新型コロナ渦に見舞われた2020年。スポーツ界も東京五輪・パラリンピックの延期決定など多くの打撃を受けた。そのなかでも…
新型コロナ渦に見舞われた2020年。スポーツ界も東京五輪・パラリンピックの延期決定など多くの打撃を受けた。そのなかでもスポルティーバでは様々な記事を掲載。2020年に配信された記事のなかで反響が大きかったものを再公開する(8月28日、10月24日に掲載されたものを再編集)。
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50歳までNPBでプレーし、通算219勝を挙げたレジェンド・山本昌さん(元中日)。これまで数々のアマチュア投手の活躍を予言し、課題を言い当ててきた山本昌さんが、今年の高校生・大学生・社会人でドラフトで指名された19投手を一挙に分析。レジェンドの目にどのように映ったのだろうか?

中日にドラフト1位指名された中京大中京・高橋宏斗
高橋宏斗(中京大中京/183センチ・79キロ/右投右打)→中日ドラフト1位
ひと目見て、すばらしいピッチャーだとわかります。とくに腕の振りの強さには圧倒されますし、ボールの走りがすばらしい。ここまでボールが走るピッチャーは久しぶりに見ました。ストレートはプロでもすぐに通用するのではないでしょうか。大学進学かプロかで進路を悩んでいるようですが、プロ志望届を出せば1位指名は堅いでしょう。上の世界で活躍するためのポイントは、タテの角度をつけて投げるタイプではないので、緩い変化球を投げられるか。また、フィニッシュで体が一塁側に向く傾向があるので、本塁方向に真っすぐ向けられるか。いずれにしても、ぜひプロで見たいピッチャーです。

1年夏から甲子園のマウンドに立つなど経験豊富な明石商・中森俊介
中森俊介(明石商/181センチ・79キロ/右投左打)→ロッテドラフト2位
彼も進学かプロか進路を迷っているそうですが、下級生の頃からいいピッチャーだなと気にして見ていました。非常にまとまりがあって、コントロールがつきやすそうなフォームをしています。私はピッチャーが投球する際に使う空間の幅のことを「ライン」と表現しますが、中森くんはラインが真っすぐにストライクゾーンに向いています。たとえプロの狭いストライクゾーンでも、コントロールには苦労しないでしょう。ダルビッシュ有投手(カブス)や田中将大投手(ヤンキース)のようにピッチングに強弱をつけられるのもポイントです。今後はもっと体重移動がスムーズになって、捕手に近い位置でリリースできるようになれば面白いですね。より伸びのある球が投げられるようになるでしょう。

和歌山の独自大会で自己最速の152キロをマークした智弁和歌山・小林樹斗
小林樹斗(智弁和歌山/182センチ・86キロ/右投右打)→広島ドラフト4位
高橋くん、中森くんと同様に進路に迷っているようですが、素材はすばらしいものがあります。何より体が強そうで、現段階でも150キロ前後のスピードがあるのは魅力です。そしてフォームや体は粗削りなのに、これだけのボールが投げられるところに末恐ろしさを感じます。現時点ではボールは暴れるし、試合をまとめる能力に関しては課題もあります。また、プロで活躍するには強打者をビックリさせるような変化球をひとつ覚えたいところです。でも、素材のよさには驚きました。プロで洗練されてくれば、大きく進化できるピッチャーでしょう。

将来性を高く評価するスカウトも多い大分商・川瀬堅斗
川瀬堅斗(大分商/185センチ・82キロ/右投右打)→オリックス育成ドラフト1位
まず、どっしりとした下半身、体つきのよさが目につきます。フォームを見ると、大先輩の森下暢仁投手(広島)を相当尊敬していることが伝わってきますね。上体を反らせて手が真上から出てくるような投げ方で、相当に研究しているのでしょう。原則的に、ピッチャーはカカト側に体重がかかるとバランスが崩れるのでよくないと私は思うのですが、本人が投げやすくボールに力が伝わっているなら問題ありません。惜しいのは、森下投手よりも左肩の開きが早いように感じること。ここで我慢できるようになれば、タテの大きなカーブの曲がりはもっとよくなるはずです。

山本昌氏が絶賛した福岡大大濠の山下舜平大
山下舜平大(福岡大大濠/188センチ・93キロ/右投右打)→オリックスドラフト1位
斉藤和巳くん(元ソフトバンク)を彷彿とさせる、上背のある投手らしい体型をしているのが第一印象です。上から角度をつけて投げられて、タテの大きなカーブを投げられるのがポイントです。今どき高校生でこれだけ本格的なカーブを投げられるピッチャーは珍しいですし、プロでも武器になるでしょう。体重移動をする際に下半身が突っ立ちぎみでボールが抜けることや、低めに伸びてこないのは課題ですが、体が未完成ですから仕方ありません。体ができてきて、ストライクゾーンに体が入っていくような投げ方になってくれば面白いでしょう。カーブをしっかり投げられるピッチャーはチェンジアップ系の球種も覚えやすいので、プロで覚えてもらいたいですね。

最速148キロのストレートとキレ味鋭い変化球で三振の山を築く静岡商・高田琢登
高田琢登(静岡商/178センチ・77キロ/左投左打)→DeNAドラフト6位
ボールにキレがあり、曲がりの大きなカーブを投げられる左ピッチャーらしい投手だと感じました。コントロールもまとまっていますし、腕を強く振れるのもいい。ストレートと変化球で腕の振りが変わらないのもいいですね。タテのカーブを投げられるということは、腕が高い位置から出ている証拠。これからも生かしてもらいたいですね。惜しいのは、せっかく高い位置からリリースできるのに、早い段階で軸足(左足)のヒザを自ら折って体重移動に入ること。高い位置から体重移動できたほうが、もっと角度がついていい球がいくはずです。粗削りではありますが、貴重なサウスポーですから欲しがる球団は多いでしょうね。

長身から投げ下ろすストレートが魅力の横浜高・松本隆之介
松本隆之介(横浜/188センチ・85キロ/左投左打)→DeNAドラフト3位
昨年は及川雅貴投手(阪神)をプロに送り出している横浜ですが、名門だけあっていい左ピッチャーが続くなと感じます。松本くんの場合は上背があって、上から角度をつけて投げられるので楽しみですね。背が高くて線が細い分、まだ体の弱さが目につきますが、これから鍛えていけば本格化していくはずです。今はフォームがバラついてコントロールに難がありますが、体さえまとまってくればゲームメーク能力も高まっていくでしょう。未完成でも、これだけ速いボールを投げられる素材のよさを評価したいですね。

中学時代から評判の投手だった苫小牧中央の根本悠楓
根本悠楓(苫小牧中央/173センチ・78キロ/左投左打)→日本ハムドラフト5位
堀瑞輝投手(日本ハム)の高校時代にも「プロでも早い段階で活躍できそう」とお伝えしましたが、根本くんにも近いものを感じます。決して強豪とは言えないチームのピッチャーだそうですが、ラインがしっかりしていてストライクゾーンに投げ切る力があります。腕の振りがコンパクトなスリークォーターで、ボールのスピン量が多いのが特徴。打者は球速以上のスピードを感じるはずです。ボールが全体的にカットぎみの変化をしているのは少し引っかかりますが、左肩をもう少し前で振れるようになるといいですね。チェンジアップ系の球種もより投げやすくなるはずです。

今年のドラフトの目玉のひとりである早稲田大・早川隆久
早川隆久(早稲田大/179センチ・80キロ/左投左打)→楽天ドラフト1位
木更津総合高時代から見ていた投手ですが、すごく成長したなぁと驚きました。高校時代は球速が常時140キロ前後でしたが、今では約10キロも速くなっています。さすが小宮山悟監督の指導力だなと感じます。投球フォームは体重移動がスムーズだし、上背を生かせてボールに角度もある。リリースでボールを離すタイミングが非常によく、うまく切れていると感じます。バランスがよく、欠点がほぼないフォームなので、コントロールには苦労しないでしょう。変化球も多彩で、大きく曲がるカーブまである。ロッテが1位指名を公言するのもうなずけますし、ここまで完成度の高いサウスポーは久しぶりです。

今年3月にYouTubeチャンネルを開設した苫小牧駒大の伊藤大海
伊藤大海(苫小牧駒澤大/176センチ・80キロ/右投左打)→日本ハムドラフト1位
日本ハムが1位指名を公言した、北海道の剛球右腕。第一印象は「マー君(田中将大投手/ヤンキース)っぽい立ち方をするなぁ」ということです。足をゆっくりと上げて、強い腕の振りからすばらしいボールを投げます。彼も早川くん同様に高校卒業後に大きく伸びたと聞きますが、18〜22歳の年代は別人のように成長する選手が多いなと実感します。あえて気になる点を挙げるとすれば、少し上体が立ち気味でリリースで引っ掛けて投げるときがあること。体重移動で左肩がもう少し捕手側に寄るようになると、バランスがよくなってボールのキレもさらに上がりそうです。

中学時代に全国制覇の経験がある慶応大・木澤尚文
木澤尚文(慶應義塾大/183センチ・85キロ/右投右打)→ヤクルトドラフト1位
ボールに力があり、いかにも体の強さがあることが伝わってきます。広島の森下暢仁投手のように左肩を先に開いて高い位置から腕が出てくる投げ方ですが、グラブサイドでしっかりと壁をつくって投げられます。それとカットボール、スプリットと140キロ前後で動く細かな変化球がすごくいい。手の振りが鋭いので、このような変化球が扱えるのでしょうね。プロ入り後の課題を挙げるなら、肩の開きが早いフォームだけに、時折シュート回転が強くなる傾向があること。プロの打者は失投を見逃してくれないので、シュートして甘く入ったボールを狙われる危険があります。とはいえ、彼が魅力的な投手であることは変わりません。

スリークォーターから最速155キロの速球を投げ込む日体大・森博人
森博人(日本体育大/177センチ・80キロ/右投右打)→中日ドラフト2位
腕が少し横から出てくるだけでなく、全体的に変則的なムードのあるフォームですね。それでもボールを切る位置がしっかりしているから、球が走るのでしょう。150キロ台のスピードがコンスタントに出て、体に力があることが伝わってきます。少し上体主導で投げるので動作にブレもありますが、体全体でストライクゾーンに向かっていくようなラインを意識すれば、もっとコントロールがよくなるはずです。また、彼が成長した要因のひとつに、日本体育大の辻孟彦コーチの手腕もあると聞いてうれしく思います。辻コーチは中日時代のチームメイトで、ピッチングについて質問してくるなどとても研究熱心でした。今では名投手コーチになりつつありますね。

今年9月のリーグ戦で18奪三振をマークした八戸学院大の大道温貴
大道温貴(八戸学院大/178センチ・83キロ/右投右打)→広島ドラフト3位
初めてチェックする投手でしたが、相当にすばらしい素材ですね。フォームは言うことなし。体を縦に使えるから縦変化の球種を扱えますし、ゆったりと間を取れるのもいいですね。また、これでもかと腕を強く振るので、ボールの走りもいい。完成度が高く、フォームが安定しているのでプロでも先発として投げられそうです。少し気になるのは、1球1球に力を込めすぎるところ。力投型なのはわかりますが、抜くべきところは抜いて8割くらいの力感で投げる術を覚えたら、ダルビッシュ有投手(カブス)のように投球に強弱をつけられるようになるはずです。

最速152キロの速球と多彩な変化球が武器の法政大・鈴木昭汰
鈴木昭汰(法政大/175センチ・81キロ/左投左打)→ロッテドラフト1位
常総学院高時代に見た時から、いい投手だと評価していました。高校時代は「ゲームをつくれるピッチャー」と感じていましたが、大学での4年間で10キロ近くボールが速くなっていて順調に成長していることがうかがえました。フォームはまとまっているし、さまざまな球種で打者を打ち取れる長所も健在です。今後の課題を挙げるとすれば、ボールが全体的にスライド回転しているところ。腕を振る際に右肩と左肩が同時に動いているので、右肩が開くのをもう少し我慢できるようになると、球筋が安定するでしょう。体が真っすぐにストライクゾーンに向かうようになって、今まで以上にコントロールがよくなるはずです。

ダイエーで活躍した永井智浩氏を叔父に持つ亜細亜大学・平内龍太
平内龍太(亜細亜大/186センチ・90キロ/右投右打)→巨人ドラフト1位
こんな投手がいたのか......と衝撃を受けました。恐るべきパワーの持ち主ですね。バックスイングは少し変則的ですが、腕の振りは豪快そのもの。キレ、強さともにすばらしく、これだけボールが走る投手を久しぶりに見ました。今秋は右ヒジのクリーニング手術明けと聞きましたが、現時点で155キロ付近の球速がバンバン出ていますから、将来160キロ前後が出る可能性は十分あるでしょう。大学での実績は乏しくても、これだけのボールが投げられればドラフト上位指名候補ですよね。大学時代の澤村拓一投手(ロッテ)に近いイメージです。あとは体に負担のかかりにくい動作を覚えられたら、長く活躍できるはずです。

高校時代は無名ながら大学進学後に急成長した仙台大・宇田川優希
宇田川優希(仙台大/185センチ・95キロ/右投右打)→オリックス育成ドラフト3位
見るからに体に力があって、フォームのバランスが合ったときは素晴らしいボールを投げる速球派右腕です。特徴的なアウトステップですが、手は真上から出てきてボールに角度があります。ただ、気になるのは腕の振りと体の使い方のバランスが合っていないときが多いことです。すばらしいボールとそうでないボールのムラが激しいのは、ここが原因でしょう。体重移動の際に右腰が前に出てくる前に投げてしまうので、腰が回りきらないのです。西勇輝投手(阪神)もアウトステップするフォームですが、右腰を入れて投げられるので、ぜひ参考にしてもらいたいですね。

作新学院時代の3年夏に甲子園で優勝した明治大・入江大生
入江大生(明治大/187センチ・87キロ/右投右打)→DeNAドラフト1位
日本一になった作新学院高時代に、エースの今井達也投手(西武)だけでなく、2番手として投げた彼のことも印象に残っています。ボールは速いし、将来性も高くて「こんなピッチャーがいたのか」と驚いた記憶があります。ボールとグラブを離すタイミングが遅くて少し変則的なテークバックですが、打者からすると急にボールが出てくる感覚でタイミングが取りにくいフォームのはずです。腕のしなりはいいし、球は速く、変化球のキレもいい。とくに縦に鋭く落ちるスライダーは、今の時点でプロの一軍の打者も手こずるはずです。あとはコントロールをいかに磨けるかがカギになりそうです。腕が速く回る、目標を定める時間が短い投げ方なので、バランスを保てるかどうか。上の世界ではリリーフタイプに見えます。

社会人No.1投手の呼び声高いトヨタ自動車の栗林良吏
栗林良吏(トヨタ自動車/177センチ・80キロ/右投右打)→広島ドラフト1位
社会人ナンバーワン投手の評判どおり、非常にまとまったいい投手だなと感じます。森下暢仁投手(広島)のように左肩を早めに開いて右腕が真上から出てくるフォームで、ヒジがしっかりと上がってタテのカーブがとてもいい。体のラインが真っすぐに捕手に向かっていくので、コントロールもよさそうです。少し気になるのは、縦に落ちるフォークを投げる際に腕の振りがわずかに緩むこと。プロの強打者を相手に投げるには、腕を強く振り切れるようになりたいところです。とはいえ大学、社会人と経験を積んでいるだけあって、完成度の高い即戦力候補なのは間違いありません。

東洋大で上茶谷大河、甲斐野央らとチームメイトだったENEOSの藤井聖
藤井聖(ENEOS/176センチ・78キロ/左投左打)→楽天ドラフト3位
大学時代は甲斐野央投手(ソフトバンク)、上茶谷大河投手(DeNA)、梅津晃大投手(中日)の「東洋三羽烏」の陰に隠れていたそうですね。でも、投手は立場によって変わるもの。ENEOSという名門社会人のエースになって、大きく進化したのもうなずけます。上背はなくても腕の振りがよく、力強いストレートに落ちるツーシームも光ります。フォームで少し気になるのは、体重移動の際に左肩が下がりすぎること。リリースまでに肩の位置が戻っていれば問題ないのですが、時折戻りきらないシーンがあり、ボールの上下動が激しくなります。せっかく真っすぐにホームに向かえるラインがあるだけに、もったいなく感じます。もちろん、投球フォームは本人の感覚が大事なので自分に合った投げ方を追求してもらいたいですが、一つの見方として参考になればうれしいです。