無情の降板に、法大ファンが詰めかけた一塁側内野席から大きな拍手が降り注いだ。しかし、マウンドを降りた背番号1の胸にこみ…

 無情の降板に、法大ファンが詰めかけた一塁側内野席から大きな拍手が降り注いだ。しかし、マウンドを降りた背番号1の胸にこみ上げた感情は、一つだけだった。

「あの場面は、絶対に点を取られてはいけなった。あそこで打ち取り切れなかったところが……悔しいです」

 そう語ったのは、法大のエース・鈴木昭汰(4年)。悔しさが残った「あの場面」とは、降板直前に投じた138球目だった。

 0-0で迎えた9回2死二、三塁。2ストライクと追い込み、3番・瀧澤虎太朗(4年)を低めの変化球で引っかけさせた。打球は一二塁間に転がる。この回から守備に就いていた二塁手・高田桐利(2年)が追いついた。

 3アウト、チェンジ。そう思った次の瞬間だった。高田桐の送球がわずかにファウルゾーン側に逸れ、一塁手・羽根龍二(4年)の足がベースから離れた。記録は内野安打。均衡が破れ、客席では三塁側からは歓声が、一塁側からは悲鳴が響いた。

 よもやの形で、ここで交代を告げられた鈴木はうつむき、涙をこえらているようにも見えた。

「ヒット数は多い中でピンチになった時にしっかりと投げ切れていた思うけど、結果がすべてなので……」

 ドラフト1位候補と圧巻の投げ合いだった。早大の先発はエース・早川隆久(4年)。立ち上がりから4者連続三振を奪うなど、法大打線を圧倒した。これに「HOSEI」のエースを担う鈴木も意地で対抗した。

 対照的に、毎回のようにピンチを背負いながら、要所でギアを上げた。8回まで得点圏に6度背負いながら本塁を踏ませない。早川とともにスコアボードに、8回終了までに16個の「0」を並べ続けた。

ピンチを切り抜け、雄たけびを上げる法大・鈴木

 8回2死の攻撃で鈴木に打席に回ったが、法大・青木久典監督に代打の選択肢はなかった。

「うちは左のエースは鈴木、右のエースは高田。こういう試合なら心中するしかない。点を取られるまで代えるつもりはなかった」

 全幅の信頼を受け、上がったマウンドだったが、すでに130球を投げていた鈴木の体を異変が襲っていた。

 時折、右足を伸ばすような仕草を見せ、合間に給水も挟んで力投したが、先頭に中前打、次打者のバント処理を捕手・大柿廉太郎(2年)が二塁悪送球でピンチを広げた。犠打で1死二、三塁とし、2番・吉澤一翔(4年)を三飛に打ち取った後にベンチに下がり、治療を受けた。

 そして、再び上がったマウンドで決勝点は生まれた。

 早川は112球を投げ、4安打13奪三振で完封。同じく13三振を奪った鈴木も10安打を浴びながら8回2/3を2失点(自責0)。「(早川は)自分の実力より素晴らしい投手。自分が足りないものを持っているのは間違いない」と語ったが、負けずとも劣らない138球だった。

9回は合間に給水しながら力投した法大・鈴木(中央)

 青木監督は「両チームともに良いゲームができたんじゃないか。でも、勝たないといけない」と振り返った上で、決勝点となった高田桐の守備については「9回から代えたのは私の責任。難しいところまで追いついて、よくやったんじゃないかと思う。彼には何の責任もない」と背負い込んだ。

 しかし、10試合で戦う秋のリーグ戦はまだ3試合(2勝1敗)。春秋連覇を目指す戦いは、7試合を残している。

「こういう展開でピンチもたくさんあったけど、しのいだことは次の試合につながる。もちろん、反省点もあるので、そこは受け止めながら、次の試合に臨んでいきたい。明日もあるので」

 最後は視線を上げた背番号1。4日の2回戦は「右のエース」の高田孝一(4年)の先発が予想される。鈴木の力投を無駄にするつもりはない。


<Full-Count 神原英彰>