新型コロナウイルス感染拡大の影響で多くの大会が中止に追い込まれる中、今年初の公式戦となる関東大学選手権が日本武道館で行われた。全日本大学選手権が今年は中止となり、今大会が芝本主将のもとで挑む最初で最後の公式戦。「やれることはやった」(芝本…

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で多くの大会が中止に追い込まれる中、今年初の公式戦となる関東大学選手権が日本武道館で行われた。全日本大学選手権が今年は中止となり、今大会が芝本主将のもとで挑む最初で最後の公式戦。「やれることはやった」(芝本、細田)と今シーズンの成果を実感する一方で、組手は男女ともに帝京大に敗れベスト8、女子形は予選敗退と悔いの残る結果となった。

男子組手/帝京大を追い詰めるも、あと一歩及ばずベスト8


気迫の組手でチームを牽引した芝本

 早大は3回戦で昨年優勝校の帝京大と対戦。早大は先鋒に芝本主将を起用し、先行型の作戦をとった。試合は芝本が開始早々に上段突きで先取を奪うと、その後は激しい突きの応酬が続く。しかし芝本が持ち味の突きのスピードと気迫で相手を圧倒し、着実にリードを広げて3-1で快勝。「自分で勢いをつける」との言葉通り、圧巻の組手を見せた。作戦通り流れにのった早大は、次鋒の長沼俊樹(スポ2=東京・保善)も積極的な攻めで主導権を握り、上段突きで得点を重ねて勝利。中堅の吉田も引き分けて2勝1分で折り返し、勝利に目前まで迫った。しかし、後半を託された野澤颯太(法2=長野・松商学園)、伊坂夏希(スポ3=鳥取・米子東)は帝京大の主力に苦戦を強いられてしまう。劣勢の中で攻めを仕掛けるものの、相手の優位を崩すには至らず2敗を喫した。総合結果は2勝2敗1分と並んだが、総得点の差で惜しくもベスト8で敗退。最後に帝京大の層の厚さを見せつけられる結果となった。

 「チームとして、自分としてもやれることは全てやった結果」(芝本)。もちろん優勝を狙っていた早大にとって、ベスト8は納得のいく結果ではない。これまで幾度も敗れた帝京大にあとわずかに迫りながら、そのカベを越えられなかった悔しさは計り知れないものがあるだろう。それでも、自分の組手を発揮するという目標については「100%達成できた」とチームメイトを讃えた。そして、連覇した帝京大から今回2勝を挙げた大学は早大だけ。このことは順位以上の価値があるといえるだろう。チームとして残すは早慶戦のみ。今度こそ総力戦で宿敵・慶応に勝利し、チームの真価を結果で証明したい。

女子組手/価値ある初戦勝利、帝京大にも健闘見せる


鋭い上段突きで2勝を挙げた天本

 全員が1・2年生の若いメンバーで臨んだ早大は、初戦の関東学院大戦を余裕を持った試合運びで勝利。強豪の帝京大との対戦に進んだ。先鋒では天本菜月(スポ1=宮崎・宮崎第一)が登場。体格差のある相手に対して機敏に立ち回り、キレのある突きで先制。直後に追いつかれるものの終盤に再び上段突きを決め、2-1で勝利を収めた。中堅の土谷菜々子(スポ2=北海道・札幌北)はナショナルチームに属する実力者に有効打を出せず、徐々に点差を広げられて敗戦。大将戦を任されたのは形とのダブル出場となったアルフォルテさくら(国教1=フィリピン・ラサール・ゾベル)。昨年の学生チャンピオンを相手に、突きの撃ち合いでは旗の上がる場面※も見られた。しかし、相手の威力ある突きや中段蹴りに対して流れを掴めず、0-3で敗戦。チームもベスト8でコートを去った。 ※得点には審判4人中2人以上が旗を上げる必要がある

 ここ数年破れなかった初戦のカベを越えて、チームとして大きな1歩を踏み出した女子団体組手。さらに帝京大に1勝を挙げ、最後まで勝敗を争ったことで来季のさらなる上位進出へ期待が高まる。次戦は昨年2戦2敗と苦杯をなめた早慶戦。今回の奮闘が再び早慶戦で見られるならば、早大の勝利は一気に近づくことだろう。

女子形/無念の予選敗退も力出し切る


出場校の中で最後の演武となったが、「いつも通りの形が打てた」(細田)

 早大は唯一昨年からメンバー入りの細田悠乃(社4=沖縄・開邦)に加え、益田恵理花(基理2=東京・早実)とアルフォルテさくらの3人で『燕飛』を披露。チームを結成してから間もない中だったが持ち味の「こなし」の成果を発揮し、息の合った演武を見せる。しかし強豪校には及ばず予選敗退となり、目標としていた入賞には届かなかった。

 「力を出し切った」(細田)。細田は試合後、チーム結成から限られた時間での取り組みや、試合本番でのパフォーマンスについてそう振り返った。言わば「自身との戦い」においてベストを尽くせたことが、この言葉につながったのだろう。そして、これが細田にとって最後の形試合。自身の集大成として結果は伴わなかったが、「もっとどん欲に、自信を持ってやってほしい」と後輩の更なる成長に期待してコートを去った。上位校の牙城を崩すことは容易ではないが、伸びしろは十分。今大会の経験を糧に、新たな女子形の挑戦が始まる。

(記事・写真 名倉由夏)

※掲載が遅くなり、申し訳ございません

結果

▽男子団体組手

1回戦 〇早大3-0朝鮮大学校

先鋒 野澤颯太(法2=長野・松商学園) 〇5ー0

次鋒 吉田翔太(スポ3=埼玉・栄北) 〇7-2

中堅 長沼俊樹(スポ2=東京・保善) 〇2-0

2回戦 〇早大3―0(1分)東農大

先鋒 長沼 〇1-0

次鋒 吉田 △0-0

中堅 芝本航矢(スポ4=東京・世田谷学園) 〇4ー0

副将 野澤 〇4-2

3回戦 ●早大2-2(1分)帝京大

先鋒 芝本 〇3-1

次鋒 長沼 〇3-0

中堅 吉田 △0-0

副将 野澤 ●0-7

大将 伊坂夏希(スポ3=鳥取・米子東) ●0-5

総得点6-13により内容差負け

▽女子団体組手

1回戦 〇早大2-0関東学院大

先鋒 天本菜月(スポ1=宮崎・宮崎第一) 〇3ー0

中堅 土谷菜々子(スポ2=北海道・札幌北) 〇2-0

2回戦 ●早大1-2帝京大

先鋒 天本 〇2-1

中堅 土谷 ●0-5

大将 アルフォルテさくら(国教1=フィリピン・ラサール・ゾベル) ●0-3

▽女子団体形

第一ラウンド敗退

コメント

芝本航矢(スポ4=東京・世田谷学園)

――今大会が大学最後の公式戦となりましたが、大会を終えての感想をお願いします

狙っていたのは優勝でしたので、あそこで負けてしまったのは正直悔しいです。私にとっては最後の学連の公式戦ということはすごく意識していましたが、有終の美を飾れなかったのは非常に悔しかったです。けれども、チームも自分もやれることは全てやった結果ですので、そこに後悔はないかなと今は思っています。

――芝本さんは3戦全勝という結果でしたが、自身のパフォーマンスについてはどうでしたか

自粛期間中も練習を一日たりともしなかった日はなかったので、そういったものが自信になりました。思い切りの良さや自信の強さが試合に出た日だったのではないかなと思っています。

――自粛期間前と比べて強さを感じられた点はありますか

自分の持ち味はスピードと思い切りの良さなので、そこをさらにレベルアップさせました。研究されても自分の組手を貫くことで勝ち上がっていくことを意識してやっていました。

――事前の対談では「相手が誰でも自分の組手をする」ことを目標に挙げていましたが、それはどれくらい達成できたでしょうか

もう100%達成できたなと思います。それが結果としてついてこなかったのはまだまだ努力不足というか、練習が足りなかっただけなので、これからもっと練習してもっと自分の組手をレベルアップさせていけば勝てるのではないかなと思います。

――帝京大戦では先鋒で登場し、正直相手は意表を突かれたのではないかと思います。どんな作戦で臨みましたか

あのオーダーは、向こうが多少なりとも嫌だと思っている私が先鋒をつとめることで勢いをつけて、相手が嫌なムードになったところを叩く作戦で、監督、コーチ、主将、副主将で考えました。

――新型コロナウイルスの影響でメンホーの着用や試合時間やの半減などのルール変更が行われましたが、その点についてどう捉えていましたか

ルールが変わったという情報を知った次の日から、すぐ対応しながら練習していたので、試合ではそういう所を気にすることなく行けたのかなと思います。

――芝本さんにとってこの大会が学連最後の大会となりますが、1年生から出場してきた今大会を終えて今どんな思いですか

言葉で表せないくらい学連の試合を通して自分自身成長したと思います。1年から一つずつ語りたいくらいですが、思い出しながら話すとちょっと長くなるので(笑)。ほんとに1年1年嬉しい思いも悔しい思いもたくさんしました。尊敬する先輩、頼りになる後輩と出会えて、団体戦の5人もしくはチームで一丸となって学連の試合に出られたのは本当に幸せだなと思っています。

――今年は主将として引っ張る立場としての出場となりましたが、どんなことを心がけましたか

試合前日と当日に「やれることは全てやった、後は自信を持って胸を張って組手をするだけだ」と言って皆を送り出しました。本当に頼りになる後輩ばかりだったので、変にくどいことは言わずそれだけ伝えて、あとはしっかり背中を見て皆を応援していました。

――今後の試合予定についてはいかがですか

まずは11月の後半に早慶戦があります。そのあと12月の中旬の全日本選手権に、学連から推薦を頂いて出させていただくことになりました。

――最後に、その2試合に向けての意気込みをお願いします

6歳から空手をやり始めた集大成として、思い切った組手ができるように、全てをささげる気持ちで12月の選手権までしっかり練習して、最高の結果で終われるようにしたいと思っています。

長沼俊樹(スポ2=東京・保善)

――大会を終えての率直な感想をお願いします

「悔しい」の一言ですかね。

――自身は3戦全勝。自分自身のパフォーマンスを振り返ってどうでしたか

勝てたことは勝てたんですけど、内容的にはいまいちだったというのが率直な感想で、また新たな課題が見つかったかなと思っています。

――新たな課題というのは、具体的にはどんなことですか

近い距離の技ですね。1・2回戦で勝つには勝ちましたが、あまり点差の開かなかった原因がそれですね。相手が自分の攻撃を避けた後や、掴みあった後にポイントが取れる技が少なかったです。

――1・2回戦ではなかなか攻撃が得点につながらず苦戦している印象でしたが、帝京戦までに修正したことはありますか

1・2回戦は勝って当たり前という相手だったので、とりあえず点数を取りに行こうという気持ちでした。3回戦はやはり相手も強いので、落ち着いて戦おうという意識を持って臨んだ感じです。

――試合全体を通しての感想や、そして今大会での収穫や課題についてお願いします

試合全体の感想としては悔しいの一言です。今月末の全日本の選考会や11月の早慶戦に向けて、今回見つかった課題に取り組みたいと思いました。

――これからの試合への意気込みをお願いします

どちらの試合に関しても勝つのは当たり前という気持ちで臨みたいなと思っています。今回1・2回戦は点差があまり付けられず余裕を持って次の選手に回せなかったので、もっと圧倒的な差をつけて勝ちたいなと思っています。

細田悠乃(社4=沖縄・開邦)

――今大会が大学最後の公式戦となりましたが、今大会を終えて率直な感想をお願いします

今日までやれることはまずやった、というのが一番です。ただそれはそれとして、結果に関しては悔しいなというのもあります。私は今日が最後なのでやりきったし、他のメンバーは今回が大学で初めての大会なので、今後に繋がるような形にはできたのかなと思います。

――事前対談では「練習より良い形を打ちたい」とおっしゃっていましたが、その目標は達成できましたか

それは達成できたと思います。アルフォルテさくら(国教1=フィリピン・ラサール・ゾベル)の方はメンバー入りして1ヶ月くらいなので、統一感でも限界があるし、私自身ももともと松濤館流じゃないので分からないところもありました。それで、そういう足りないところを補うためにどうしたらいいかを考えて練習してきました。多分、2人は今日めちゃめちゃ緊張してたんですよ(笑)。入場のところで少し間違えてしまったとか、演武の前後でかなり上がっていたのは感じました。組手と違って形は一発勝負なので、その一回でいつも通りの形が打てるというのはすごいことで、なかなかできることじゃないと私は思っています。今回それができたというのは、力を出し切ったと言えると思います。

――どんな点を特に意識して演武に臨みましたか

今回は出場校が少なかったのですが、そもそも関東はレベルが高くて、上位7校がいるだけなんです。だから、他大学より上手い形をしようと考えず、自分たちの100%を出すということに集中して他の大学を意識しない、強いて言うならそういう所を意識したかなという感じですね。

――この3人の演武そのものの特徴や持ち味はどんなところですか

一番意識したことは「こなし」です。自分たちは結成して短いんですけど、ここの1ヶ月「こなし」をかなりやるようにしました。今回の敗因はどうしても大学の練習だけでは埋められない地力の差だと思います。恵梨花(益田、基理2=東京・早実)はそもそも空手の経験が少なく、さくら(アルフォルテ)とは結成してからの時間が短くて合わせた経験が少なく、私は松濤館にあまり慣れてないという。でも、少なくとも限られた時間の中でどれだけ集中して練習したか、どれだけこなしたかという「こなし」というのは自分たちの持ち味だったのかなと思います。

――今大会で形の試合は最後となります。自身の16年間の空手人生を振り返って今どんなことを感じますか

やはり環境って大事だなとすごく思いましたね。私は高校の時に全国で2番という成績を残せたのですが、それは自分の力ではなくて環境がすごく良かったからだと思っています。今回は個人戦がなくなり、団体では自分が今までやってきた流派ではない形をやることになりましたが、それでもモチベーションがそんなに下がらなかったんです。一人でやってたら絶対モチベーションが下がったと思うんですけど、空手部で自分の好きな後輩とか部員たちに囲まれながら練習していたから、練習しよう、試合に出ようと思うことができました。

――共に演武した二人に伝えたいメッセージはありますか

もっと結果を目指していっていいと思います。さくら(アルフォルテ)は今まで結果を残しているから自信はある程度あるだろうし、今後も上を目指していくと思うし、期待しています。恵里花(益田)も今まで経験が少なくてもあと2年もあるので、工夫次第で全然力はつけられます。彼女たちなら絶対結果を出せると思うので、もっとどん欲に、自信を持ってやってほしいなと思います。

――同期の芝本選手を始め、チームメイトにどんなことを伝えたいですか

月並みな言い方になってしまうんですけど、すごく感謝してます。部活に入ってなければ学べなかったことも沢山あったし、絶対ここまで続けてこれなかったと思います。私は大学1年生の頃は色々しんどくて、空手辞めたいなと思ってる時期も結構あったんです。でも学年が上がるにつれて部活になじむことができて、同期や後輩のおかげでずっとモチベを落とさずにここまで続けてこれました。だから、やっぱりすごく感謝してると伝えたいです。