パラ3大会連続出場中のダニエル・ディアス、伝えたい「夢は叶う!」ということ 新型コロナウイルスの影響で1年延期された東京パラリンピックの開催まで、28日で残り300日となった。出場が期待されるダニエル・ディアス(ブラジル)は、過去3大会連続…

パラ3大会連続出場中のダニエル・ディアス、伝えたい「夢は叶う!」ということ

 新型コロナウイルスの影響で1年延期された東京パラリンピックの開催まで、28日で残り300日となった。出場が期待されるダニエル・ディアス(ブラジル)は、過去3大会連続出場し、計24個という膨大な数のメダルを獲得したパラ水泳界の英雄だ。この度「THE ANSWER」のインタビューに応じた32歳は、先天性の四肢奇形という「個性」と常に向き合い、少年時代には差別に耐えて人生を歩んできた。辛い過去を支えたもの、そして東京への思いに迫る。

 ディアスの水泳人生の幕開けは2004年。パラリンピック・アテネ大会を見た16歳の時だった。ブラジル代表で「パラリンピックのサメ」の異名をとったクロドアルド・シルバが6冠を達成。両脚がうまく動かないハンデを抱える中、勇ましく泳ぐ姿に「自分もモチベーションが上がったんです」と語る。

 年が明け、05年初めから水泳に挑戦。ディアスはメキメキと実力をつけていった。なんと翌06年に世界選手権に出場。いきなり3つの金メダルと2つの銀メダルを獲得し、07年にはパンアメリカンにも出場した。

「昨日のように、その頃の気持ちは覚えています。最初に100メートルの競技を始めた時、『これはいけるかもしれない』という感覚がありました」

 08年、北京パラリンピックでディアスはその名を世界に轟かせる。100メートル自由形、200メートル個人メドレーなどで計4つの金を獲得。12年ロンドン大会では、6つの世界新記録を叩き出した。母国開催の16年リオ大会を合わせ、これまでパラリンピックで獲得したメダルの数は計24。うち金メダルは14という、パラ水泳界最強のスイマーとなった。

「水泳を始めた時から、大きな夢は持っていました。常に大きな夢を見るということは意識していましたが、まさか……。もし(競技を始めた頃の自分が)15~20年後を想像した時、きっと今まで獲れたものまでもは想像できなかったと思います。まとめて言えば『夢は叶う!』ということを伝えたいです」

差別に悩んだ少年時代、「人生で最も大変な時期」を支えたのは…

 快進撃を続け「金メダルコレクター」とも呼ばれるまでになったディアスは、差別に悩んだ少年時代を過ごした。先天性の四肢奇形。手足に個性を持った1人の男の子を、受け入れられない人たちもいた。

「差別というのは、いかなるどのようなところでも存在するものだと思っていますが……誹謗中傷のような言葉も言われましたし、スポーツに限らず、自分の人生の中でも最も大変な時期でした」

 学校で心無い言葉を浴び、涙して自宅に帰った日も少なくない。辛い時期を支えたのは、まぎれもなく家族の存在だった。ディアスは両親への感謝をしみじみと語る。

「腕がない、足がないということが、友達より劣っているということではないということを言い聞かせてくれました。特に、自分が『何かできるんだ』ということで勇気づけてくれたのが母でした」

 何かを書く、自分のベッドを整える、運動をする。単純なことでも、自分にはできるということを認識させてくれた。小さなことが大きなことへとつながっていくということも、家族から教えてもらった。大きな愛に救われた経験から、今も心に刻んでいることがある。

「差別というのは、存在してもしょうがないことかもしれない。でも『自分自身は差別しない』という自分の気持ちの大切さを学びました。特に、障がいという他の人と違うところは、あくまでも『自分の個性』であり、自分が何者かということを決めつける問題ではない。自分の気持ち、自分がどう思うかということを非常に大切にしています」

 差別を乗り越え、パラスイマー最強の称号を手にしたディアス。悩みを抱えた時、どのようなアプローチをするのか。答えはシンプルだった。

笑うことの重要性を胸に東京へ「新しい歴史を作り変えたい」

「いつも僕は笑うこと、ポジティブであることを考えています。スポーツでも、他のことでも同じようなことが起きるし、できるだけ大変なことも学びというものに変えて、いつも笑っていられるように。『昨日よりも今日がいい』という風に考えるようにしています」

 順調に見える競技キャリアだが、挫折も数多く経験している。そんな時も決して下は向かない。頬を緩ませ、明るく笑う。笑顔がポジティブ思考につながり、状況を打開する鍵になると信じている。

「夢は叶う」。力強く語るディアスだが「夢に到達するには非常にたくさんの努力と、涙ぐましい大変な思いは必要」とも力説する。自身4度目となる夢舞台は東京。2年前にも訪れ、好印象を持った地だ。

「間違いなく日本にまた戻りたいと思っています。すごく日本の印象は良かったです。特に印象に残っているのが、オリンピックとパラリンピック、両方同じように日本がプロモーションをしているところ。全く違いがないように感じました。

 東京がパラリンピックをホストするために大変準備が整っているというのも見受けられました。私もすごくうれしく思いますし、またぜひ日本に戻りたい。競技を行いたいという気持ちになります」

 予期せぬ事態で1年延期となった東京大会。「延期が決まった時には調整もピークに達したところだったので、全部方向転換しなければならなかった。練習方法も変わりました」。こんな時でも“ポリシー”の笑顔は絶やさない。

「新しい歴史を作り変えたいと思っています。来年の大会に向けて頑張っていきたい」

 オンラインでの取材。画面越しに映る姿は常に希望に満ちていた。水中から上がってきた晴れ晴れとした表情を、来年の東京で何度も見られることに期待したい。

■ダニエル・ディアス

 1988年生まれ、ブラジル出身。2005年、16歳で水泳を始める。わずか1か月半で4泳法を習得し、2006年の世界選手権で金メダル2つ、銀メダル3つを獲得した。2007年にはパンアメリカンに出場。2008年北京パラリンピックでは4つの金を含む9つのメダルを獲得した。2012年ロンドン大会では母国の旗手を務め、世界新記録6つを叩き出す。地元開催となった2016年リオ大会でも4種目で金メダルを獲得するなど、パラ大会の通算獲得メダル数を男子スイマーとして最多の24まで伸ばした。(THE ANSWER編集部・宮内 宏哉 / Hiroya Miyauchi)