「闘魂Hカップグラドル」として活躍し、2018年、プロレス好きが高じてプロレスデビューした白川未奈。前編では元祖"グラレスラー"愛川ゆず季への思い、巨乳をコンプレックスに感じていた過去、年齢で線引きされることへのもどかしさを語った。後編では…

「闘魂Hカップグラドル」として活躍し、2018年、プロレス好きが高じてプロレスデビューした白川未奈。前編では元祖"グラレスラー"愛川ゆず季への思い、巨乳をコンプレックスに感じていた過去、年齢で線引きされることへのもどかしさを語った。後編では、日本特有のグラビアアイドル文化について持論を展開する。


2018年10月にグラビアアイドルからプロレスラーになった白川未奈(写真/

「スターダム」提供)

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「たぶん生まれ持ったものなんですけど、日本の文化はちょっと生きづらい気がしているんです」

 ポジティブで天真爛漫な白川の口から「生きづらい」という言葉が発せられたことに、驚いた。女子プロレスの華やかさしか見ていなかった筆者が、女子レスラーの心の内側に興味を抱いた瞬間だった。

「グラドルをやっている時も、日本って処女性じゃないけど、黒髪で清楚なのが好かれる。私はデビューした時に25歳だったのでもう大人っぽかったし、ちょっとセクシーな雰囲気だったから王道に当てはまらなかったんです。

 そっちに寄せようと頑張ったんですけど、それが苦しかったり。プロレスを始めてからも、『アピールが激しい』とか『圧が強い』って言われることがあって。私が子どもの頃から憧れていたエンターテイナーたちは、指の先まで意識して大袈裟なのが普通だったので、圧が強いという言い方をされるんだと思うと、ちょっと苦しいなとか」

 プロレスは勝負の世界。命懸けで闘っているレスラーに対して、ファンは奥ゆかしさや処女性を求めている......? 冒涜にも感じられるが、それが現実なのだろうか?

「求めていると思います。でも、それは私もいけなくて、今はプロレスの技術がまだまだなので、みなさんに応援してもらって、ファンの方に育てていただいている状況なんですよ。もっと努力して、『尊敬している』と言ってもらえるところにいかないと」

 白川は本当にファンを大事にしている。昨年末、鼻骨骨折しておよそ2カ月間の欠場を余儀なくされたが、欠場中もファンに元気な姿を見せようとSNSを頻繁に更新していた。しかし、実はメンタルがかなり落ち込んでいたという。

「プロレスをしないと生きてる心地しないんですよね。プロレスを知らなかったらそういう気持ちにはならなかったかもしれないけど、やっぱりやりたいこと、好きなことがあるから、それができないということがめちゃくちゃ苦しかった。(3月3日の)スターダム日本武道館大会で復帰できて、今はすごくハッピーです。試合のスケジュールが決まっているということが嬉しい」


「本物のグラドルレスラーになる」ことが目標と語る白川

 photo by Hayashi Yuba

 根っからの負けず嫌い。常にいろいろなことに「悔しい」という思いを抱いているという。グラビア出身だからと舐められることも悔しい。女子プロレスがまだメジャースポーツではないというのも悔しい。女性はか弱くいなければいけないと言われるのも悔しい。そういう気持ちをすべてリングの上で爆発させる。それが自己表現につながる。だからプロレスは楽しい。プロレスは麻薬なのだという。「麻薬やったことないですけど」と言って、笑った。

 白川がプロレスを初めて観たのは、2012年10月、新日本プロレス・両国国技館大会。ブライダル会社を退職し、グラビアアイドルとして頑張ろうとしていた時期だ。しかし頑張ると決めたものの、人前で水着を着ることに対して「恥ずかしい」「つらい」と思っていた時、プロレスと出会った。

「プロレスラーの方が命を張って、お客さんを感動させて盛り上げている姿を見て、私なんか弱音吐いてらんないと思えたんです。どのレスラーも闘っているだけで、その人が通ってきた人生が垣間見えるじゃないですか。やられている時の表情もそうだし、何事にも全力でぶつかってきた人は試合でも恐れず飛び込んでいく。そういうところに、ちょっとずつ表れるんですよね。だいたい、気になるなと思った選手をあとから調べると、ぶつかりながら生きてきた経歴があることが多くて。そういう人って強いんだなと思っていました」

「3.3スターダム日本武道館大会」のメインイベントは、"敗者髪切りマッチ"が行なわれた。白川が所属するユニット「コズミック・エンジェルズ」のメンバーである中野たむが、ジュリアが持つワンダー・オブ・スターダム王座の"白いベルト"に挑戦。激闘の末、中野が勝者となり、敗者となったジュリアはリング上で髪をバリカンで刈られた。涙を流すふたり......。客席のあちこちから、すすり泣きが聞こえてきた。

「ファンみたいな気持ちで観ていました。涙が止まらなくなってしまった。たむさんと出会って数カ月ですが、ずっと白いベルトを取れそうで取れないというのを知っていたから、大きな舞台のメインでやっと取れたっていうのが私も嬉しかった。髪切りマッチは賛否両論ありましたが、私としては何が悪いかがわからなかったです。本人たちがやるって決めたんだから、正直、ジュリアもたむさんもカッコいいと思いました」

 ジュリアが中野に「髪を懸けてやろう」と言った。同じ女子レスラーとして、女の命である髪を懸けるという心理はわかるのだろうか。

「わかりますね。リングに上がるのって、みんな本当に怖いと思うんですよ。一歩間違ったら大ケガしちゃう。私も鼻がぐちゃぐちゃになって『最悪!』と思いました。キラキラしている世界に見えるけど、みんなが想像できないくらいの覚悟を決めて闘っている。それくらいすべてを懸けてやりたいことがあるって幸せじゃないですか。人生を懸けて、めちゃくちゃ熱量を持ってやれることをたくさんの人が見つけられたら、もっと平和な世界になるのになあ、といつも思います」

 中野とは昨年10月、スターダムに参戦して間もなくシングルマッチを行なった。惜しくも敗れてしまったが、試合後のマイクで白川はこんなことを言った。「闘魂Hカップグラドルから、本物のグラドルレスラーになるためにスターダムに来ました」――。

「闘魂Hカップグラドルって、結局グラドルなんです。グラドルがプロレスを頑張っているというニュアンス。ちゃんとレスラーとして周りから認めてもらえるようになりたい、絶対になる、という気持ちを込めて、『本物のグラドルレスラー』と言いました。やっぱりグラドルレスラーの発祥はスターダムだから、ここに来たっていう感じでしたね」

 スターダムに来て、「日本の女子プロレスはすごくレベルが高い」と、今まで以上に思ったという。日本の女子プロレスをもっと世界に発信したい。自分はグラドルレスラーとしてそれに貢献したい。

「グラビアアイドルって、日本の超独特な文化なんですよ。海外に遠征に行くと、『グラビアアイドルってなに?』ってめちゃくちゃ聞かれる。『ビキニモデル』って言うと海外の方はスポーティーでカッコいい感じを想像するけど、グラビアアイドルってちょっと違うんですよね。じめっとしていて、湿っぽいんです。でもみんな頑張っていて、日本人特有のキレイさとかもあるので、日本独特のグラビア文化を海外に伝えたいとアイドル時代から思っていたんです。グラビア文化も女子プロレスも、すべて世界に向けて発信したい」

 子どもの頃から、死を意識しながら生きているという白川。

「人生で100%決まっていることって、死ぬということだけじゃないですか。だからそれは常に意識していて。ある日パタッと死んだ時に、悔しいという思いが残らないように、一日一日、最大限やれることをやろうと思っています。疲れて寝ちゃったりとか、全然できない時もありますけど。死を恐れているんじゃなくて、ポジティブに意識してます」

 この連載では、最後に「強さとはなにか?」という質問をレスラーにぶつけている。白川にも聞くと、「自分を信じることです」と短い言葉が返ってきた。「もうちょっと説明したほうがいいですか?」と聞かれたが、説明はいらないように思えた。白川未奈は紛れもなく強い。それは自分を信じているから。インタビュー中、表情豊かに、身振り手振り大きく、目をそらさず話す白川を見ていたら、そう思えて仕方なかった。

 白川が指名した次の"最強レスラー"は、中野たむ。

「メンタルが強いです。弱そうに見えるんですけど、プロレスに関しては相当強い。昨日もビンタで顔が腫れあがってホント不細工になっちゃってて。『かわいい?』って聞かれたので、『不細工です!』って即答しました。普段は本当に優しくて、自分の考えを人に合わせて曲げちゃうタイプ。プロレスをやっている瞬間、たぶん人が変わるんです」

 ジュリアとの敗者髪切りマッチに勝利した時、中野は泣いた。「なんでお前が泣くんだよ」とジュリアに苦笑されながら、中野はリングを下りるまで泣き続けた。彼女はどのような思いで、丸刈りにされていくジュリアを見ていたのだろうか。

「次回は中野たむ選手のテーマカラー、紫色のネイルにしようかなぁ」と胸を時めかせながら、私たちは取材場所をあとにした。

(中野たむインタビューにつづく)

【プロフィール】
■白川未奈(しらかわ・みな)
1987年12月26日、東京都生まれ。156cm、54kg。大学を卒業後にブライダル会社に就職するも、25歳でグラビアアイドルデビュー。2015年10月、「プロレスTIME」公認『プ女子普及委員会』委員長に就任。2018年8月、ベストボディ・ジャパンプロレス旗揚げ戦にてプロレスデビュー。同年11月より東京女子プロレスに参戦し、2020年10月にスターダムレギュラー参戦を表明。中野たむ、ウナギ・サヤカと結成したユニット「コズミック・エンジェルズ」が同年12月、アーティスト・オブ・スターダム王座を戴冠した。Twitter:@MinaShirakawa