『特集:球春到来! センバツ開幕』 3月19日、2年ぶりとなるセンバツ大会が開幕した。スポルティーバでは注目選手や話題の…
『特集:球春到来! センバツ開幕』
3月19日、2年ぶりとなるセンバツ大会が開幕した。スポルティーバでは注目選手や話題のチームをはじめ、紫紺の優勝旗をかけた32校による甲子園での熱戦をリポート。スポルティーバ独自の視点で球児たちの活躍をお伝えする。
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振り返れば瑠晏がいる──。
そう言いたくなるほど、東海大相模のショート・大塚瑠晏(るあん)は数多くの打球をさばいていった。
選抜高校野球大会2日目・東海大相模(神奈川)対東海大甲府(山梨)の好カードは、「サプライズ」で始まった。

打っても延長11回に決勝のタイムリーを放った東海大相模・大塚瑠晏
東海大相模はエース左腕・石田隼都ではなく、直前のメンバー変更でベンチ入りした右腕・石川永稀を先発投手に起用。石川は公式戦初先発だったが、門馬敬治監督は「僕のなかでは当たり前に起用しました」と奇策であることを否定している。石川は8イニングを投げ1失点と試合をつくり、延長戦で競り勝つ大きな要因になった。
その石川の好投を支えたのが、大塚だった。なにしろ、石川が投げた8イニングで大塚が処理したアウトは9個にのぼっているのだ。
石川の先発起用が伝えられても、大塚には動揺はなかったという。
「チームの大きな軸として石田がいますけど、石田が投げなくても石川の調子がよかったですし、不安はありませんでした」
試合開始直後の1回裏、東海大甲府の1番打者・猪ノ口絢太が放った打球は、マウンドから飛びつくようにグラブを差し出した石川の横をすり抜けていった。だが、その先にショートの大塚が颯爽と現れ、恐るべきスピードでゴロをさばき、送球する。50メートル走を6秒フラットで駆け抜ける俊足の猪ノ口でも、この大塚の流れるようなフィールディングには敵わず、一塁まで間一髪到達できなかった。
公式戦初登板が甲子園という非日常空間に立った石川にとって、先頭打者の出塁を許すか、アウトにするかでは天国と地獄ほどに違う。大塚のフィールディングは、アウト1つ以上の価値があった。
大塚には試合前から期するものがあったという。
「石川にはそんなに経験がなかったので、自分たち守備が守ってやりたいと思っていました。それができてよかったです」
大塚は昨夏の甲子園で開催された交流試合でも、大阪桐蔭戦で守備固めとして出場。その試合でも美技を披露しており、場数は踏んでいた。
大塚の守備には華がある。平凡なゴロをさばくだけでも、踊るような足さばきに見惚れてしまう。まさにフィールドの軽業師。いずれ高校以上の高いレベルでも、守備でスタンドを沸かせられる選手になるに違いない。
昨秋の神奈川県大会の試合終了後、大塚にそんな感想を伝えると、本人は笑ってこう答えた。
「いずれはプロ野球選手になりたいと思っていますが、守備もバッティングも足りないところがたくさんあるので。とくにバッティングはもっと振る力、攻める力をつけていきたいです」
昨秋は公式戦9試合で無失策。十分に結果を残したが、シートノックでの動きには雑さも見られた。しかし、この春の甲子園に戻ってきた大塚の守備には、堅実さも加わっていたように見えた。
ただ奔放なだけでなく、一つひとつのプレーが考え抜かれている。東海大甲府戦ではポジショニングも大胆だった。三遊間寄りの打球を先回りして捕り、難なくアウトにする。何気ないプレーだけに見過ごされそうだが、ヒットを未然に防いだ紛れもないファインプレーだった。
大塚は言う。
「ポジショニングは試合前にデータを見ながら、各打者の試合中の対応を見て自分で変えています」
さらに本人が課題と語った打撃面でも進境を見せた。1対1で迎えた延長11回表には、一、二塁間を破る決勝のタイムリーヒットを放っている。
「接戦を最後まで粘れたのでよかったです」
試合後、大塚は充実した表情で試合を振り返った。昨秋に苦杯をなめた東海大甲府に借りを返し、あとは目標とする日本一へ突っ走るしかない。
東海大相模が勝ち進むということは、すなわちフィールドの軽業師の美技を堪能できる時間が長くなることを意味する。