現地時間10月4日、フランス・パリ郊外にあるパリロンシャン競馬場で行なわれる凱旋門賞(パリロンシャン/芝2400m)に…
現地時間10月4日、フランス・パリ郊外にあるパリロンシャン競馬場で行なわれる凱旋門賞(パリロンシャン/芝2400m)に、アイルランドのGI2勝馬ジャパン(牡4歳)とのコンビで武豊騎手が参戦する。自身9度目となる凱旋門賞への挑戦だ。

今年で凱旋門賞の騎乗が9回目になる武豊
武騎手は、かねてから凱旋門賞への強い思いを公言してきた。それが、今回で9回目という、ヨーロッパの騎手でも簡単に成し得ない騎乗回数につながっている。
凱旋門賞への初参戦は、デビュー8年目のシーズンである1994年のこと。この約1カ月前に、武騎手はスキーパラダイスとのコンビでムーラン・ド・ロンシャン賞を制し、日本人騎手として初となる「国外G1勝利」を成し遂げたばかりだった。
この年の凱旋門賞で騎乗したホワイトマズルは、社台ファームの代表である吉田照哉氏の所有馬という縁もあったが、2走前のキングジョージ6世&クイーンエリザベスSでも武騎手の騎乗で2着。前年の凱旋門賞でも2着だったことから、レース当日は有力馬の1頭と目されていた。
しかし、結果は20頭立ての6着。後方待機から外を回って追い込んでくるレース内容に、当地のメディアでは落胆、批判する声が上がったという。
2回目の挑戦は、それから7年後の2001年。武騎手は長期遠征してフランスを拠点に活躍し、それが認められ、フランスのトップ調教師であるアンドレ・ファーブル調教師からサガシティを託された。同馬は2歳時にGⅠを制しながら、3歳になったこの年は5戦して勝利がなく凱旋門賞を迎えた。それでも武騎手は、道中はインで脚を溜め、最後の伸びで3着に食い込む好騎乗を披露。2度目の挑戦で、早くも勝利が見える位置に来たのだ。
そして5年後、ディープインパクトで挑戦することになる。日本から駆けつけたファンによって、現地でのオッズが1倍台になるほどの支持を集めたが、結果は3着入線(後に禁止薬物検出で失格)。日本最強馬でも敗れた事実は、同じ3着でも7年前の初戦とは意味が違う。凱旋門賞の壁の高さ、厚さを、本人だけでなく関係者やファンに思い知らせる結果になった。
しかし、この3度の敗戦が、武騎手にとっての凱旋門賞の存在をより大きくしたことは間違いない。初騎乗から12年で3回だった騎乗数は、2008年のメイショウサムソンとの参戦以降、同じ12年で5回に増えた。
筆者の印象に残っているのは、キズナとのコンビで挑戦した、6回目の挑戦となる2013年のレースだ。
2013年は、前年の同レース2着の雪辱を期すオルフェーヴルが主役だった。前哨戦のニエル賞で、その年の英ダービー馬らを破ったキズナにも期待は寄せられていたが、やはりオルフェーヴルと比べると「次点グループ」という評価になった。結果だけ見れば、3歳牝馬のトレヴが圧倒的なパフォーマンスを発揮し、オルフェーヴルは2年連続の2着。キズナも4着に終わった。
しかし、その勝負どころの4コーナーで武騎手が見せた騎乗は、オルフェーヴルに外からプレッシャーをかけて馬込みに押し込め、自身はその間に加速していくという明確な"勝つイメージ"を持ったものだった。オルフェーヴルがどんな競馬をするかに注目していた筆者は、躊躇なくオルフェーヴルを"潰し"にいく姿勢に胸が熱くなり、思わず「おおっ!」と声が出た。
ひとつ間違えれば、日本のファンから非難されかねない戦術だ。しかし、そんな批判は意に介さないという、凱旋門賞の勝利に対する渇望を目の当たりにした。
現在、日本の競馬関係者やファンにとっても、凱旋門賞への憧れは格段に大きなものになっている。数ある歴史的な海外レースの中でもそう認識されるようになったのは、武騎手の挑戦の歴史によってもたらされたものとも言える。
そして今年は、アイルランドの名門、A.オブライエン調教師が管理するジャパンで挑む。同馬は昨年の英インターナショナルSを勝利し、凱旋門賞では4着と好走した。しかし、今年は4戦して勝利どころか2着もない。前走の愛チャンピオンSも、一旦は伸びかけながら、最後は失速して5着に敗れた。さらに相手が強力になる凱旋門賞では苦戦が予想されている。
さらに新型コロナウイルスの影響で、日本でも海外からの入国に際してPCR検査が義務づけられている。陽性であればそのまま隔離措置。陰性でも14日間の自宅待機が要請されている。つまり凱旋門賞に参戦すれば、帰国後に短くとも2週間、日本での競馬を休まなければならない。
それでも武騎手は騎乗オファーを受け、参戦を決断した。武騎手本人にとっても、それだけの思いと覚悟、価値が凱旋門賞にあるからに他ならない。
苦戦が予想されているのは、サガシティで参戦した2001年も同じ。騎手リーディング首位から陥落して久しく、衰えも指摘されたこともあったが、近年は再び勝利を積み重ねて唯一無二の存在感を取り戻してきている。
逆境に立たされたときほど燃え上がる男が、凱旋門賞という舞台でジャパンに乗り、どんな競馬を見せてくれるのか。楽しみは尽きない。