★プロ野球への憧れを身近に 全国各地の小学生から選りすぐられた各球団18名の精鋭たち。小学生とは思えないプレーを見せる選手が多かったが、野球少年らしさが見えたのが開会式後の一場面だ。 サプライズゲストとして出席した内川聖一外野手(ソフトバン…

★プロ野球への憧れを身近に
 全国各地の小学生から選りすぐられた各球団18名の精鋭たち。小学生とは思えないプレーを見せる選手が多かったが、野球少年らしさが見えたのが開会式後の一場面だ。
 サプライズゲストとして出席した内川聖一外野手(ソフトバンク)やチームの指導陣らとともに、集合写真を撮ると、選手たちは群がるように内川に握手を求めに行き、内川も笑顔で応えた。
「プロ野球の選手や侍ジャパンの選手は、彼らに “憧れられる存在”でなくてはいけない。僕も小学生の頃に憧れていたので、そういう気持ちを持ってもらうための力添えはできたのかなと思います。彼らがプロに入るまで選手でいたいという新しい目標もできました」(内川)
 少年時代は、毎春の宮崎キャンプに実家のある大分から見学にもよく行っていたというが、当時はまだジュニアトーナメントは無かったため、「プロ野球の世界が身近にあるのは羨ましいです」とも話した。

 

開会式に仁志敏久侍ジャパンU-12代表監督とともにサプライズゲストとして出席した内川選手


開会式に仁志敏久侍ジャパンU-12代表監督とともにサプライズゲストとして出席した内川選手

 

★元プロ選手の指導陣にも大きな学び

予選リーグ2試合を終え、選手たちの前で涙を流す山崎監督(イーグルスジュニア)

 

 選抜チームではあるが、長いチームで4カ月の時間をかけて「1つのチーム」となり、この大会に臨んだ。それだけに敗退が決まると涙を流す者は多い。そして、それは選手だけでなく元プロ野球選手で構成される指導陣も同じだ。
 予選リーグ2試合が終わり、選手たちとのミーティングで涙を流し、父母への挨拶でも感極まって声を震わせたのはイーグルスジュニアの山崎隆広監督。
グループDのイーグルスジュニアは大会初日の初戦でベイスターズジュニアに1-7の6回コールド負け。勝敗数で並んだ際には得失点差によって順位が決まるため、予選リーグ突破のためには、2日目のジャイアンツジュニア戦で大量点差により勝つことが必要だったが、10-2の圧勝。選手たちは気持ちを入れ替え、今持てる力を出し切った。
「“奇跡は起こるよ。でも、待っているだけでは奇跡は起きないけど、自分たちから動いて奇跡を起こそう”と話していました。だからこそ、本当に“お前ら凄いよ”って感動しました」
 東北全土から選抜されたメンバーだけに、練習回数は他のチームよりも多く取れなかったが、集まれた時には朝9時から夕方5時まで練習をして力を磨き、チームとしてのまとまりを作ってきた。
 もともと各県では名を馳せ、技術に優れた選手たちだけに、能力の向上はもちろんのこと、野球に取り組む姿勢が大きく向上したことが何よりも嬉しかったという。そして、それを最後となってしまうかもしれない試合で、選手たちは体現してみせた。
「この3カ月で本当に選手たちは成長しました。まったく声を出さなかった子も声を張り上げるようになったり、取り組み方とかそういう部分が凄く良くなりましたね。親御さんからも“うちの子が変わりました”と言ってくださって、それが1番嬉しかったです」
 その後行われたベイスターズジュニアとジャイアンツジュニアの試合が引き分けに終わりイーグルスジュニアの予選リーグ敗退が決まったが、選手たちそして指導陣は大きな収穫を手にし、大会を去った。

涙する高波文一マネージャーと選手たち(ホークスジュニア)

★選手たちの成長、小学球児の憧れの舞台に
「このユニフォームを着ることが夢だったので、またこのユニフォームを着られるように頑張りたいです」
 そう話したのは、173cmの長身を生かして本塁打を放つなどし、マリーンズジュニアを4強に導いた海老根優大主将。同じような思いを抱き、大会後には憧れの「プロ野球選手」になる夢をより身近な目標に据えた選手が多かった。
 また観戦に訪れた地元の野球少年も「とにかくみんな足が速くて凄かった。自分もこのユニフォームを着たい」(小学3年生男子)と羨望の眼差しでジュニアチームの選手たちを見つめていた。
 12回目の大会を終えたNPB12球団ジュニアトーナメント。この「憧れの交錯する場所」で選手も指導陣も父母も多くの財産を持ち帰った。そして、その財産は彼らのさらなる成長によって、日本の野球界全体に還元されていくことになるだろう。

決勝戦を終えて交流を深めるベイスターズジュニアとタイガースジュニアの選手たち

文・写真=高木遊