来季から日本選手権大会で大学枠が撤廃されることになったが、大学選手権で前人未到の8連覇を遂げた帝京大学がトップリーグ王者とほぼ互角に渡り合う奮闘を見せ、才能ある学生がトップレベルのラグビーにチャレンジすることがいかに意義あることかを、改め…

 来季から日本選手権大会で大学枠が撤廃されることになったが、大学選手権で前人未到の8連覇を遂げた帝京大学がトップリーグ王者とほぼ互角に渡り合う奮闘を見せ、才能ある学生がトップレベルのラグビーにチャレンジすることがいかに意義あることかを、改めて示した。

 1月21日に東大阪市花園ラグビー場でおこなわれた第54回日本ラグビー選手権大会の準決勝第2試合。帝京大は、今季トップリーグで全勝優勝したサントリーサンゴリアスに果敢に挑み、29-54で惜敗した。

「50点とられてしまったが、中味として『これは(大学枠を)残しておかないと』と思ってもらえるのが使命だと思い、勝ちにいった」と語ったのは、帝京大の岩出雅之監督だ。「通用するところはたくさんあった。(トップリーグチームと)やってみて『いける』というエネルギーは、実際にやらないとわからないものがある。学生世代の強化を考えるのなら、代替のものを考えてもらいたい」と、若いラグビーマンたちを育てている名将は訴える。

 サントリーの沢木敬介監督は自チームの選手に不満をあらわにした一方、帝京大に対しては「すばらしいファイトだった。フィジカルもボールの動かし方もトップレベルだと思う」と称えた。そして、U20日本代表のヘッドコーチを務めたこともある沢木監督は「(自分が教えた)U20世代の選手も何人かいた。彼らに高い環境を作ることが必要。日本選手権が唯一のチャンスだった。経験の場を作らないと」とも語った。
 帝京大の元主将で、いまはサントリーでリーダーシップを発揮する流大も同じ意見だ。「自分が大学生のときは(日本選手権が)一番のモチベーションだった。すべてを懸けていた。(試合がなくなったことを)補うシステムが今後必要だと思う」とコメントした。

 そんな言葉が強く響くのは、帝京大のすばらしい健闘があったからだ。

 序盤、チャレンジャーはいきなりゴールに迫った。が、これをサントリーはしのぎ、逆に前半12分、ターンオーバーからたたみかけてSO小野晃征が先制した。

 しかし帝京大はその2分後、FB尾崎晟也が自陣からのカウンターで大きくゲインし、右タッチライン際でボールをもらった身長187センチ、体重108キロの大型WTB吉田杏が日本代表のFB松島幸太朗をはじき飛ばしてゴールに持ち込み、コンバージョンも決まって同点とした。

 それでもサントリーは19分、キャプテンのSH流が切り込み、できたスペースをFL小澤直輝が抜けてゴールラインを割った。今季初先発のFL小澤は28分にも連続トライを挙げ、トップリーグ王者がリードを広げた。

 だが、ゲームは一方的な展開とはならなかった。サントリーの流キャプテンはのちにこう語っている。「『学生相手と思うな』と言ってやってきたが、メンタルでどこかに隙があった」。

 その隙を突いたか、帝京大は37分、ゴール前でFWが力勝負を挑み、HO堀越康介がインゴールに飛び込みスタンドを沸かせた。さらに前半終了前、自陣深くでボールを奪い返したあと果敢に回し、FB尾崎が突破して敵陣22メートルラインまで大きくゲイン、サポートについていたWTB竹山晃暉がトライを挙げ、21-21の同点で折り返したのだった。

 帝京大のファンにしてみれば、番狂わせも大いに期待できるゲーム展開だった。が、サントリーはハーフタイムに気を引き締め直す。
「前半はだらしない展開。うちが大事にしなければいけない部分を帝京に上回られた。ハーフタイムでは、(自分たちの)態度のことしか言ってない。相手に対して、仲間に対して、お客さんに対して失礼だぞ、と」(サントリー・沢木監督)

 サントリーは後半早々、ラインアウトからモールで一気に押し込み、勝ち越した。
 すぐにPGで点差を詰められ、49分(後半9分)にはハットトリック寸前だったFL小澤が帝京大のFB尾崎にからまれグラウンディングできず、サントリーに嫌な流れが続いたが、52分、ゴール前5メートルのスクラムで圧倒してペナルティトライを獲得。55分には今季トップリーグMVPのWTB中靏隆彰が、66分にはFB松島が連続トライを挙げ、勝利を引き寄せた。

 帝京大は68分にFB尾崎がまたも好走してWTB吉田のトライを演出したが、最後はサントリーがFB松島のトライで締めくくり、ノーサイドとなった。

「1年間の集大成で臨んだ。悔しい気持ちでいっぱい」と、挑戦を終えた帝京大キャプテンのFL亀井亮依は語った。「通じたものは多くあった。自分たちの一番の強みはディフェンス。しかし、そこでチャンスを作ろうと思ったが、セットの部分が準備不足だった」と振り返った。

 決勝に進むのはサントリーサンゴリアス。反省点を多く出しながらも、勝って2冠に王手をかけた。29日に東京・秩父宮ラグビー場でおこなわれる今シーズン最後の決戦では、ヤマハ発動機ジュビロにリベンジして上昇ムードのパナソニック ワイルドナイツと対戦する。