サッカースターの技術・戦術解剖第25回 チアゴ・アルカンタラ<バイエルンに不可欠な司令塔>"うるさい"ぐらいのテクニシャ…
サッカースターの技術・戦術解剖
第25回 チアゴ・アルカンタラ
<バイエルンに不可欠な司令塔>
"うるさい"ぐらいのテクニシャンである。シャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタの後継者として注目されたバルセロナ時代を経て、2013年にバイエルンに移籍。当時のジョゼップ・グアルディオラ監督たっての希望だった。

バイエルンで大活躍。不可欠な司令塔になったチアゴ
父親は元ブラジル代表のマジーニョ。イタリアで生まれ、その後ブラジルとスペインを往復するような子ども時代は、まさに父親の「仕事の関係」だったが、13歳でバルセロナの下部組織に入った。
バルサのカンテラ育ちらしい洗練に、ブラジルの外連味を加えたようなチアゴのプレースタイルは、大物感に溢れていた。それからすると、バイエルンでの活躍は少し物足りない感じもあった。飛びぬけてうまく、十分活躍もしていたのだが、チアゴへの期待値はもっと高かったと思う。
それでも2019-20シーズン、チャンピオンズリーグ(CL)を制したバイエルンで、チアゴはようやく実力に相応しい評価を得られたのではないだろうか。力強いバイエルンの高価な装飾品ではなく、不可欠な存在になっていた。
チアゴのポジションは中盤の底だった。スペインでピボーテ、イタリアならレジスタと呼ばれる役割。かつてグアルディオラがヨハン・クライフ監督に与えられた「クワトロ」でもある。バイエルンのパスの多くは、チアゴを経由する。
攻撃的なポジションならどこでもこなせるチアゴをここに置いたのは、後方のビルドアップを確実にするためだ。後方でボールを確保し、そこから前線の両翼に長いパスを配球するのがバイエルンのやり方である。
このロングパスでもチアゴは重要な役割を演じていて、アメリカンフットボールならクォーターバックだ。
後方ではチアゴを中心にボールを握るバイエルンだが、そこからは一気に前線へフィードする。快足のウイングへボールが収まった時点で、ボールより前にいる味方選手がいないのがポイントだ。
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もし、そこでボールを失っても守備から切り離される選手がいない。ウイングが縦方向のコースを遮断して守れば、相手はボールを中央にしかつなげない。そこでバイエルンは一気にプレッシングを仕掛けてボールを奪う。ここで奪えれば、攻撃に移行しようとしている相手の守備は半壊しているので、バエイルンは崩す手間がいらない。
リバプールと似た攻守の考え方だが、バイエルンは後方でのビルドアップを重視しているのが違いである。リバプールは相手に引かれてスペースを消される前にロングパスを使おうとするが、バイエルンは後方で確保してから、対角の方向へ長いパスをウイングへ届ける。
バイエルンのほうが確実性はある。それが可能なのは、チアゴがいるからだ。リバプールが、チアゴを獲得したがっているという話もうなずける。
<ブラジル+スペイン+ドイツのブレンド>
チアゴの特徴は、何と言ってもテクニック。まずパスの受け方がうまい。
中盤の底は、ボールを失ってはいけない場所だが、同時に失いやすい場所でもある。ボールが来る方向とは反対側に相手がいるので、ボールと相手を同時に見ることができない。
受け方の原則は、足下からボールを離さないこと。少しでも体から離れれば、背後の相手がすかさず襲い掛かってくる。ピタリとコントロールし、すばやくパスできなければプレーできない。
チアゴはワンタッチで背後の相手を外してしまうプレーが得意だ。右へ行くと見せかけて左、左と見せて右、足裏でボールを静止させてから逆を取るのもうまい。
背後からのプレッシャーは、言わばチアゴの大好物である。中盤の底はバイエルンがハイプレスでボール奪取を狙う場所だが、自分たちにはチアゴがいるので安全というわけだ。
コンタクトプレーの激しいブンデスリーガで、チアゴは持ち前のうまさに力強さを加え、ボールを奪い取ることも多くなった。29歳。案外時間がかかってしまったが、チアゴは攻守に完成された選手になった。
チアゴのテクニックは、けっこうクセが強い。インサイドキックは独特で、外から内へカットするような蹴り方をする。足先が外を向いたいわゆるガニ股なのと関係があるのかもしれない。
急角度で浮上していくチップキックも十八番だ。山なりというより、真上に上昇していくような軌道で、FKではこの特異なキックで壁を越し、壁の裏へ走りこんだ味方にボレーシュートを狙わせている。
止め方、蹴り方、運び方のすべてがパーフェクトなだけでなく、チアゴらしいアクセントが入っている。本人にとってはそれが自然なのだろうが、1つ1つのプレーにいちいち「どうだ、うまいだろう」という誇示が入っているのが面白い。また、それがチアゴらしさで魅力なのだと思う。
パスワークやポジショニングでのクレバーなところは、いかにもバルサのカンテラ育ちだ。だが、それに収まらないクセと意外性がある。そこはブラジル人の血なのかもしれない。
さらにドイツの勤勉さと力強さが加わった。現在のチアゴには、ブラジル、スペイン、ドイツのブレンドという無敵感が漂っている。
バルサ時代は「シャビ+イニエスタ」とも言われていた。中盤を仕切るシャビのゲームメーク、シャビより1つ前の位置で10番的なプレーのイニエスタ、その両方の才能を兼ねているのがチアゴとの評価だった。
今、チアゴのポジションがシャビでもイニエスタでもなく、セルヒオ・ブスケツになったのは意外だが、シャビ+イニエスタ+ブスケツは、バルサのコーチたちも考えなかった理想のブレンドなのかもしれない。