BATTLE(バトル)、この早大の今季のチームスローガンの実践だった。ラグビーの全国大学選手権準決勝(東京・秩父宮ラグビー場)。昨季の大学王者が、フィジカルの強い帝京大に真っ向勝負を挑み、33-27で競り勝った。帝京大戦で2トライを挙げた…

 BATTLE(バトル)、この早大の今季のチームスローガンの実践だった。ラグビーの全国大学選手権準決勝(東京・秩父宮ラグビー場)。昨季の大学王者が、フィジカルの強い帝京大に真っ向勝負を挑み、33-27で競り勝った。



帝京大戦で2トライを挙げた早稲田大の河瀬諒介

 みな、体を張った。満身創痍。終盤、足を痛めて途中交代した主将の丸尾崇真が試合後、言葉に充実感を漂わせた。

「(足は)大丈夫です。我慢強く、激しくやり続けることを意識していた。相手の強いフィジカルプレーに負けたくなかった。勝ててほんと、うれしいです」

 早大は、早明戦(昨年12月6日)で明大に敗れて変わった。とくに「コミュニケーション」と「精度」である。その象徴が結束のラインアウトからのモールだった。

 前半6分。帝京大ゴールラインまで10mほどの右側ラインアウトだ。まずスローワーのHO(フッカー)宮武海人が定規で計ったかのごとき、正確な山なりのボールを列の後方に投じた。これをドンピシャでNo.8(ナンバーエイト)の丸尾主将がキャッチ。地面に降りた瞬間にはもう、両サイドで丸尾を持ち上げたPR(プロップ)久保優らのリフターが体を密着させていた。周りも即座に寄り、アカクロのジャージが隙間のない塊となった。

 傍目にはこの瞬間、"トライまで行けるな"と映った。早大FWはボールをモールの後ろに送り、HO宮武がキープした。腰の位置が、先発FWの平均で5kgほど重い帝京大FWよりコブシ1つは低い。ここから互いに声を掛け合いながら、矢じりの形となって、左、右、まっすぐと微妙に角度を変えながら押し込んでいった。バックス勢も加わった。

 最後は右中間になだれ込み、宮武がインゴールでボールを押さえた。同24分にも、右ラインアウトの列の中央部分の丸尾主将に合わせ、結束して、ドライビングモールを押し込んでいった。今度は左、左とずらし、まっすぐ。最後は同じく宮武。

 2つとも簡単に相手のゴールラインを割った印象を与えるが、FWの押す方向、結束、技術がなければ、トライまではいかない。

 ラインアウトとモールの中心、副将のLO(ロック)下川甲嗣が「最初のトライで、攻めたら点を取れるということが、チームで認識できました」と述懐し、説明を続けた。

「僕らが練習から意識しているのは、しっかり密着することと、モールの中で話すこと。コミュニケーションをとりながら押せたので、トライにつながったのかなと思います」

 具体的にどんな声掛けを?

「例えば、(モールの)先頭にいる選手が、『前に出られそう』と言えば、それを中の人が『こっちにいくぞ』『左に行くぞ』とか。みんなで言い合って、同じ方向に押し集めることができました」

 さらに前半33分、左ラインアウトからのモールを押し込んで、相手のコラプシング(故意に崩す行為)の反則を連続して奪った後、ラインアウトからオープンに連続攻撃、最後はFB(フルバック)河瀬諒介がハンドオフ、巧みなステップで駆け抜け、右中間に飛び込んだ。ゴールも決まって、リードを2トライ(ゴール)以上の15点差とした。

 河瀬は涼しい顔で振り返った。

「仕留めるところでしっかり仕留めることができたのかな。意識の部分としては、早稲田のバックスリー(FBと両ウイング)として、トライを取り切る。互いにプレー中のコミュニケーションだったり、スペースだったりを共有するようにはしています」

 早大は今季、どこかに王者ゆえの慢心があった。それが、早明戦の敗戦で吹き飛んだ。早大の原点に立ち戻る。相手に挑みかかる気概を取り戻し、ふだんから基本を大事にする。例えば、「勝ちポジ(勝てるポジション)」、すなわち次のプレーに移るとき、体を前傾させて、目線を上げること。倒れたらすぐ、立ち上がること。

 実は、もうひとつ変わったことがある。試合前日の練習風景だ。早明戦までは、新型コロナウイルスの影響から、試合メンバーだけで直前練習に取り組んでいた。だが、試合に出場できない4年生部員から、相良南海夫監督に"直訴"が届いた。「4年生全員に直前練習を見守らせてほしい」と。

 負けたら終わりの大学選手権に入ると、4年生にとっては、それが大学最後の練習になるかもしれない。相良監督は承諾した。4年生部員は試合メンバー(5名)のほか20数名。元旦の試合前練習。グラウンドの周りには、試合に出られない4年生部員の熱い視線があった。思いは試合メンバーに伝わったはずだ。
 
 丸尾主将は言った。

「一緒に練習し、出られない人がいて、そして選ばれた23人がいる。僕らは、(試合に)出られない人の思いを背負って戦いました。とくに4年生は、その姿を見てくれました」

 学生スポーツはどこか切ない。だから、バトルである。最後に4年生、いや全部員で『荒ぶる』(勝利の部歌)を歌うために。
 
 決勝戦(11日・東京・国立競技場)の相手は、明大に大勝した天理大となった。スクラム、ラインアウトのセットプレーがカギを握る。

この日、新型コロナの感染拡大を受けて、東京都など関東4知事が政府に緊急事態宣言の発出を要請した。試合に影響が出るかもしれない。
 
 このことを聞かれると、相良監督は「行政の判断だと思うので」と答えに窮した。

「日本中に感染が広がらないのが一番大事だし、(政府の決定には)従うしかない。その中でもできる方法を...。学生たちには限られた時間なので、どういう形であれ、(決勝の機会を)作ってほしいと思います」

 まさか試合中止はなかろうが、無観客試合となるかもしれない。いずれにしろ、その学年においては、一生に一度の決勝戦なのだ。願わくは、バトルを、"荒ぶる"を。