ダービージョッキー大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」 今年の秋競馬では、偉大な記録が立て続けに達成されてきました。 無敗の…
ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」
今年の秋競馬では、偉大な記録が立て続けに達成されてきました。
無敗の牝馬三冠を遂げた秋華賞のデアリングタクト、父子で無敗の三冠を果たした菊花賞のコントレイル、史上最多の芝GI8勝を挙げた天皇賞・秋のアーモンドアイ。どれも見応えのあるレースでしたし、競馬界にとって今年は、すでに歴史に残る一年になっていると思います。
こうして大いに盛り上がる秋のGIシリーズは、先週の中休みを経て、今週から再スタート。ここから年末まで、7週連続のGI開催となります。
そのトップを飾るのは、牝馬の頂点を決めるGIエリザベス女王杯(11月15日/阪神・芝2200m)。今年は京都競馬場の改修工事により、阪神競馬場で行なわれます。
「牝馬の頂上決戦」とはいえ、最近は牝馬が強い時代。本当に強い馬は、もはや牡馬、牝馬の垣根を越えて、混合GIに参戦し活躍するようになりました。昔は、牡馬相手に渡り合える牝馬が出てきただけで絶賛されていましたが、今や競馬界全体のトップに牝馬が君臨し続けていますからね。時代の変化を感じざるを得ません。
そんな状況ですから、今年はアーモンドアイも、デアリングタクトも、クロノジェネシスも、エリザベス女王杯には出走しません。距離適性を考慮してのことですが、グランアレグリアもエリザベス女王杯ではなく、次週に行なわれる牡馬混合のGIマイルCSに向かいます。
そういう意味では「牝馬の頂上決戦」と言うのは憚られるかもしれませんが、一昨年のレースを勝ったリスグラシューのように、この舞台を足掛かりにし、牡馬と互角以上の勝負を見せて時代の頂点に立った馬もいます。今後の競馬界を占ううえでも、注目のレースであることは間違いありません。
となれば、出走馬にはエリザベス女王杯がゴールだと思わず、さらに上のレベルで戦うための通過点だと思ってもらいたいですね。実際、そうした可能性を秘めた馬が今年の出走馬の中にもいると見ています。
さて、今年は3頭のGI馬が出走します。今春、牡馬相手のGI大阪杯(4月5日/阪神・芝2000m)を勝ったラッキーライラック(牝5歳)、昨春のGIヴィクトリアマイル(東京・芝1600m)を制し、前走のGII札幌記念(8月23日/札幌・芝2000m)でラッキーライラックに完勝したノームコア(牝5歳)、そして昨年のオークス馬ラヴズオンリーユー(牝4歳)です。
基本的には、この3頭の力が一枚上なのではないでしょうか。
ラッキーライラックは、昨年の覇者であり、大阪杯でGI3勝目をマーク。GI宝塚記念(6着。6月28日/阪神・芝2200m)、札幌記念(3着)と連敗してしまったため、この秋はエリザベス女王杯の連覇を目指すことになったようですが、牡馬相手でも戦えるレベルの馬です。
同馬は昨年、クリストフ・スミヨン騎手に乗り替わって、末脚を生かすスタイルに変えてエリザベス女王杯を快勝。見事に覚醒を果たしました。その後、今春からはミルコ・デムーロ騎手が新たなパートナーとなって奮闘してきましたが、今回はクリストフ・ルメール騎手に乗り替わります。今の日本競馬で最も頼もしい乗り替わりであることは間違いなく、再び変貌を遂げるのか、大いに注目されます。
一方、ラッキーライラックを手放したデムーロ騎手は今回、ラヴズオンリーユーに騎乗。同馬とは3戦目のオープン特別・忘れな草賞からコンビを組んでおり、ラッキーライラックとの能力的な比較より、愛着のほうが上回ったのかもしれません。昨年のエリザベス女王杯では1番人気で3着でしたから、自らの手でリベンジを果たしたい気持ちもあるのでしょう。
オークスのあとは、なかなか勝ち星に恵まれていませんが、能力的にはここでも見劣りはしません。距離が延びたほうがいいタイプだと思いますし、巻き返しが期待されます。
そして今回、この2頭をまとめて差し切るのではないか、と見込んでいるのが、ノームコアです。
今年の春も、GI高松宮記念(15着。3月29日/中京・芝1200m)から始動して、GIヴィクトリアマイル(3着。5月17日)、GI安田記念(4着。6月7日/東京・芝1600m)と走ってきて、古馬になってからは短い距離を中心に使われてきました。しかし、久々に距離を延ばした札幌記念が非常にすばらしい内容でした。
陣営としては、秋競馬の選択肢を増やすべく、札幌記念はその試金石のつもりで使ったレースだと思うのですが、あの勝ちっぷりなら、距離を延ばしてエリザベス女王杯に参戦する決断を下したことにも納得です。
そもそも3歳春には、桜花賞には目もくれず、オークスに狙いを定めて走ってきた馬(出走は叶わず)。血統的にも、父がハービンジャーで、半妹にクロノジェネシスがいますから、本質的には長めの距離のほうが合っているような気がします。
鞍上の横山典弘騎手は、先週のGIIIファンタジーSで2着に導いたオパールムーンもそうですが、決め打ちで爆発的な末脚を引き出すのが、本当にうまいジョッキーです。
よく「後方、ポツン」と言われますが、あの位置取りは、並みの騎手では怖くてできないものです。馬群にくっついていれば、騎手が位置取りで責任を問われることはほとんどありませんが、1頭だけ後方に離れていて、それでいて結果が出なかったら、相当非難されますからね。つまり、かなりの自信とやる気がなかったら、あのポジションで競馬はできないのです。
また、札幌記念で先に抜け出しを図ったラッキーライラックを鮮やかに差し切ったように、横山典騎手は他に人気の馬がいるとき、その馬を目標にして打ち破る形を得意としています。ノームコア自身、人気を他の馬に譲る形でレースをしたほうが戦いやすいでしょうし、GI2勝目なるか、楽しみです。
これらGI馬3頭がやや優勢と見ますが、一角崩しを期待するなら、3歳馬だと踏んでいます。この世代は、デアリングタクトが断然の「一強」だったので、他の馬たちは最後まで目立ちませんでしたが、決して世代レベルが低いとは思いません。エリザベス女王杯では過去にも3歳馬の台頭がよく見られますから、なおさらです。

エリザベス女王杯での一発が見込まれるソフトフルート
そして今年は、GI秋華賞(10月18日/京都・芝2000m)から5頭が出走予定。なかでも、同レースで3着と好走したソフトフルート(牝3歳)を今回の「ヒモ穴馬」に指名したいと思います。
今春の5月にやっと2勝目を挙げ、休み明けの2勝クラス・夕月特別(9月26日/中京・芝2000m)で4馬身差の圧勝劇を披露。その勢いで抽選突破の秋華賞でも3着に食い込んだ、いわゆる上がり馬です。
夏を越して"馬が変わった"と考えれば、底を見せていませんし、阪神の内回りで行なわれる今年の舞台にも対応できそうな、一瞬の脚があるのも魅力です。
今回の鞍上は、福永祐一騎手。ジョッキーとして、円熟の極みに達してきた印象があり、ここでもどんな手綱さばきを見せてくれるのか、とても楽しみです。
さらに、ソフトフルートを管理する松田国英調教師は、来年の2月で定年。最後の秋のGIシリーズで、ぜひとも好結果を残してもらいたいものです。