ファンタジスタ×監督(1) ピッチでファンタジーを見せ、ひときわ輝きを放った選手たちがいる。<ファンタジスタ> 彼らはそ…

ファンタジスタ×監督(1)

 ピッチでファンタジーを見せ、ひときわ輝きを放った選手たちがいる。

<ファンタジスタ>

 彼らはそう呼ばれた。天才的なひらめきと技巧によって人が陶酔する瞬間を作り出してしまう。そのスター性は、言葉にならない。

 カルロス・バルデラマ、エンツォ・フランチェスコリ、ポール・ガスコイン、ロベルト・バッジョ、マヌエル・ルイ・コスタ、アルバロ・レコバ、フアン・セバスチャン・ベロン、フランチェスコ・トッティ、アレクサンダー・モストボイ、リバウド、フアン・ロマン・リケルメ、そしてロナウジーニョ......。

 1980年代から2000年代前半にかけ、彼らはファンタジスタとして快刀乱麻の活躍を見せた。そのキックやコントロールは、感性を刺激するものだった。本能的に「美しい」と感じさせた。

 そして共通するのは、彼らが監督の道に入っていない点だ。



アルゼンチン代表のほかいくつかのクラブを率いたが、成功したとは言えない故ディエゴ・マラドーナ

 監督は勝利の効率を無視できない。そのプロセスにおいて、ファンタジーという不確定要素は、しばしば扱いづらいものになる。自由を奪い、創造力を縛らざるを得なくなる。

 その結果、ファンタジスタたちは監督が編み出した戦術志向で持ち味を消され、追いやられていった。彼らは客を沸かせられるし、相手に決定的ダメージを与え、味方を奮い立たせられる。その一方、守備で帰陣しなかったり、プレッシングで穴になったり。集団戦で見た場合、弱点になり得るのだ。

 監督はチームを統率するのが仕事で、それには管理や制限が必要になる。ある種の平等性というのか。美しさよりも‟労働"を要求せざるを得ないのだ。

「サッカーを退屈なものにする監督に興味はないよ」

 ファンタジスタたちは、受けてきた仕打ちのせいか。せめてもの抵抗のように言う。

 実際、選手と監督はまるで別の職業だ。

 その証左として、昨今はジョゼ・モウリーニョ(トッテナム・ホットスパー)をはじめ、論理的思考を極めた「プロ選手経験のない」指揮官が台頭している。トーマス・トゥヘル(チェルシー)、ユリアン・ナーゲルスマン(ライプツィヒ)、ホセ・ボルダラス(ヘタフェ)も現役時代はセミプロレベル。指導者として積み重ねた知識や経験で成功を収めた例だ。

 監督にとって必要な資質とは、チームを束ね、士気を高め、決断するというリーダーシップと同時に、数学的な「答えを導き出す」という思考を重ねられることにもあるかもしれない。

 元選手でいうと、「名将」と呼ばれる監督の出身ポジションは、ボランチが多い。

 かつてバルサの司令塔だったジョゼップ・グアルディオラ(マンチェスター・シティ)は筆頭だろう。ビセンテ・デル・ボスケ(元レアル・マドリード、元スペイン代表)、カルロ・アンチェロッティ(エバートン)、ディエゴ・シメオネ(アトレティコ・マドリード)、アントニオ・コンテ(インテル)、ディディエ・デシャン(フランス代表)、ハンス・フリック(バイエルン)など、枚挙にいとまがない。

「中盤の選手は、チーム全体を動かす仕事をする。当然、ビジョンを持っていないといけない。それが監督になったとき、反映される部分はあるだろう」

 そう語っていたのは、現役時代に中盤でチームを手足のように動かしたシャビ・アロンソだった。今シーズンは、レアル・ソシエダのセカンドチームを率いて2年目。彼も有力な将来の名将候補と言える。

「監督は、ピッチで起こることを見渡せないといけない。予測も必要になるだろう。中盤の選手は、絶え間ないプレーの出し入れの詳細で局面が大きく変わることを肌で知っている。攻守のつなぎ目を知って、プレーを連結させる。その仕事の積み重ねは、監督としても役立つんだ」

 彼らはエゴを殺し、周りを生かし、チームを動かす。その反復によって、社会性を身につけているのだ。

 ボランチの次に多く名将を輩出しているのは、マウリシオ・ポチェッティーノ(パリ・サンジェルマン)などディフェンスの選手たちか。マルセロ・ビエルサ(リーズ)も現役時代は無骨なディフェンダーだったが、25歳で引退する前から狂気的な研究心で理論を組み立て、今はその実践を執拗に繰り返している。

 特殊なポジションであるGKだが、フレン・ロペテギ(セビージャ)、ヌーノ・エスピリート・サント(ウルバーハンプトン)などは名将の域だし、GKコーチへの転身は当然、頻繁にある。

 ストライカーも実は名将が少なくなく、ユップ・ハインケス、ルイス・アラゴネス、アルフレッド・ディ・ステファノ、ヨハン・クライフは先進的なサッカー理論で新時代を作った。

 それに比べて、監督に転身した大半のファンタジスタたちは苦労している。

 ミシェル・プラティニはフランス代表監督として、「シャンパンサッカー」を革新させようとしたが、90年ワールドカップ予選は敗退、92年欧州選手権はグループリーグで敗退。それ以降、指揮は執っていない。エンツォ・シーフォ、ジュゼッペ・ジャンニ―二、ロベルト・プロシネツキ、ゲオルゲ・ハジなど、美しいプレーが喝采を浴びた元ファンタジスタも、監督になってからの采配は凡庸の域を出ていない。そして故ディエゴ・マラドーナ......。

<ファンタジスタ×監督>

 その数式の答えとは? 短期集中連載で、監督になったファンタジスタたちの実像に迫る。
(つづく)