中日の選手寮「昇竜館」の館長兼野手育成コーチを務める松岡功祐さん(73)は2015年、26年ぶりにプロの世界に復帰した。そんな松岡さんに、「昇竜館」の館長になったきっかけや、選手たちに伝えていること、昨年のドラフト1位小笠原慎之介、今年のド…

中日の選手寮「昇竜館」の館長兼野手育成コーチを務める松岡功祐さん(73)は2015年、26年ぶりにプロの世界に復帰した。そんな松岡さんに、「昇竜館」の館長になったきっかけや、選手たちに伝えていること、昨年のドラフト1位小笠原慎之介、今年のドラフト1位で明大の後輩にあたる柳裕也ら中日の若手投手陣について聞いた。

■明治大コーチ時代に関係者から“スカウト”、26年ぶりにプロの世界へ復帰

 中日の選手寮「昇竜館」の館長兼野手育成コーチを務める松岡功祐さん(73)は2015年、26年ぶりにプロの世界に復帰した。明大を卒業後、社会人のサッポロビールを経て1966年にドラフト1位で大洋に入団。ショートとして活躍した。77年に引退後、79年から89年までコーチを務め、その後は横浜のスカウトとして数々の選手の獲得に携わった。

 球団が提携を結んでいる中国のプロチーム、天津ライオンズにも派遣され、コーチに就任。2011年からは母校、明治大学でコーチ兼寮長を務めた。そんな松岡さんに、「昇竜館」の館長になったきっかけや、選手たちに伝えていること、昨年のドラフト1位小笠原慎之介、今年のドラフト1位で明大の後輩にあたる柳裕也ら中日の若手投手陣について聞いた。

 プロの世界への復帰は、明大の練習を見に来ていた球団関係者に声をかけられたことがきっかけだった。

「明大のキャンプを見に来ていた球団の方に声をかけてもらいました。『歳を取っている割には元気だな』と思われたんだと思います。『ユニフォームを着る気はありますか』と言われて『あります』と即答しました」

 72歳という年齢だったが、体力的な心配は何もなかった。

「現役を引退してから、コーチをやっている期間が長かったので、体の心配はありませんでした。最初は館長の話はなかったのですが、それまで館長を務めていた明治の後輩が辞めるというので、館長も引き受けました」

■アマでも務めたベテラン寮長が見る「いい選手の資質」とは…

 松岡さんの1日は早朝に始まる。5時半に起きてお風呂に入り、その後ストレッチと腹筋。ナゴヤ球場の周りを歩き、戻ってきてからウエイトトレーニング。そして選手とともに、朝のラジオ体操を行う。

「朝は、朝食前にラジオ体操をします。朝が一番大事です。寝ぼけ眼で朝食を取っても、食事が入りません。選手は食べることも仕事ですからね。体を起こしてからご飯を食べるとおいしく食べられますよ」

 朝のラジオ体操は、最初は戸惑う選手たちも多いそうだ。退寮するときには「館長、ラジオ体操やらなくて済みます」と言って出ていくという。「みんな思い出を残して卒業していきますよ」と松岡さんは笑う。

 選手たちに伝えているのは「1年でも長くプロの世界で活躍できるように」ということだ。

「こんなに素晴らしい世界はありません。『1年でも長くプロの世界で活躍しなさい』と言っています。そのためには、何事にも一生懸命に取り組むこと。野球を辞めても、一生懸命やっていれば道は必ず開けます。『俺を見ろ。72歳で奇跡のカムバックと言われたんだから』と選手たちには言っていますよ」

 明大でも寮長を務めていた松岡さんは、いい選手になる資質は、プロでもアマでも変わらないと話す。

「明大でもここでも、部屋を見ればわかります。整理整頓ができない選手は、伸びませんね。そういう選手は、練習も続かない。練習はポイントを押さえて、毎日続けることが大事です」

■ドラフト1位の明大・柳「あいつなら大丈夫だと思います」

 選手それぞれ持っている資質が違う中で、「自分の大事なものは何か」がわかっていることが重要だと松岡さんは考える。

「『今日はこの練習、これを掴もう』と考えてやることが大事ですね。なんでも100%は無理ですから、それ以外は流すだけでもいいと思います。『何を掴んで、自分の何を売り出すか』それをわかることが必要だと思います」

 東海大相模高から2015年にドラフト1位で入団し、1年目を終えた小笠原は、オフに左ひじの手術を行った。リハビリを続ける姿を間近で見ている松岡さんは、今季は必ず結果を残すと期待を寄せる。

「慎之介は毎朝お風呂で温めて、ウエイトトレーニングを欠かしません。リハビリをしながらのためスタートは遅くなるかもしれませんが、今シーズン、2桁は勝てると思いますよ」 

 明大からドラフト1位で入団した柳とは、大学時代の2年間を一緒に過ごした。期待のルーキーには「焦らず、まずプロの世界、生活に慣れること」とエールを送る。

「プロの生活に慣れ、1日でも早くみんなに溶けこむこと。それが1番大事ですね。明治でも一緒でしたが、あいつなら大丈夫だと思います。球速もありますから、あとは球の精度を上げることですね。まず1勝。それでいいと思います」

 松岡さんは「みんな自分の孫みたいなもの。とにかくかわいい」と笑顔を見せる。プロでの経験も豊富な73歳の館長は、若い選手たちの精神的な支えになっているはずだ。

篠崎有理枝●文 text by Yurie Shinozaki