メキシコ代表として侍ジャパンと対戦した「最速157キロを誇る体重107kgの巨漢投手」、収入5分の1減(推定)で来日す…
メキシコ代表として侍ジャパンと対戦した「最速157キロを誇る体重107kgの巨漢投手」、収入5分の1減(推定)で来日する「カリブの二刀流」、そして今オフ話題を呼んだ「カブレラJr」......。
いずれも今季から日本球界にやってくる新外国人で、特徴を並べただけでワクワクする。さらに、彼らを率いるのは「日本に馴染みすぎた助っ人独立リーガー」だ。3人の元メジャーリーガーはコロナ禍の渡航制限でまだ来日を果たせていないが、ベールを脱ぐ日が待ち遠しい。

カブレラの息子ラモンはキャッチャーとしてMLBレッズでもプレー
ちなみに3選手とベネズエラ人の新指揮官が加わるのは、NPBの球団ではない。「もうひとつのプロ野球」と言われる独立リーグ、ルートインBCリーグの茨城アストロプラネッツだ。昨季7勝49敗4分だった"最弱球団"で、いったい何が起きているのだろうか。
「3人の元メジャーリーガーを獲得したのは、技術的なところに加え、社会的なインパクトも意識しています」
そう説明したのは、今季就任した色川冬馬GMだ。31歳の同氏はイランやパキスタン、香港の野球代表監督を歴任し、MLBのマイナーチームやメキシコリーグチームらと対戦しながらスカウトにアピールするトラベルチーム「アジアンブリーズ」を運営するなど豊富な国際経験を持ち、独自のルートで3人をリクルートしたという。
なかでも注目されるのが、「カブレラJr」ことラモン・カブレラだ。188cm、98.4kgの父アレックスは西武時代の2002年に日本記録タイ(当時)となる55本塁打を放った"怪力"でファンを魅了した一方、現在31歳の息子は173cm、93kgと父よりだいぶ小柄で、「両打ちの捕手」という珍しいタイプ。色川GMが獲得の意図を説明する。
「打力があり、キャッチャー、ファースト、DHをできる選手がいれば、チーム全体が大きく変わるという状況でした。全世界で網羅的に探し、浮かび上がったのがラモンです。ネームバリューはダントツで、4本とはいえメジャーリーグでホームランを打っています。知人の紹介でつながり、契約に至りました。人間的にも陽気ですばらしく、みなさんを楽しませてくれると思います」
2015年にシンシナティ・レッズでメジャーデビューしたラモンは控え捕手として同年13試合、翌年61試合に出場。以降はマイナーリーグやアメリカの独立リーグを渡り歩き、31歳になった今年、日本にチャンスを求めた。茨城で活躍して西武入団......ともなれば、日本の野球ファンは大いに湧き立つはずだ。
カブレラJr以外のふたりも、光る特徴を持つ。
右腕投手のセサル・バルガスは188cm、107kgで、体格だけを比較すれば西武、巨人時代に"マルちゃん"の愛称で親しまれたドミンゴ・マルティネス(185cm、102kg)を上回るほどだ。その巨漢から最速157キロを叩き出す。2016年にサンディエゴ・パドレスでメジャーデビューし、2019年3月にはメキシコ代表として侍ジャパンを1回無失点に抑えた右腕に、色川GMも太鼓判を押す。
「レベル高いですよ。この冬もメキシコのウインターリーグで94〜96マイル(151.3〜154.5キロ)をコンスタントに投げていました。それにカットボール、カーブ、スライダーがあり、コントロールがよくて省エネで投げられる。日本で相当通用すると思っています」
それほどの実力者が独立リーグに来たのは、色川GMの人脈が活かされている。茨城のGM就任が決まった際、メキシコ代表のGMに報告した。「僕が何をほしいか、わかっていますよね?」。そう伝えると、紹介された選手のひとりがバルガスだった。
加えて、ユニークな経歴を誇るのが「カリブの二刀流」ことダリエル・アルバレスだ。色川GMによれば、投手として野球人生をスタート。キューバリーグでは強打の外野手として頭角を現し、23歳でメキシコに亡命、2013年にボルチモア・オリオールズと契約した。
2015年にメジャーデビューしたが、思うように活躍できず、2017年に投手に転向する。同年、ひじの故障でトミー・ジョン手術を受けた。
結局、メジャーでは活躍できなかったものの、2019年からメキシコリーグに移ると二刀流としての才能が花開いた。外野手として打棒を発揮するだけでなく、試合途中からマウンドに上がって150キロ台の速球で相手バッターをねじ伏せる。米データサイト『ファングラフス』によれば、2015年に外野手からの送球で100マイルを記録しており、その豪腕をマウンドでも存分に発揮している。
まるで漫画のような歩みだが、続きがある。『SANSPO.COM』の報道によると、メキシコリーグでは月給150万円をもらっていたが、BCリーグでは同30万円(金額はいずれも推定)という条件を呑んで来日するというのだ。
その裏には、胸躍る起用法がある。外野手として先発出場し、試合終盤にセットアッパーかクローザーに回る「二刀流構想」だ。
「平均94〜95マイル(151.3〜152.9キロ)を投げ、ピッチャーとしてもなかなかの実力があります。二刀流は本人もワクワクしていますよ。契約については、メキシコリーグで優秀な外国人選手は月に100万円以上もらっていますが、それが120万円か150万円なのか、具体的な数字はわかりません。
BCリーグでは月給の上限40万円という規定がありますが、うちの球団はそこまで払えません。そういう条件を受け入れて来日してくれるのは、キャリア形成に対する考え方が日本人とは違うからです」
人生は長い旅だ。異国を渡り歩いてキャリアを重ね、さまざまな文化を知ることで自分の価値観が多様になり、充足した日々を刻むことで人生が幸せになる。世界を渡り歩いてきた色川GMは、「第二の母国と思えるくらい、日本の奥深さを知ってほしい」と話した。
同時に睨むのが、「出口戦略」だ。選手たちが茨城で活躍すれば、NPBに移籍するチャンスも出てくる。国内のみならず、色川GMは人脈を活かして韓国、台湾にも売り込んでいくつもりだ。プロ球団と契約成立すれば移籍金が発生し、茨城球団にも金銭的なメリットがある。
こうした戦略を軌道に乗せるためにも招聘したのが、新監督のジョニー・セリスだ。ベネズエラ出身の内野手は20歳でシカゴ・ホワイトソックスと契約したが、活躍できず4年で自由契約に。来日してBCリーグの福井ミラクルエレファンツ(現ワイルドラプターズ)や富山GRNサンダーバーズなど4球団を渡り歩いた。一時はDeNAの練習生だったこともある。
日本の独立リーグで8年間プレーし、シーズンオフになっても「飛行機代が高いから」とベネズエラに帰国せず、焼き鳥屋などでフラフラと食べ歩く模様をFacebookにひらがなで書き込んでいると、一部のマニアに注目された。日常会話を重ねるなかで日本語を習得。日本人と結婚し、昨年は日本ハムで通訳を務めた。
そんな「日本になじみすぎた独立リーガー」は、色川GMにとって長らくの盟友だという。
「僕がまだ現役選手だった頃、富山のガストで夕飯を食べたあと、ジョニーが借りていたレオパレスの部屋で缶ビール片手に夢を語り合ったことがあります。日本の野球界のアンダーグラウンドから次のステージに行きたい、と。
NPBまで行ったジョニーを引き抜くのは葛藤もありましたが、指導者として歩んでいく道のスタートにしてほしかった。僕と同じ目線でチームを見られる人なので、契約していただきました」
3人の元メジャーリーガーが活躍しやすい環境を整え、彼らを間近で見た日本人選手たちが成長していく。そんなストーリーを軌道に乗せるべく、その道の実力者をコーチに招聘した。
アメリカの独立リーグで監督歴がある松坂賢をヘッドコーチに、ダルビッシュ有(パドレス)や千賀滉大(ソフトバンク)も入会して話題になったオンラインサロン「NEOREBASE」で指導する小山田拓夢がピッチング兼ストレングス&コンディショニングコーチに就任。選手を主体的に伸ばしていこうと目論んでいる。
「当然、目指すは優勝です。たしかに夢に向かって大きな目標を掲げて偉そうなことを言っているんですけど、しっかり自分の現在地や足もとを見たうえで話しています」
就任1年目から優勝できると豪語した色川GM。果たして茨城の"最弱球団"は3人の元メジャーリーガーを加え、生まれ変わることができるか。その夢物語から目が離せない。