「明日へのエールプロジェクト」の一環で、学生とアスリートが今とこれからを一緒に語り合う「オンラインエール授業」。第36回目の講師は、栃木県立小山北桜高等学校で教頭を務め、栃木県弓道連盟副会長兼強化部長に就く増渕敦人さんだ。昭和55年にインタ…

「明日へのエールプロジェクト」の一環で、学生とアスリートが今とこれからを一緒に語り合う「オンラインエール授業」。第36回目の講師は、栃木県立小山北桜高等学校で教頭を務め、栃木県弓道連盟副会長兼強化部長に就く増渕敦人さんだ。昭和55年にインターハイに出場、昭和58年には全日本学生弓道選手権大会で優勝し、昭和62年全日本弓道大会有段者の部で優勝という成績を残した。平成22年には第1回世界弓道大会の日本代表にも選出されるなど国内外で輝かしい功績を残している。

全国高校弓道部の現役部員や顧問の教員が約65が集まり、今のリアルな悩みや質問に答えた。

「自分の弓道理論はシンプル・イズ・ベスト」

まず増渕さんに高校時代を振り返ってもらう。地元・栃木県は弓道が盛んな地域であったことから中学2年から弓道を始めた。そして高校3年の時に栃木県で初の国民体育大会が開催されることになったため、『県代表になりたい』、『部活動が命』という意気込みで練習に明け暮れていた。

また、将来も弓道に関わる仕事をしたいと考えていた増渕さんは「自分が教員になった理由の一つに、一番(弓道に関わるため)良い環境の職業を考えたとき、部活動の顧問になることが良いという結論に至り、教員を目指した」と口にすると、自身のターニングポイントになった出来事を次のように語った。

「自分は高校入学時には既に初段を持っていた。1年生の頃、男女でのインターハイ出場が決まっていたこともあってOBが練習の指導にきていた。自分の的中率は5割ほどだったが、OBが『あいつを見ろ。下手くそだけど、毎回、同じ引き方をしているから当たるんだよ』と、指導する3年生に言っていた。今、考えれてみれば3年生を励まそうと思って言ったと思うのが、当時の自分は『カァー』となってしまい、そこから弓道教本を見るようになり、上手くて当てる選手になろうと心に決めた」。何気ないOBの一言が人生の分岐点となるほどの大きな影響を与えていた。

続いては質疑応答のコーナーへ。技術、メンタル、将来についてを高校生が増渕さんに質問をぶつけた。

技術面についての質問では、「射形を直すにあたり注意している点について?」という質問が飛ぶ。増渕さんは手の平を胸に当てながら「自分の弓道理論はシンプル・イズ・ベスト。裏を返せば基本重視。余計なことをしない意味もあるが、シンプルに動作をする」と話すと、参加者に分かりやすいよう画面越しに模範となる一連の動きをしてみせる。

「弓道の動きは、打起こして、開いていく、深呼吸をするように両腕を上げ、左右均等に開いていくイメージをする。今まで試行錯誤をして、結局、これが一番だという結論に辿り着いた。弓道の基本動作は、取りかけ、手の内、物見、打起こし、引分け、会、離れ、これだけ。大会や審査では緊張してしまいコネて、自分の中で分からなくなってしまう。それが余計なことで失敗の原因になる」と丁寧に説明すると、高校生らは、一言もそれを逃すまいとメモを取っていた。

「弓道はすべての動作がルーティン」

続くメンタルでは「テスト期間などで1週間ほど弓道が出来ない状態で、久しぶりに弓道をしてみたら、1週間前とは程遠い出来だった。メンタル的に落ち込んでしまって、こういう時はどうすればいいのか?」との悩みが寄せられた。増渕さんは「自分もアキレス腱を切ったり、肩を痛めたりなど、しょっちゅう怪我をしていた。その時は家で素引きをしていた。例えば家にゆがけなどの用具があれば少し引いてみるなど、弓を引く感覚を忘れないようにしていた」と話す。

弓を引く動作は、『射法八節』という八つの節に分けられている。その1つ1つを正しく組み合わせ、一連の動作で正確に行うことで的中率は高くなっていく。修練を重ね、射法の一連動作の設計図を自分の中に描くことが大切となる。

「私は自分の中で、『こうやって弓を引くんだという設計図ができている』ので、筋力が落ちないように素引きをすること、怪我防止のために体幹トレーニングをすることを心がけている」とアドバイスを送った。逆説的に言うならば、設計図を描くことができるようになれば迷いはなくなるはずだ。

「増渕さんの大会前日、当日のルーティンがあれば教えて欲しい?」との質問に対して「ルーティンは大切なことだと思うが、自分が思っていたことと違う不測の事態が起きた場合に焦ってしまう場合があるので、自然体で構えていた方が焦らないで済むと思う。ただ道具を使う競技なので用具の手入れや大会から逆算をして、自分のイメージの中で時間を区切って行動をすることは決めた方が良い。それと余裕を持つこと」と話すと「射場に入場してからの動作も、弓道はすべての動作がルーティン。設計図を決めてさえいれば緊張も和らぐので、自分はリズムを大切にしている」と続けた。

増渕敦人さんが語る“明日へのエール”

最後に“明日へのエール”を求められた増渕さんは「生徒同士で教え合う時には基準が必要となるので、弓道教本にある射法八節の図解を基準にして教え合って欲しい。頑張ってください」とエールを送ると、増渕さんを囲み弓を引く『会』のポーズを取り記念撮影をし、オンラインエール授業は終了した。

今後もさまざまな競技によって配信される「オンラインエール授業」。

これからも、全国の同世代の仲間と想いを共有しながら、「今とこれから」を少しでも前向きにしていけるエールを送り続ける。