本職のポジション以外も無難にこなす。近年、そんなユーティリティ性の高いプレーヤーが増えてきている。先日には、内外野で出…
本職のポジション以外も無難にこなす。近年、そんなユーティリティ性の高いプレーヤーが増えてきている。先日には、内外野で出場していた巨人の田中俊太が梶谷隆幸の人的補償としてDeNAへの移籍が決まったことも話題になった。そんな「便利屋」として存在感を放った選手たちが多くいた。特筆すべきは巨人、ソフトバンクと両リーグを制したチームに多くいたという点だ。
【ソフトバンク】
●栗原陵矢(捕手)
118試合 打率.243 17本塁打 73打点
捕手(3)、一塁(36)、外野(99)
●周東佑京(内野手)
103試合 打率.270 1本塁打 27打点 50盗塁
二塁(66)、三塁(5)、遊撃(22)、外野(33)
●明石健志(内野手)
63試合 打率.253 2本塁打 17打点 4盗塁
一塁(44)、二塁(2)、外野(2)
●川島慶三(内野手)
59試合 打率.263 4本塁打 9打点
一塁(15)、二塁(38)
【日本ハム】
●杉谷拳士
(内野手)
88試合 打率.221 2本塁打 11打点 4盗塁
一塁(11)、二塁(9)、三塁(1)、外野(49)
【巨人】
●大城卓三(捕手)
93試合 打率.270 9本塁打 41打点
捕手(85)、一塁(5)
●若林晃弘(内野手)
76試合 打率.247 2本塁打 14打点
一塁(8)、二塁(20)、三塁(9)、遊撃(1)、外野(43)
●増田大輝(内野手)
74試合 打率.297 0本塁打 2打点 23盗塁/防御率0.00 2/3回 1四球
投手(1)、二塁(8)、三塁(3)、遊撃(36)、外野(22)
●田中俊太(内野手) ※来季からはDeNA
48試合 打率.265 1本塁打 6打点
一塁(14)、二塁(16)、三塁(7)、遊撃(1)、外野(3)
【ヤクルト】
●廣岡大志(内野手)
87試合 打率.215 8本塁打 15打点 4盗塁
一塁(1)、二塁(15)、三塁(40)、遊撃(6)、外野(18)
●西田明央(捕手)
69試合 打率.232 7本塁打 20打点
捕手(62)、一塁(3)
※カッコ内の数字は、そのポジションでの出場試合数。1試合に複数のポジションで出た場合は、それぞれの守備位置でカウント。出場試合の総数には、代打やDHなどでの出場が含まれている
彼らは絶対的なレギュラーでなくとも、一軍に欠かせない存在として重宝される。現代野球の〝新潮流〟。チームに多くのオプションをもたらす「便利屋」の重要性を、現役時代に捕手や外野手として活躍した、プロ野球解説者の秦真司が説く。

今シーズン、投手を含め多くのポジションをこなした巨人・増田大輝
便利屋----ユーティリティプレーヤーの大前提の条件として、「ピッチャーとキャッチャー以外、どのポジションでも平均以上に守れる」ことが挙げられます。私の認識としては、守備力が高く、足もそれなりに速くて走塁技術のある選手が、そういった立ち位置になるケースが多いように感じています。
ファンのみなさんをはじめとする一般のイメージとしては、日本ハムの杉谷がまさにユーティリティに適したタイプでしょう。プロ野球全体で言えば、ジャイアンツやソフトバンクのように、複数いるチームが安定した力を示せるように感じています。
私もジャイアンツのコーチをしていた当時、ユーティリティプレーヤーの存在は非常にありがたかった。レギュラー陣に疲労が溜まり、調子を落とした時期に、彼らがゲーム展開や守備などによって的確に仕事をこなしてくれる。そのことで、チームは戦力を大きく落とすことなく試合運びができるわけです。
今シーズンのジャイアンツでは若林、田中、増田がそうでした。
8月6日の阪神戦で増田が緊急登板したことが話題となりましたが、若林、田中も含め3人は器用で身のこなしがいいため、内・外野とも平均以上には守れる。増田あたりは結果を恐れず、思い切りプレーできる選手ですから、ピッチャーに抜擢されたのも頷けます。
足の速さや守備のうまさ、左ピッチャーにめっぽう強いなど、一芸に秀でた「スペシャリティ」と「ユーティリティ」は混同されがちですが、厳密にいうと違います。
ソフトバンクの周東を例にするとわかりやすいでしょう。彼は足だけで「侍ジャパン」入りしたほどの選手です。しかし、昨年までは守備範囲は広かったものの、単純なゴロをエラーしたりミスが目立っていたため代走がメインでした。それが今年になると、守備力が向上。最大の課題と言われていたバッティングでも結果を残すようになり、シーズン中盤あたりからレギュラーに定着しました。
チームでも上位ランクに位置する武器をひとつでも持っていれば「スペシャリティ」。そこに、もうひとつ持ち味が加われば「ユーティリティ」となり、バッティングを評価されればレギュラーをつかめる。周東はこのようなステップアップをしっかり果たし、自分の立ち位置を確立したことになります。
※ ※ ※ ※ ※
レギュラーへの最重要課題と目される打撃面で力を示した選手に、プロ6年目で初めて規定打席に到達したソフトバンクの栗原と巨人の大城がいる。ふたりは捕手が本業でありながら、ほかのポジションも併用して守ることでレギュラーへの活路を見出した。秦も自身の経験から、「チームの意向に従い、チャンスを掴むことが大事」と伝える。
まず、ふたりが主力になれた要因として、チーム事情が挙げられます。
私がジャイアンツのバッテリーコーチだった昨年から、チームとして「攻撃陣を強化したい」という方針が明確でした。そこで、バッティングのいい大城は、キャッチャーの62試合に迫る46試合にファーストで出場。バッターとして試合に出ることと同時進行で、バッテリーコーチだった私は、構えからキャッチング、ブロッキング、スローイングなど、キャッチャーの基本から徹底的に鍛えさせました。
今年、キャッチャーにケガ人が出たとはいえ、ほとんどをキャッチャーのレギュラーとして出場できたということは、練習の成果が出たのだとうれしく思います。
栗原の場合、甲斐(拓也)という球界を代表する絶対的なキャッチャーがレギュラーに君臨していることが大きい。栗原もバッティングがよく、さらには、若手とベテランの世代交代も囁かれている時期でもあった。攻撃に厚みをもたらしたいと考えていたソフトバンクとしても、他のポジションでの起用を決断したのでしょう。結果的にその采配が、チームに恩恵をもたらしました。
もしかしたら、栗原のケースはコンバートに近い位置づけなのかもしれません。というのも、境遇が私と似ているからです。
私もバッティングを評価されてレギュラーを獲得しましたが、転機は古田(敦也)が入団した1990年でした。当時の野村(克也)監督から「古田は打てなくても使う。おまえはバッティングがいいから、そこを生かせ」と、コンバートを打診されました。シーズン中のことで不安でしたが「試合に出られるのなら出たい。レギュラーとして優勝したい」と、思い切って外野手に転向したことでレギュラーになれたので、後悔はしていません。
キャッチャーは「フィールド上の監督」と言われるくらい特殊なポジションです。小さい頃からこだわりを持ってプレーしてきた選手からすれば、そう簡単にコンバートを受け入れられないでしょう。それは、ほかのポジションにも言えることだと思います。
しかし、プロはあくまで試合に出て、活躍してなんぼの世界です。チームの意向に沿い、まずは他のポジションで結果を残す----。そういった献身的な選手が増えれば、互いに刺激し合うことでレベルの高いチームが生まれる。そして、ペナントレースでもより熾烈な優勝争いが見られるのではないでしょうか。