2年前の9月8日は大坂なおみがUSオープンで初優勝を飾り、グランドスラムタイトルを初めて獲得した記念すべき日だ。 そんな日に、大坂は2年前と同じニューヨークの地で準々決勝を戦っていた。 第4シードの大坂(WTAランキング9位、8月31日づ…

 2年前の9月8日は大坂なおみがUSオープンで初優勝を飾り、グランドスラムタイトルを初めて獲得した記念すべき日だ。

 そんな日に、大坂は2年前と同じニューヨークの地で準々決勝を戦っていた。

 第4シードの大坂(WTAランキング9位、8月31日づけ、以下同)が、シェルビー・ロジャース(93位、アメリカ)を6-3、6-4で破り、ニューヨークで2年ぶり2度目のベスト4進出を決めた。グランドスラムでは通算3度目のベスト4になり、伊達公子と並んで日本女子では最多タイとなった。



自分のテニスを取り戻し、2度目の優勝にむけて突き進む大坂なおみ

 過去に大坂はロジャーズと3回対戦して一度も勝ったことがなかった。だが、直近の対戦が2017年4月のWTAチャールストン大会で、大坂がブレークする前の対戦であり、今回は3年前とは違う強さを見せつけた。

 ロジャースは、フォアハンドでトップスピンをかけて山なりの軌道を描くボールを深く打ち、バックハンドのスライスでペースを変えるなど大坂に揺さぶりをかけた。それでも大坂は動じず、無理をせずにしっかり相手コートの中央付近に深く打ち返し、ラリーをニュートラルにして自分が攻める時を伺った。

 さらに、ロジャースがネットプレーやドロップショットを使って前後の揺さぶりを入れてきても、大坂はバランスを崩さずにボールに追いつき、逆にウィナーで返してみせる場面もあった。

 大坂は第1セット第7ゲームで、ロジャースに唯一サービスブレークを許すが、これをきっかけにギアアップしてプレーのレベルをさらに上げ、以降は全く隙を見せなかった。

「今夜、彼女(大坂)のサーブがとてもよかった」とロジャースが振り返ったように、ファーストサーブの確率は47%でそれほど高くはなかったものの、ファーストサーブでのポイント獲得率は83%と高かった。

 さらに、大坂はサービスエース7本を含む24本のウィナーを決めたが、特筆すべきはあれだけレベルの高いパワーテニスを披露しながら、ミスをわずか8本に抑えたことだ。ロジャースが果敢に攻めながら23本のウィナーを放ちながらも、28本のミスを犯したのとは対照的だった。

 準々決勝での圧倒的な大坂のテニスは、試合後のロジャースの言葉に集約されていた。英語で"flawless(完璧な)"という単語を使ったが、これは対戦相手のテニスへの最大級の褒め言葉だ。

 2年前のように大坂の快進撃が続く中で、今回は日本メディアだけでなくアメリカメディアからも高い注目が集まり、大坂にスポットライトが当たっている。

「前回よりも、精神的にちゃんと物事をより認識できていることを自覚しています。前回準決勝に進出した時は、ある意味赤ん坊のようでした」

 2年ぶりにUSオープン準決勝へ到達して、こうして大坂が落ち着いて自分の現在の立ち位置を語れるようになったのは、昨シーズンの苦い経験があったからではないだろうか。

 2019年2月に、ともに優勝を喜んだアレクサンドラ・バインコーチと袂を分かってからしばらく大坂にとって試練の時間が続いた。初めて登り詰めた世界ナンバーワンの地位は、彼女に自信をもたらすというより、プレーに悪影響を及ぼす呪縛のようになってしまっていた。

「昨年はいつも結果と照らし合わせる自分だった」と振り返った大坂は、当時、そんな自分の思考を、自分自身で抑制できないでいた。それが重なり負のスパイルに陥って9月まではツアーでの優勝からも遠のいた。2019年USオープンの後には再びツアーコーチを変え、暫定的なコーチとして父親のレオナルド氏とともに戦った。家族のように思うチームメンバーの悲しむ顔は見たくないという一心でプレーしながら、大坂は自分のテニスを取り戻していった。

「今、私はいつも未来を見据えています」と自信を深め、メンタル面も昨シーズンの悪い時と比べると別人のように落ち着いている。現在の成長ぶりを見ると、昨シーズンの苦い経験も決して無駄だったわけではなく、真の女王になるための道程だったと言える。

 そして、2020年シーズンからタッグを組んだウィム・フィセッテコーチとの化学反応も、大坂に安定したゲームをもたらす要因になっている。試合前に2人は座って、フィセッテコーチが「パワーポイント」で作ったゲームプランをチェックするという。それが実際のゲームでの助けになっていると大坂は説明する。

「今のところとてもうまくいっています。僕は彼女(大坂)をとても誇りに思っています」

 フィセッテコーチは、大坂の試合でのプレーだけでなく、練習での態度や集中力の高さも高く評価している。

「準決勝に来られて本当にうれしい。できればこの調子を続けたいです」

 こう発せられた大坂の言葉は、実に素直であり本心であるように感じられる。準決勝で大坂は、第28シードのジェニファー・ブレイディ(41位、アメリカ)と対戦する。過去の対戦成績は1勝1敗だが、大坂がブレイディに負けたのは6年前のことなので、この対戦成績は参考にならないだろう。

「トロフィーを勝ち取りたいです。だからこそ私はここにいるのです。もちろんしばらくそのポジションに私は到達できていないけれど、私は本当に調子のよさを感じています。みんなが私と同じように頂点を狙っているのはわかっています」

 大坂の2度目のUSオープン戴冠まであと2勝だ。