ラストワンプレー。自陣ゴール前。地面の上で相手ボールを手繰り寄せたのは、ジョージ・スミスだった。

 2017年1月29日、東京・秩父宮ラグビー場で日本選手権の決勝があり、トップリーグ覇者のサントリーが、大会2連覇を目指すパナソニックを15-10で制した。全得点をペナルティゴールで挙げ、守り勝った。

 今季3シーズンぶりにこのクラブへ復帰していたFLのスミスは、こう振り返った。

「ファイナルは、こういうディフェンスメインのタイトなゲームになる。キックでポイントを取ってゆくというのは、ベストオプションでした」

 注目されたのは、パナソニックのデービッド・ポーコックとの対決だった。「ワラビーズ」ことオーストラリア代表経験者同士で、いずれも肉弾戦でのボール奪取に長ける。期待にたがわず、泥臭いマッチアップはそこかしこであった。

 ポーコックが拾ったこぼれ球を、スミスが奪い返す場面もあった。ポーコックが「彼には大きな尊敬の念を抱いている。いままでも多くのことを学んできた」と笑えば、スミスはこう応じる。

「彼はブレイクダウン(ボール争奪局面)上の仕事が素晴らしい選手。私たちにとっては迷惑と言えるくらい、邪魔をされました。パナソニックにはポーコック以外にも、ジャッカル(ブレイクダウンで相手ボールに絡むプレー)の上手い選手がいる。ただ、私たちのクリーンアウト(ブレイクダウンへのサポート)の意識は高かった」

 勝者にとってのハイライトのひとつは、3-3の同点で迎えた前半28分頃のワンシーンか。

 自陣ゴール前で相手ボールスクラムのピンチを迎えるが、タックルまたタックルで耐える。その献身ぶりには、対するLOの谷田部洸太郎も舌を巻いていた。

「相手もスピードを活かして順目(攻撃方向)に回ってディフェンスを…。速かった。プレッシャーのかかった状態でした」

 最後にひと仕事をしたのは、スミスだった。

 密集の後ろ側から、前傾姿勢になった相手の背中越しに右手を伸ばす。地面の球をさばこうとしたポーコックの腕に、ひょいと指先をかけたのである。

 直後、PRの石原慎太郎が身を挺してルーズボールをキープ。サントリーが攻守逆転に成功したこの場面を、スミスは身振りを交えてこう振り返る。

「彼がボールを(胸元へ)持ち上げたところへ…。オフサイドラインより後ろでしたし、フェアなプレーだったと思います」

 一方、ポーコックは、再三好守で魅せるも判定に泣く。例えば後半9分、自陣中盤左でラインブレイクしたFLのツイ ヘンドリックに追いすがってタックル。起き上がると同時に味方側へ周り込んでボールを奪うも、直後、大槻卓レフリーの笛が鳴った。密集戦のなかで手を使ったと判定されてか、サントリーにペナルティキックが与えられた。

 確かにリプレイ映像上も、サントリーのCTBであるデレック・カーペンターがサポートについたことでラック(ボール保持者が倒れた密集)が成立。ポーコックが楕円の球を手繰り寄せたのは、その直後のことだった。

 サントリーはSOの小野晃征によるゴールキックで、スコアを6-3に伸ばす。

 パナソニックは勝ち越しを許した。ポーコックは、紙一重で起きた一連の悲運をこう捉えていた。

「ああいうことは、たまに起こり得ます。レフリーの方は、全員がベストを尽くしてゲームをさばいている。そこへは、選手の責任として適応しなければなりません」

 ジンバブエ生まれの28歳で、2002年からオーストラリアへ移住。昨年もプレーしたオーストラリア代表としては、66キャップを保持している。身長183センチ、体重103キロの背番号「8」は、こう言って芝を後にした。

「残念な気持ちが強いですが、サントリーさんがすばらしいシーズンを送った。おめでとうと言いたいです」

 かたや前年度までフランス、イングランドで戦ってきたスミスは、身長180センチ、体重104キロの36歳。オーストラリア代表キャップは「111」を誇る。サントリーでは新加入した2011年度から、2季連続でトップリーグのMVPを獲得。NO8の小澤直輝いわく「練習が終わった後にバックロー(FL、NO8といったFW第3列)を巻き込んでくれて、インディビジュアル(個人練習)をやってくれる。そこがジョージのすごいところ」。献身を貫いた。

「きょうは、ターンオーバーを許す場面もありました。ただ、相手のペナルティをもらってポイントを取ることもできた」

 世界屈指の狙撃手による競演は、試合の質を確かに保った。2人は来季も日本でぶつかる。
(文:向 風見也)