昨季の世界選手権(カナダ)は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)の影響により大会開催直前で中止が決定。その後、世界中がコロナ禍に見舞われ、イレギュラーなシーズンとなった今季は、グランプリ(GP)シリーズは開催地出身または練習拠点…

 昨季の世界選手権(カナダ)は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)の影響により大会開催直前で中止が決定。その後、世界中がコロナ禍に見舞われ、イレギュラーなシーズンとなった今季は、グランプリ(GP)シリーズは開催地出身または練習拠点にしている選手だけが出場できるという特別ルールの下で、NHK杯をはじめスケートアメリカなど全6戦中4戦が各地で開催された。

 しかし、今年1月の欧州選手権と2月の四大陸選手権が中止となる一方、現時点では今季の世界選手権(スウェーデン)は24日から大会を開催予定となっている。まだ収束できていないコロナ禍の中で世界選手権が無事に開催できるか不確定要素があるが、プロフィギュアスケーターで解説やコーチ業もこなしている安藤美姫さんに、世界選手権女子について日本人選手3人を中心に展望してもらった。



ロシア勢にどこまで食い込めるか期待される紀平梨花選手

 今回の世界選手権に出場する日本人女子選手3人の中では、紀平梨花選手が表彰台争いに絶対に食い込んでくると思います。なぜなら、ショートプログラム(SP)でトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を演技構成に組み込むことは、勝負において大きなアドバンテージだからです。SPでどれだけ点差を広げて上位につけるかが、勝敗のポイントになってくると思います。トリプルアクセルを確実にSPで跳んでくる紀平選手は、ミスのない演技ができれば頭ひとつ抜けていると思います。

 今の紀平選手の強みは、「トリプルアクセルの確率の高さ」。この大技を跳んでいる他の選手よりも、高い確率で跳んでいると思うので、この調子を維持して楽な気持ちでしっかりと跳び続けてほしいと思います。

 紀平選手は、トリプルアクセルを跳ぶことについて、すごく神経を使って、研究しながら取り組んでいる印象があります。ただ、あのレベルまでトリプルアクセルが完成しているのであれば、心配せず跳んでいいのではないかと。紀平選手本人もトリプルアクセルの完成度の高さを強みだとわかっているはずなので、そこは(跳び)外さないような精神面を持って臨んでほしいと思います。

 もちろん4回転(サルコウ)を全日本で成功させたので、引き続き、4回転も精度を高めていくジャンプにしてほしいですし、「最初に失敗しても大丈夫」ぐらいの気持ちでやったほうが、きっと4回転も変な力が入らず、(ジャンプが)ハマってくるんじゃないかなと思います。

 今季の坂本花織選手は、2シーズン継続したフリー『マトリックス』の成熟度がすばらしいです。全日本選手権の演技のように、ダイナミックなジャンプを跳び続けて、なおかつ、スケーティングのテクニックだったり、スピード感をしっかりと盛り込んでいけば、海外でも高い評価をもらえると思います。

 SPもフリーも、まだトリプルアクセルや4回転が入っていないですが、上位争いに絶対に食い込める質の高いジャンプ技術やスケーティング技術を持っているので、全体的なパッケージとして滑ることを大事にすれば、高得点を狙えます。大技ジャンプを持っていないだけに、すべてのエレメンツ(要素)の質を高めて、完成度の高いノーミス演技をしてGOE(出来栄え点)加点を稼ぐことが勝負のカギになりそうです。

 宮原知子選手は、他のトップ選手と比べると、体全体で音を表現したり、解釈したり、メリハリをつけたりとプログラムを演じる雰囲気作りがずば抜けています。そこが宮原選手の一番の魅力だと思います。

 フィギュアスケーターの醍醐味である表現力や、アーティストとしての演技力は、絶対に見応えのある選手なので、まずはその部分を見ていただきたいですね。上位に食い込めるかどうかは、宮原選手本人も課題に挙げているジャンプの回転不足をどこまで修正できるかにかかってくると思います。

 紀平選手はじめ、日本勢にはメダル争いの一翼を担ってもらい、表彰台を独占してもらいたいですが、おそらく今季もアンナ・シェルバコワ選手、アレクサンドラ・トゥルソワ選手という、4回転ジャンパーのロシア勢が優勝候補になってくるでしょう。その筆頭であるシェルバコワ選手は、まだトリプルアクセルを習得していないと思うので、彼女がSPでどんな得点を出してどの順位につけてくるか、そこで日本勢がどれだけ上回れるか、どの程度肉薄しているかで勝敗の行方が左右されるはずです。



世界選手権の日本人女子選手展望について語った安藤美姫さん

 ただ、シェルバコワ選手には「最強の武器」があります。それはプログラム後半に3回転ルッツ+3回転ループの連続ジャンプを組み込めることです。得点源のジャンプ構成が跳べるうえに、最近は演技構成点も高得点が出るようになっていますから、確実に実力をつけて成長しているので強敵です。

 現行ルールの女子の戦いでは、とにかくGOEの加点をいかに増やせるかが重要になります。ロシア勢もジャンプやスケーティング、スピンの質が高く、本当にきれいな滑りや動きを見せており、GOE加点で高得点をマークしています。だからこそ、日本勢にとっても勝負のカギはGOEになるはずです。

 今回の世界選手権で、紀平選手ら日本勢が優勝争いに加わるのは正直難しい面もありますが、試合は何が起こるかわかりません。日本勢の活躍に期待しながら私も注目したいと思います。

プロフィール
安藤美姫(あんどう・みき)
1987年12月18日生まれ。愛知県出身。
オリンピックには2006年トリノ大会、2010年バンクーバー大会に出場し、世界選手権では2回の優勝を飾るなど世界を舞台に活躍。2013年の引退後は、プロフィギュアスケーターとしてアイスショーに出演し、現在も振付師やテレビに出演するなど活躍の場を広げている。