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先日に書いた「消えていった天才Jリーガーたち」というコラムが、まずまずの反響があったそうだ。若くして注目を浴び、将来を期待されながらも、大成することなく、表舞台から姿を消した。そんな選手たちを紹介しただけだが、「天才」という言葉には人々を魅了する甘美な響きが備わっているのだろう。

今年5月で28歳になった宇佐美貴史
スポーツ界における「天才」とは、はかないものだ。勝手に大きな期待を背負わされ、活躍できなければ批判され、そのうち見向きもされなくなってしまう。
環境の変化にアジャストできなかった。監督と馬が合わなかった。あるいはケガによって成長を妨げられた......。その背景には様々な要因があったが、天才が天才であり続けるには、才能以上に、実はそうとうな努力が求められるのではないか。
順調に成長を続ける「令和の天才」久保建英も、これからのキャリアがどう転ぶかはわからない。訪れるであろう困難を乗り越え、大成を願うばかりである。
宇佐美貴史も、天才と称されたひとりだろう。小学校のころからズバ抜けた才能を示し、中学に上がるとガンバ大阪のジュニアユースに加入。中学3年の時にはユースに飛び級で昇格し、高校生にまじってレギュラーを務めた。
高校2年生の時にプロ契約を結び、18歳だったプロ2年目には7ゴールを記録。年代別の代表にもコンスタントに選出され、19歳にして世界的なビッグクラブであるバイエルン・ミュンヘンへと移籍する。出番はなかったとはいえ、チャンピオンズリーグ決勝進出も経験した。
その歩みを振り返れば、まさに「天才の道」を突き進んできた。しかし、順調に見えたキャリアも、この頃から雲行きが怪しくなってくる。
バイエルンを1年で離れると、翌シーズンに在籍したホッフェンハイムでも結果を出せず、G大阪に復帰。すると2013年のJ1昇格、2014年のJ1優勝に貢献する活躍を見せ、2016年に再び海を渡る決断を下すことになる。
しかし、日本では圧倒的なパフォーマンスを見せながら、ドイツでは再び不遇の日々を過ごした。2度目の欧州挑戦も、経験こそ手に入れたとはいえ、成功したとは言い難かった。
「成功する、もっと上を目指すという気持ちの強さが大事になってくると思います。環境が全然違うし、メンタリティも、文化も違う。とくにヨーロッパでは、個人がよりフォーカスされる。サッカーはチームスポーツだけど、そのなかでいかに自分を出していけるか」
宇佐美と同様に若くして海を渡った稲本潤一は以前、欧州で成功するためのポイントをそう語っている。宇佐美に気持ちの強さがなかったとは言わないが、足りないものがあったのも事実だろう。昨季途中に再びG大阪に復帰した宇佐美は、気づけば今年で28歳となった。
天才と呼ばれたアタッカーは、このまま普通の選手に成り下がってしまうのだろうか。いや、そうとは思えない。やはり国内では、その能力が屈指であることに変わりはないからだ。
復帰した昨季は14試合に出場して7得点。今季もハードスケジュールを強いられるなか、全14試合にスタメン出場し、3得点・3アシストと結果を残している。
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9月9日に行なわれた柏レイソル戦でも、能力の高さを見せていた。走り込みながら浮いたボールを難なくトラップし、そのままシュートに持ち込み、鋭いクロスで決定機を演出。少しでもフリーになれば、強烈かつ正確なミドルを枠内へと打ち込んでいく。ボールロストもほとんどなかったはずだ。
もっとも、プレー精度の高さこそあったとはいえ、チームに流れをもたらす働きは示せなかった。むしろより効果的だったのは、正確なフィードで好機を生み、スペースに流れてパスを引き出し、クロスを頭で合わせて2点を奪った、同じ1992年生まれの柏の江坂任のほうだった。
江坂にあって宇佐美になかったのは、ダイナミズムだろう。言い換えれば「迫力」になるかもしれない。かつての宇佐美には、ボールを持てば果敢に仕掛け、一気にゴールに向かう迫力があった。
しかしこの日の宇佐美は、柏の守備がブロックを敷いたことでスペースがなかったことも影響したが、ゴールに直結する動きが少なかった。途中からポジションを下げたことで2列目からの飛び出しを繰り出す場面もあったが、それも単発に過ぎなかった。巧さはあったが、怖さを感じられなかったのだ。
年齢を重ねるなかで、プレースタイルが変わることもあるだろうし、チームの標榜するスタイルがプレーに影響することもある。それでも宇佐美に求められるのは、試合を決する力だろう。影響力のあるプレーこそが、天才には似合うのだ。
過去に海外から帰ってきた選手では、2007年に鹿島アントラーズに復帰し、3連覇を実現させた小笠原満男の影響力は絶大だった。2010年に横浜F・マリノスに帰還した中村俊輔も、衰え知らずのパフォーマンスを示し、2013年にMVPを獲得している。
チームを変えながらもステップアップして3年連続得点王に輝いた大久保嘉人も、川崎フロンターレの連覇に貢献した家長昭博も、海外でのプレーを経験し、国内で輝きを取り戻した選手たちである。
彼ら以上の才能を備える宇佐美にも、同様の活躍が期待される。もう28歳だが、まだ28歳でもある。もうひと花も、ふた花も咲かせる時間は、十分に残されているはずだ。