『特集:球春到来! センバツ開幕』 3月19日、2年ぶりとなるセンバツ大会が開幕した。スポルティーバでは注目選手や話題の…

『特集:球春到来! センバツ開幕』

 3月19日、2年ぶりとなるセンバツ大会が開幕した。スポルティーバでは注目選手や話題のチームをはじめ、紫紺の優勝旗をかけた32校による甲子園での熱戦をリポート。スポルティーバ独自の視点で球児たちの活躍をお伝えする。

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── 須江監督がずっと求めてきた伊藤投手の姿に、ようやく近づきつつあるのではないですか?

 試合後のリモート会見で仙台育英・須江航(わたる)監督に尋ねると、実感のこもった「そうですね」という相槌の後、こんな答えが返ってきた。

「『スーパー中学生』と言われても、体の成長の早さもありますし順風満帆にいく選手なんていないと思うんです。必ず行き詰まる時がくる。彼は一度挫折を経て、自分で考えて、考え抜いてこのレベルまで登ってきた。野球選手として尊敬します。チームにとって、彼は完全な背番号1。今日投げなかった投手たちにも、いい刺激を与えてくれたと思います」



明徳義塾戦で好投した仙台育英のエース・伊藤樹

 3月19日に開幕した選抜高校野球大会(センバツ)。初戦屈指の好カードだった仙台育英(宮城)と明徳義塾(高知)の一戦は、仙台育英が1対0で投手戦を制した。

 勝利の立役者になったのは、5回1/3を投げてノーヒットリリーフした伊藤樹(たつき)である。

 伊藤は仙台育英秀光中に所属した中学時代、全国中学校軟式野球大会(全中)で準優勝に輝いている。全中決勝で投げ合ったのは、中学3年にして最速150キロをマークした高知中・森木大智(現・高知高)。伊藤も中学3年にして最速144キロを投げ、多彩な変化球を操る完成度の高い右腕として注目を集めた。そして、森木らとともに「スーパー中学生」と呼ばれた。

 だが、仙台育英に進学後の伊藤は、華々しい成績を残していたわけではない。

 1年夏の甲子園では試練を味わっている。星稜との準々決勝で先発に抜擢されるも、1回1/3で5失点と早々にノックアウトされた。チームは1対17と大惨敗を喫した。

 1年秋は右肩のコンディションが悪く、不振に苦しんだこともあって明治神宮大会ではベンチから外された。軟式球と硬式球の微妙な質感の違いに戸惑い、中学時代は打者をきりきり舞いさせていたスプリットが思うように落ちなくなってもいた。

 間違いなく、投手としての岐路に立っていた。伊藤は元来、器用な投手である。多彩な変化球を駆使して、打たせて取る投球を極めようと思えばできたかもしれない。きっと「まとまった投手」として活躍し、高い評価を受けたに違いない。

 だが、秀光中時代から指導してきた須江監督は、伊藤の高校1年時にこんな育成方針を語っていた。

「伊藤は今のような器用さだけで終わらせてはいけない。彼をもっと大きく育てたいんです。いずれは奥川恭伸くん(星稜→ヤクルト)がモデルになってくるでしょう」

 昨夏に開催された甲子園交流試合で、伊藤は二度目の甲子園のマウンドに立っている。リリーフで登板して打者3人、わずか2アウトを取っただけだったが、今までの伊藤のイメージを覆す姿が見られた。

 甲子園で投げた23球のうち、変化球は2球だけ。コントロールミスなどおかまいなしに、荒々しく腕を振って、常時140キロ超のストレートで押しまくった。

 その試合後、伊藤は「ストレートをスケールアップするためにやってきました」と自身の取り組みについて語ってくれた。

「冬場に遠投を重点的にやって、あとはいつもやっている柔軟性を高めるトレーニング、春になってウエイトトレーニングもやって少しずつステップアップしていきました」

 優等生が少しばかりヤンチャに手を染めた──。イメージチェンジした伊藤の姿を見て、そんな感想が頭に浮かんだ。

 そしてさらに時間が経ち、迎えた今春。伊藤は大きく進化して甲子園に戻ってきた。

 佐々木朗希(ロッテ)のように左足を顔の高さまで上げると、捕手に向かって大胆に体重移動する。だが、腕の振りはコンパクトで、きっちりと両コーナーに投げ分ける。昨夏に手に入れたダイナミックさに繊細さを融合させた、新しい伊藤樹の姿だった。

 4回表、二死一、三塁のピンチでリリーフに立った伊藤は、その前にマウンドに立っていた1学年後輩・古川翼に思いを馳せていた。

「自分は1年夏に甲子園で先発して、試合を崩してしまいました。古川には、絶対に自分と同じ思いをさせたくない。ここで抑えるのが3年生としての責任、エースとしての役割だと。"全集中"して投げられました」

 古川にタイミングが合っていた明徳義塾の6番・代木大和を、伊藤は外角にコントロールされた145キロのストレートで空振り三振に仕留める。以降は先頭打者を一人も出塁させず、試合巧者の明徳義塾に主導権を渡さなかった。

 最後に須江監督に聞いてみた。「今日の伊藤にあえて注文をつけるとしたら、どんなところでしょうか?」と。須江監督は、こう答えた。

「8回に先頭の9番打者に三振を取りにいったシーンがありました(カウント2ストライクから3球連続ボールのあと、辛くも三塁ゴロに打ち取る)。こういうゲームを動かすのはフォアボール。一つのフォアボールが命取りになる可能性があるわけです。伊藤にはそんな視点を持って投げてもらいたいですね」

 指揮官の言葉を同じ会見場にいた伊藤はしっかりと聞いていたようだ。報道陣から「今日の反省点」を聞かれると、真っ先にそのシーンを挙げた。

「ボルテージが上がってしまって、キャッチャーのサインに首を振って投げたい球を投げたんですけど、決め切れませんでした。力みが出てしまいました」

 次戦は3月24日(大会6日目)に神戸国際大付と戦う予定だ。仙台育英はこの日投げた伊藤と古川以外にも、昨秋の公式戦で活躍した速球派右腕・松田隆之介もいる。機動力を生かした戦いぶりには、スキが見当たらない。

 エースの名にふさわしい実力を手に入れたこの春、伊藤は甲子園のスターへの道を進もうとしている。