながら鼓動が高鳴った。
「ツイート見ました! ピンクにしてくれたんですよね? めっちゃ嬉しい!」
筆者はこの日のためにネイルサロンへ行き、爪を白川のテーマカラーであるピンク色にしていた。緊張を和らげるため、気合を入れるため、なにより白川へのリスペクトを示すため。そう、私たちは白川未奈を心からリスペクトしているのだ。
前述の女性編集者との連載の中で、同性の性的な部分に対して非難する気持ちを「心のPTA」と表現している。Hカップをブルンブルンさせて入場する白川を初めて見た時、私たちの心のPTAが発動した。「あら、はしたない!」「まあ、みだら!」――。しかし、ピンと伸びた指先、意志の強い眼差し、好戦的な笑み......全身から生き様が伝わってくる闘いぶりを見て、PTAは黙りこくってしまった。
この取材の前日、「3.3スターダム日本武道館大会」での活躍もすごかった。昨年末、鼻骨骨折で欠場してから、およそ2カ月振りの復帰戦。ランブル戦で大勢のレスラーがひしめき合う中、彼女の輝きは異彩を放っていた。
「今日起きたら首が回らなかったんですよ。寝返りが打てない感覚が久しぶりで、それがめちゃくちゃ気持ちよくて。『プロレスしてる!』っていう感じがして、今はとにかくすごく幸せな気分です」

ユニット
「コズミック・エンジェルズ」で活動(写真:「スターダム」提供)
白川は客席のファンの顔をよく見るという。現在、プロレス会場ではコロナ対策で声援を禁じられているが、声は出せずともファンたちの「お帰り!」という顔を見て、嬉しかったと話す。
「ランブル戦であれだけの人数がいると、(レスラーは)空気みたいになってしまいがち。だけど、それだけはイヤだったんです。昨日はスターダム10周年の歴史を伝える興行だったので、まだまだ新参者の私は大きな口を叩けないんですけど、レスラーとしてはやっぱりランブルにぎゅっと詰め込まれるよりも、シングルマッチをしたいし、タイトルマッチをしたかった」
復帰戦が決まった時、「ランブルで」と言われた時は悔しかったという。少しでも長くリング上で時間を過ごしたかった。しかし決められた中で最大限の自分を出さなければいけない。絶対に残ってやる、優勝してやる、という気持ちで臨んだ。
「でもね、ゆずぽんさん(愛川ゆず季)がまさか8年振りの復帰でタイガー・スープレックスを出してくるなんて思っていなかったので、正直びっくりしちゃった。びっくりしているうちに負けてしまいました......」
2010年10月、彗星のごとくマットデビューしたグラビアアイドル、愛川ゆず季。元祖"グラレスラー"として一世を風靡したが、わずか2年半で電撃引退を発表した。3.3日本武道館大会ではスターダムOGとして8年振りにリングに上がり、変わらぬ美貌と仕上げた体、技の応酬でファンを魅了した。
「あの方がいなかったら、グラビアアイドルやアイドルがプロレスラーを本気で目指すということはなかったと思うので、本当に感謝していますし尊敬しています。でも、今現役でやっているのは私なので、そこは絶対に負けたくなかった。なので、思いっきり顔を張らせていただきました」
白川のプロレスデビューが決まった時、撮影会に来るファンは異口同音に「ゆずぽんってすごかったんだよ」と言ってきた。「ちょっとうるさいなと思ったくらい」と、白川は当時を笑って振り返る。しかし、目標は愛川ゆず季かと尋ねると、「目標とは違います」と語気を強めた。
「ゆずぽんさんは引退会見で『自分は女性とおっぱいを売りにしてきたから、その命は短い。だから引退する』というようなことをおっしゃったんです。けど、私は『女の花は短い』と言われるのがすごくイヤ。女性は何歳になっても女性じゃないですか。いくつになってもやりたいことにチャレンジするのはカッコ悪いことじゃないと思っているし、成し遂げられることもあると思っています」
29歳でプロレスデビューし、現在33歳。20代の若いレスラーに期待することとは、違うことを求められているのはわかっている。しかし、人生経験があるからこそ出せるリングでの闘い方や、相手への感情がある。引退時期についても年齢では決めていない。
「アイドルってブリっ子で、プライベートを隠すようなイメージがあると思うんですけど、私は逆に『年齢重ねてますけど?』『グラビアアイドルでしたけど?』みたいな感じ。そういうのを全部出すことで、女性の方が共感してくださることが多くなったんです。そういう人たちと手を取り合っていきたいから、全部出していこうかなという気持ちでいる。結婚したくなったらするし、ぽっとプロレスをやめちゃうかもしれない。やりたいと思ったことを直感でやっていくだけです」
「グラビアをやってきたので、おっぱいに借りはあるんですけど」と笑う白川に、巨乳をコンプレックスに感じたことはないか、と尋ねた。筆者は子どもの頃、発育がよく、胸が大きいことを恥ずかしく感じていたからだ。胸を隠すようにして歩く癖がつき、すっかり猫背になってしまった。そんな話をすると白川はゆっくりと頷き、巨乳がコンプレックスだったことを打ち明けてくれた。
「中学1年から4年間、剣道をやってたんですけど、部活動の時は毎日さらしを巻いていました。『巨乳だからバカなんでしょ』と言われたこともあるし、太って見えるし、とにかく重いし、痛いし、邪魔だし、動きづらいし。いいものとはまったく思ってなかったですね」
中学、高校と女子校に進学。大学は青山学院大学文学部英米文学科という、"9割が女子"の環境で育った。ずっと女の社会で生きてきて色気を出す場面はなく、まさか自分がグラビアアイドルをやるなんて考えたこともなかったという。色気を出すことに抵抗はなかったのだろうか。
「ありました、ありました! 撮影で泣いたし、やりたいこととは違ったので。当時、歌を歌いたいとか、もっとバラエティー番組に出たいと思っていて、そのために人が『いい』と思ってくれることをやろうと気持ちを切り替えていたけど、やっぱり泣くこともありましました。でも、やりたいことのためにやらなきゃいけないこともあるなっていうのは、そこで学んだんですよね」
巨乳がコンプレックスじゃなくなったのは、バラエティー番組で芸人にイジってもらえるようになった頃。
「これを全部武器にして使っちゃおうと思いましたね。『おっぱいが大きいのを売りにして!』と反発する女性もいるのは当時からわかっていました。でも、それよりも私は、芸人さんが面白いと思ってくれる存在でいたいとか、バラエティー番組でキャラクターが立つ存在でいたいとか、とにかく仕事で売れたかった。全員に好かれるのは、無理だから諦めました」
筆者と女性編集者の連載を2時間半、眺めていたという白川。その間、どんなことを考えていたのだろうか。
「おふたりは同性で、同世代で、お仕事をされている。社会に生きる女性として勝手に共感してしまったんです。私はもともとプロレスファンだから、プロレスの見方に対して共感する部分もすごくありました。『PTAが発動した』という表現、めっちゃ好きです!」
白川の心の中にも、PTAが......?
「いないですね。私はグラドル出身なので、他団体の"THE・女子プロレスラー"といった方には、『チャラチャラしてる』とか、『プロレスできんの、あの子?』って絶対思われていると思います。それを変えるためには、激しい試合とか、心のこもった試合を人一倍しないといけない。試合でわかってもらえればいいやという気持ちです」
"女の幸せ"については思うことがあるという。グラビアの撮影スタッフは、ほとんどが男性。30歳になる前、『もうすぐ30でしょ? グラビア続けるの?』『結婚しなくて大丈夫?』といったセクハラ発言をする人があとを絶たなかった。年齢で線引きされることが心底嫌だったという。
「私がプロレス界で活躍することで、世の中のそういう意識をちょっとでも変えるお手伝いができたらなとはすごく思っています。女性だけでなく、男性に対しても思ってますね。以前、『女性は区切られちゃうんだよな』とツイートしたら、男性の方から『男もそうなんだよ』『つらい思いをしたことある』といった反響がありました。
プロレスファンの中にも年齢をバカにする人がいるけど、じゃあこの私がどんどんベルトを取っていく姿を見たらどう思いますか?っていうのを考えたら、その人たちを黙らせることができるんじゃないかと思ったり。それも楽しみだったりします」
(後編につづく>>)
【プロフィール】
■白川未奈(しらかわ・みな)
1987年12月26日、東京都生まれ。156cm、54kg。大学を卒業後にブライダル会社に就職するも、25歳でグラビアアイドルデビュー。2015年10月、「プロレスTIME」公認『プ女子普及委員会』委員長に就任。2018年8月、ベストボディ・ジャパンプロレス旗揚げ戦にてプロレスデビュー。同年11月より東京女子プロレスに参戦し、2020年10月にスターダムレギュラー参戦を表明。中野たむ、ウナギ・サヤカと結成したユニット「コズミック・エンジェルズ」が同年12月、アーティスト・オブ・スターダム王座を戴冠した。Twitter:@MinaShirakawa