長屋宏和さん(40)と親交を深めるようになったのは2004年の時、16年も前のことだ。無限プレイングカートフェスティバルに出場するために、カートコースで練習すると聞いて取材をしたのがきっかけだった。 86/BRZレースのレーシングチームで…

 長屋宏和さん(40)と親交を深めるようになったのは2004年の時、16年も前のことだ。無限プレイングカートフェスティバルに出場するために、カートコースで練習すると聞いて取材をしたのがきっかけだった。

 

86/BRZレースのレーシングチームで監督を務める長屋宏和さん=スポーツランドSUGOで(鶴田真也撮影)

 

・今すぐ読みたい→
F1ドライバーで初の新型コロナ感染者が その同情すべき「感染理由」とは https://cocokara-next.com/athlete_celeb/f1-driver-new-corona-virus-infected/

 その2年前、鈴鹿サーキット(三重県)で行われたF1日本GPの前座レースで大きな事故が起きた。かつて存在した登竜門シリーズのフォーミュラ・ドリーム(FD)で激しいクラッシュが起き、宙を舞った1台がタイヤバリアーを越えて中継用カメラのやぐらに衝突した。そのマシンをドライブしていたのが長屋さんだった。

 その事故をプレスルームのモニターで目の当たりにした。レースはそこで打ち切り。長屋さんは救急ヘリで鈴鹿市内の総合病院に搬送された。その後、サーキット側から一命を取り留め、頸椎(けいつい)骨折の重傷と発表された。ただし、それ以上の情報はなかった。

 アイルトン・セナが1994年にF1サンマリノGPで事故死して以降、安全対策が徹底されるようになった。それでも当時は国内外で死亡事故を含む大きなクラッシュが頻発していた。

 長屋さんの事故の翌年には同じ鈴鹿で行われたオートバイのロードレース世界選手権日本GPで加藤大治郎選手が事故で死亡。01年も米NASCARのレジェンド、デイル・アーンハートが事故で命を落とし、CARTのアレックス・ザナルディも大クラッシュで両脚を切断。今を思えば、異常事態だった。

 事故の前から長屋さんを何度か取材した。茶髪のイケメンレーサーで芸能界でも通用しそうなほど。女性ファンも多かった。事故が起きた年はFDから全日本F3に昇格して1年目。鈴鹿の前座レースにはゲスト選手として出場していた。

 事故後は重篤な状況が続き、下半身にまひが残っていると人づてに聞いた。このまま取材に押しかけてもヤボかなと思い、そのまま時が過ぎた。その後、彼がレース復帰を本気で目指しているとの情報をキャッチした。それが04年だった。

 

昨夏に富士山登頂に挑んだ際の長屋宏和さん。電動アシスト車いすで8合目まで到達した(本人提供)

 

 東京都内の自宅で再会したが、車いすに乗った弱々しい姿に思わず息をのんでしまった。首から下にまひが残り、両腕だけは動かせるものの、握力がほとんどない。声にもどことなく張りがない。ツインリンクもてぎ(栃木)で行われたカートレースを取材した時もちょうど冬場にさしかかった時期で「うまく体温の調整もできない」と目いっぱいに厚着をしていた。

 そんな体でありながら、手元だけで操作できる特別仕様のハンドカートでコースインすると、上手に乗りこなしてしまった。運動機能に制限はあるが、培ってきた運転感覚は健在。大惨事からわずか2年2カ月でレース復帰を果たしたことが信じられず、取材しながら私も目が潤んだ。彼はその後も参加型レースに積極的に出場した。

 長屋さんとはこの夏にサーキットでばったりと出くわした。自動車レースの「86/BRZレース」でチーム監督を務めており、車いすに乗りながら後進の指導にあたっている。昨年まではヴィッツレースのチームで監督をしており、監督歴は今年で4年目だ。

 レース以外にも活動の幅を広げている。車いす生活者用のファッションブランド「ピロレーシング」を05年に立ち上げ、ファッションデザイナーとして活躍中なのだ。

 社会福祉活動への功績が認められ、13年には日本青年会議所が主催する「人間力大賞グランプリ」を受賞。秋の園遊会にも招かれた。今年3月に新型コロナウイルスの感染拡大でマスク不足が深刻になると、服飾のノウハウを生かしてデニム地のマスクをいち早く製作。手作りマスクの先駆けとなった。

 このほか、電動アシスト車いすを使って富士山登頂にも挑戦。2年連続2度目の登山となった昨年夏には8合目まで到達した。今年は山開きされず、断念したが、来年こそは念願の登頂を目指すという。

 「命があれば、何とでもなる。体は元通りにならないかもしれないけれど、命を取り留めたので、違うことで目標を立て、そこで結果を残すこともできる。僕はそう思っている」。あらゆる活動に全力で向き合うバイタリティーには頭が下がる。彼の生き様には見習うことがたくさんある。

[文・写真/中日スポーツ・鶴田真也]

トーチュウF1エクスプレス(http://f1express.cnc.ne.jp/)

※健康、ダイエット、運動等の方法、メソッドに関しては、あくまでも取材対象者の個人的な意見、ノウハウで、必ず効果がある事を保証するものではありません。

・今すぐ読みたい→
F1ドライバーで初の新型コロナ感染者が その同情すべき「感染理由」とは https://cocokara-next.com/athlete_celeb/f1-driver-new-corona-virus-infected/