『特集:女性とスポーツ』第1回【サイモン・クーパーのフットボール・オンライン】女子サッカーの現在(前編) 3月8日は国際…

『特集:女性とスポーツ』第1回
【サイモン・クーパーのフットボール・オンライン】女子サッカーの現在(前編)

 3月8日は国際女性デー。1975年に国連によって制定されたこの日は、女性たちによってもたらされた勇気と決断を称える日だ。スポルティーバでは女性アスリートの地位向上を目指し、さまざまなテーマで「女性とスポーツ」を考えていく。

 この記事はSportivaでもおなじみのジャーナリスト、サイモン・クーパー氏が2011年6月に寄稿してくれたものを再録した。時は日本が優勝した女子ワールドカップドイツ大会開幕の直前。あれから10年、変わったこともあるし、変わらないこともある。



2011年にW杯で優勝すると、日本に女子サッカーブームがまき起こった photo by AP/AFLO

 ずいぶん前のある夏の日曜日、ニューヨークのセントラルパークでヨーロッパ人の友人たちとピクニックをした。僕らのグループは男女3人ずつだった。ランチが終わったころ、誰かがサッカーボールを売りに来た。僕ら男たちは1個買い、それを見て女たちは笑った。男っていつもこうなんだから......。

 僕らはボールを蹴りはじめた。やがて女たちも仲間に入ってきた。彼女らはそれまでサッカーをやったことがなかったはずだ。僕の世代のヨーロッパの女性はサッカーなどやらなかった。

 公園から戻って夜になっても、彼女たちはアッパーウェストサイドの舗道でボールを蹴り続け、男たちが「近所迷惑だからやめてくれ」と言ってやらないといけなかった。まるで彼女たちは、19世紀にイギリスの水夫がやって来てボールを持ち込んだとたん、サッカーのとりこになったどこかの島の住民のようだった。

 機会さえあれば、女性はサッカーをしたがる。サッカーが女性に開放されて以降(それは驚くほど最近の話だ)、女子のサッカー人口は増える一方だ。女性は男子サッカーも見るようになり、最近の国際大会のテレビ観戦者は女性が約40%を占めている。

 しかし、ひとつだけ女性も男性もやらないことがある。女子サッカーを見ることだ。まもなくドイツで始まる女子ワールドカップではチケットが売り切れた試合もあるが、それは例外だ。世界の優れた女子サッカーの試合は、ごくひっそりと行なわれている。

 僕たちの社会は男子サッカー選手を「理想の男性」としてあがめるが、女子サッカー選手を「理想の女性」とは見ない。女子サッカーに対する僕たちのジェンダー的な視点を検証してみると、いかに古い感覚を引きずっているかがよくわかる。

 女性がサッカーを始めたのは、男性が始めたすぐ後だった。事実、女子サッカー人気が最も高かったのは、1世紀近く前のことだ。第1次世界大戦のさなかに、北イングランドのプレストンにあるディック・カー軍需技術工場では、昼休みやティータイムにボールを蹴る男性に女性たちが加わるようになった。このころはいわば「ウーマン・リブ」の時代で、戦場に行った男性の仕事を女性が奪っていた。

 やがて女性労働者は自分たちのサッカーチームを作った。「ディック・カー・レディーズ」はおそらく女子サッカーで最高の人気チームになった。1920年12月26日にリバプールで行なった試合は、実に5万3000人の観衆を集めた。もしあのまま人気が続いていたら、女子サッカーは今ごろどうなっていただろう。

 しかし、1921年にバブルがはじけた。戦争が終わり、女性はキッチンに戻り、イングランドサッカー協会は女子の試合を行なうことをクラブに禁止した。この措置はその後50年も続くことになる。イングランドの女子サッカーは公園のぬかるんだグラウンドに追いやられ、しぼんでいった。

 他のヨーロッパ諸国でも1920年代後半から、女子サッカーは活動を制限されたり禁止されたりした。第2次世界大戦前にフランクフルトの女子サッカー選手は「おとこ女」とからかわれたと、歴史学者のマライカ・ケーニヒは言う。彼女は女子サッカーのたどった道を「抑圧と抵抗」の歴史のひとつと見ている。ドイツサッカー協会が女子サッカーを禁止したのは1955年と、わりと最近のことだ。

 60年代後半に再びウーマン・リブが起こると、女子サッカーにも復活の兆しが見えてきた。当時はまだ、女子サッカー選手は「レズビアン」というレッテルを貼られた。昔ながらの「女らしさ」を放棄したことへの罰のようなものだ。

 それでもサッカーは楽しいから、70年代から女性の間に広がっていった。とりわけ、サッカーを「男のスポーツ」とみなさない国では女性のサッカー人気が高まった。アメリカンフットボールが「男のスポーツ」とされているアメリカでは、郊外に住むポニーテールの白人の女の子たちがサッカーを始めた。

 2006年のFIFA(国際サッカー連盟)の推定によれば、世界には約2600万人の女子選手がいた。その80年前にはほとんどゼロだったのだから、大変な増加ぶりだ。「サッカーの未来は女性だ」と、FIFAのゼップ・ブラッター前会長は宣言したものだ。

 最近では、サッカーは女性がやるものではないなどと考える人は、ほんのひと握りになった。イギリスでは昨冬、スカイTVの解説者数人が、マイクが入っていることを知らずに「どうせ女にはサッカーはわからない」と口にして、番組を降ろされた。彼らに同情するのは、女性のサッカー観戦を禁止しているイランの指導者たちくらいだろう。
(つづく)