本田望結インタビュー −女優と競技者の狭間で−女優でフィギュアスケーターの本田望結「今回は、自分の全部を発揮したので、全…

本田望結インタビュー −女優と競技者の狭間で−



女優でフィギュアスケーターの本田望結

「今回は、自分の全部を発揮したので、全然、悔しさはなくて。でも結果からしたら、『今回の望結ちゃんはダメだったね』って思われてしまう」

 本田望結(16歳、プリンスホテル)はそう言って、唇をひとつに結んだ。

 11月のフィギュアスケート東日本選手権で、東京選手権を勝ち抜き参戦した本田はショートプログラム(SP)は26位だった。演技構成点ではトップ10と比べても遜色なかったが、ジャンプが決まらない。結果、翌日のフリースケーティングに勝ち残ることができなかった(24位まで)。全日本選手権出場の夢は断たれた。

「サッカー部の皆さんも、すべてを発揮したら悔いはないと思うんです。勝負って、相手が強かったら単純に勝てないわけだから。とにかく、すべてを発揮してほしい。それを祈っています」

 第99回全国高校サッカー選手権、第16代目「応援マネージャー」に就任した本田は、同世代の高校生たちの思いを代弁するように言う。

「自分は感情移入しやすい性格で。皆さんそれぞれ自分にしかわからないことがあると思うんですが、何をやっても、表面上でしか捉えてもらいないことはあって。その人にしたら(悔いはない)ってこともあるはずで。例えば、2018年に出場した全日本ジュニアが、私は一番人生で悔しい。今でも思い出すと、こうやって(平常心で)答えられないほど、悔しさがにじみ出てきて。実力を発揮できなかったのに、いい順位だったのが悔しくて」

 本田は饒舌になった。感受性が鋭く、伝えたい思いが強いのだ。

 幼い頃から芸能界という"大人の世界"で生き、さらにフィギュアスケートに人生を懸けてきた少女は「表現」を追求するーー。

「表現がすごいって言われるのは嬉しいし、『一番でいたい』って思います。でも、表現の仕方っていろいろあって。例えば歓声や熱量が選手に届いて、その熱量を選手が反射させ、また応援が盛り上がって。それは一つの正解だと思いますが、私がスケートで目標にしているのは、拍手が起こらないことです。

 お芝居やドラマを見ているときに、目を凝らすことがあるじゃないですか? 携帯電話を見るのも忘れるように集中するというか。前のめりになる感じで。フィギュアスケートでも、私はそれがほしくて。

 一度、ジュニアだった頃に完璧な演技ができたことがあったんです! 途中で一切、拍手が起こらなかった。特にステップとかで、いつもは起こるところで起こらなかったんです。曲の主人公を私が演じて、観客の皆さんもその世界に入ってもらえたのか。演技が終わって、素の私に戻ったと同時にお客さんも拍手をする瞬間があって、『曲の物語が伝わった』って嬉しくて。

 私は女優としてのお仕事をやっているので、拍手や歓声はうれしいですが、私の演技や表現が伝わっているなら、じっと見てもらえるのが正解な気がして」

 本田は、物心ついた頃からフィギュアスケートに夢中だった。女優の仕事と並行した活動になったが、少しも妥協したことはない。彼女なりの二刀流だ。

「小さい頃は体力があり余っていて、疲れも感じなくて、少しでもフィギュアスケートの練習をしようとしていました。(東京で)お仕事が終わって、(練習時間の)残り3分にでも間に合えばいいから(地元のスケートリンクへ)練習に通っていました。帰りの新幹線で2時間半、乗車したら(到着の)時間は決まっているのに、早く、早くって祈っていました。どれだけ祈っても変わらないんですけど。

(リンクに着いたら)スケート靴を履いて (リンクに)入ったところで、(練習終わりの)時間になっちゃったこともあって。先生の『今日は間に合わなかったね』の言葉を聞いて、間に合わなかったけど(頑張りを)認めてもらえたうれしさか、間に合わなかった悔しさか、泣いてしまって。3分のために来たのに、トイレにこもって15分くらい泣いていました」

 本田は皮肉っぽく言って、肩をすくめた。フィギュアスケートとの付き合い方を、裏切ったことはない。例えばリンクから降りる時、必ず一礼する。他の選手がしなくても、彼女だけはどんなときもあいさつを欠かさない。フィギュアスケートをする時間が限られてきたからこそ、滑れる幸せを愛おしむ。

 19年の西日本ジュニア、本田はあと一歩のところで全日本ジュニア出場を逃したことがあった。悔恨か、屈辱感か、演技後の表情は険しかったが、インタビューには丁寧に答えていた。そして、部屋の隅にあるベンチに座ると、スケート靴をきれいに拭き、大切にしまっていた。道具への愛着は、ともに戦ってくれた感謝と、次も頼むよ、という決意に映った。

「試合後は、イライラしているわけではないですけど、笑顔にはならなくて」

 本田は言う。

「(自分の演技について)ずっと考えています。私が出たテレビ番組を見ていただいた方からすると、(競技では)『機嫌悪いの?』って思われるかもしれません。真顔で『よし、やってやるぞ』と燃えている感じとはギャップがあるんだなって思います」

 本田は、その狭間で生きてきた。そこに、彼女の表現の矜持がある。フィギュアスケーターで、女優でもある本田望結の律動だ。

【profile】 
本田望結 ほんだ・みゆ 
2004年6月1日、京都府生まれ。オスカープロモーション所属。ドラマ『家政婦のミタ』(日本テレビ系)や映画『コドモ警察』など数多くの作品に出演。女優業と並行してフィギュアスケーターとしての活動も続け、今年シニアデビューを飾る。12月に『本田望結カレンダー2021』(トライエックス)発売予定。