北田瑠衣に聞く女子ゴルフの疑問「プロで成績を残すには」 活況を見せる女子ゴルフで浮かぶ様々な疑問に対し、ツアー通算6勝の北田瑠衣(フリー)が「THE ANSWER」の取材に応じ、プロ目線の答えを語ってくれた。全3回に渡ってお届けする第1回は…

北田瑠衣に聞く女子ゴルフの疑問「プロで成績を残すには」

 活況を見せる女子ゴルフで浮かぶ様々な疑問に対し、ツアー通算6勝の北田瑠衣(フリー)が「THE ANSWER」の取材に応じ、プロ目線の答えを語ってくれた。全3回に渡ってお届けする第1回は「プロで成績を残すには」。アマチュア時代にプロツアーで活躍しても、プロになって名前を聞かなくなる選手もいる。差を分けるポイントは何なのだろうか。

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 何が違うのか。毎年のように若手の台頭が話題となる女子ゴルフ。しかし、厳しいプロの世界で全員が生き残っていけるわけではない。アマ時代にプロツアーで上位に入り、10代で「逸材」「期待の星」と呼ばれた選手がそろってプロで大物に育つことは難しい。

 順調に成長曲線を描く選手と、そうでない選手の差はどこにあるのだろうか。福岡・沖学園高時代にナショナルチームに入り、プロでも活躍した北田は理由の一つに「ジュニア時代の環境」を挙げた。

 自身は10歳からゴルフを始め、地元・福岡で育った。「私のジュニア時代は、九州の環境がとてもよかったんですよ。小さい時からコースで実戦練習ができることが多かったです」。学校帰りにゴルフ場に通い、自分でキャディーバッグを担いでラウンド。頻繁に“生のコース”を経験できた上に、打ちっ放しでも球拾いをすればいつも練習できた。

「やはり大切なのは、練習場よりもコースでの経験値ですかね。打ちっ放しはアドレスや目線も全てがフラットですが、コースに出るとアンジュレーション(起伏)があるので、フラットなところでプレーすることはほぼありません。そういう環境でラウンドを積み重ねていくこと。幼少期の環境がプロになれる、なった後の活躍にも繋がっているのではないかと思います」

 難コースで戦うプロの世界。困難な状況を打破する対応力を早くから身につけることが違いを生む。九州では都会に比べてゴルフ場が近く、安い費用で多くの練習量をこなすことができた。現在ツアーで活躍するプロたちは、5歳頃からクラブを握っている時代。より、幼少期に過ごす環境が影響するという。さらに北田は「今の子は小さい時からレッスンプロやインストラクターに基礎を習っている選手も多いので、やはり基礎もしっかりしている」と付け加えた。

 技術面以外に、精神面でも大きな要素がある。周囲の期待から生まれるプレッシャーだ。2002年にプロ転向した北田は「プロで優勝して、活躍に応じてスポンサーさんがついてくださった」というが、今はプロデビュー前からサポートを受ける選手もいる。ツアーの隆盛に伴い、企業の広告塔の一つになることで得られる支援。北田は「彼女たちにとってもちろんありがたいことですが、プレッシャーにならないのかなと思います」と懸念している。

 決して悪いことではないが、“自分のため”にするゴルフに“人のため”の要素が加わることで精神面に及ぼす影響があるようだ。

 北田の場合は「アマチュア時代もそんなにぱっとした選手ではなかった」と大きなタイトル獲得はなくプロデビュー。プロ1年目に賞金ランク35位でシード権を獲得し、初優勝は2年目の04年5月だった。比較的時間がかからなかった理由について「私の場合は本当にノンプレッシャーでした。『プロテストに受からなきゃ』『周りが凄く期待してくれているから成績を残さなきゃ』というのは、特になかったですね」と明かした。

1試合平均30万円の経費、賞金を意識してプレーする必要はあるのか

 初優勝した試合は「雲の上のさらに上の存在」と尊敬する不動裕理、当時アマだった諸見里しのぶと最終組で優勝争い。最強女王の不動と4打差で出たが、自身が後半にボギーで崩れかけた時にふと思った。「『新人だし、プレッシャーだよね』と思われるのが嫌だなと思っていました。踏ん張って頑張ろうという気持ちで結果的に勝てたと思います」。初優勝がかかる緊張感の中、周囲の目線を反骨心に変えた。

 この気持ちのコントロールは自然とできたという。未勝利から「初優勝」の冠を手にできるかどうかを左右する期待の捉え方。周囲の支援も「上位でプレーすると、メディアに取材していただいてテレビにも映る。そこでスポンサーさんのワッペンが映ることで『少しでも恩返しできる』という気持ちにはなりました」とポジティブな力になった。

 しかし、誰もが前向きに捉えられるわけではなく、期待を重圧に感じてしまう選手もいる。北田は「でも、調子が悪い時こそ周りの方々は温かく見守ってくれているんですよ。それがわかるから、がむしゃらに頑張れる。プロになって、より責任感を持てるようになりました」と当時を振り返った。“期待に応えなくちゃ”と考えすぎる必要はないのかもしれない。

 精神面で与える影響はもう一つある。アマとプロの決定的な違いが賞金だ。アマは優勝しても0円だが、プロなら予選を通過すれば順位に応じて変わってくる。たった1打で数百万円の違いが生まれるプロの環境では、一般人に計り知れない重圧があるだろう。

 選手の経費は移動、宿泊、エントリー費など最低でも1試合平均30万円ほど。帯同キャディーやトレーナーと契約すればさらに膨れ上がる。安定して上位に入れる選手ならともかく、若い選手がこのプレッシャーの中で思うようなプレーができるかどうかも、成績を残すか否かに関わってくる。

 北田はプレー中に賞金のことは「忘れる」という。ラウンド後に「うわ、あの1打いくらだった!」と笑い話になることはあるが、「プレー中は本当に1打に集中しているのであまり賞金額は考えたことがないですね」と明かし、こう続けた。

「むしろ順位。もちろん、○位タイよりも単独順位の方が(金額が)いいじゃないですか。なので、『よし、バーディーを獲れた。単独○位になる』という目線でボードを見て、自分の順位を確認していたことはありました」

 コース脇に設置されたリーダーボードで自分の順位を確認しながらプレーする選手と、全く視界に入れずにプレーのことだけを考える選手がいる。「私の場合はすっごい見てました(笑)」と北田は順位を気にしながらも、これがプレーに悪影響を及ぼすことはなかった。

 生のコースを早くから経験できる環境と積み上げた基礎、周囲の期待から生まれるプレッシャーの捉え方、賞金の懸かる中で自分のプレーができるか。これらの要素がプロでも順調に成績を残せるか、埋もれていってしまうかに影響する。それでも、北田は今の若手に対してこう感じるという。

「ここ5年くらいは、アマチュアの時からプロツアーで活躍している選手でも、すんなりプロテストに受かって活躍している選手が凄く多い。そういう選手を見ると、とってもハートが強いんだなと思います」

 厳しいプロの環境で一人でも多くの選手が活躍し、ファンを楽しませてくれることが望まれる。

(6日掲載の第2回は「渋野日向子×宮里藍の共通点」)(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)