ケイリン日本代表が「オンラインエール授業」で全国の自転車競技部に夢授業 ケイリンで東京五輪のメダル獲得を目指す脇本雄太(…
ケイリン日本代表が「オンラインエール授業」で全国の自転車競技部に夢授業
ケイリンで東京五輪のメダル獲得を目指す脇本雄太(日本競輪選手会)が、8日に配信された「オンラインエール授業」に登場した。「インハイ.tv」と全国高体連が「明日へのエールプロジェクト」の一環として展開する企画に登場した31歳のトップ選手は、インターハイ中止という経験から前を向く全国の高校自転車競技部を対象に授業を行い、1人で悩まないことの大切さを説いた。
脇本が登場した「オンラインエール授業」はインターハイ実施30競技の部活に励む高校生をトップ選手らが激励し、「いまとこれから」を話し合おうという企画。ボクシングの村田諒太、バドミントンの福島由紀と廣田彩花、バレーボールの大山加奈さん、サッカーの仲川輝人、佐々木則夫さんら、現役、OBのアスリートが各部活の生徒たちを対象に講師を務めてきた。
第22回に登場したのが、東京五輪でメダル獲得を狙う脇本だった。福井・科学技術高で自転車競技を始め、わずか1年後の2005年から国体・少年1000メートルタイムトライアルで2連覇。08年に競輪デビューし、G1通算4勝。16年には競技としてのケイリンでリオ五輪出場。17年12月のW杯で日本勢14年ぶりの優勝を果たすなど、日本の競技界を引っ張る存在だ。
画面を興味津々に見つめる学生の前で、脇本は「堅い気持ちでいるのは苦手なので、学生さんたちは地元にいる高校の先輩のような感じで、軽く聞いてくれると僕自身もうれしく思います」と挨拶。始めに、自転車競技との意外な出会いを明かした。
高校から競技を始めた脇本だが、中学時代は他の運動をしていたわけではなく、文化系の科学部に所属していた。学校の中庭などの環境整備などを主に行っていたという、予想外の事実に参加者が驚く中、高校から自転車部に入った理由についてはこう話した。
「同級生で仲のいい友達がいて、友達が自転車が好きで、一緒にやらないかということで誘われて、俺もやると(笑)。軽いノリでトラックを始めて、今に至るという感じですね。僕自身も、友達と一緒に部活をやりたいという意思だけで」
きっかけは思いがけないものだったが、五輪という目標を見据えるまでは時間はかからなかった。ぐんぐん実力を伸ばし、高2の国体で優勝。「それから(五輪が)初めて視界に映って、高3の終わり際で本格的に目指したいと」。3年間で自転車競技の魅力にはまり、16年のリオで五輪出場を実現した。
「高校生の時に五輪を目指したいという気持ちがあって、その意志が自分の今の環境を生んだのかなと思う」と感慨深げに振り返る脇本。夢を描いた高校3年間については「自分の人生のすべてじゃないかと。それくらい大きな出来事だったと思います」と自身にとって重要であったことを伝えた。
伸び悩んでいた高校1年時を回顧「基準を自分の中で作ってしまっていた」
続く質問コーナーでは、「技術」「メンタル」「将来」という3つの項目で、現役自転車競技部に所属する生徒たちからの声を聞いた。脇本はナショナルチームの一員として得た経験・知識を惜しみなく話していた。
例えば、「試合前になると緊張しすぎていつものような走りができなくなることがある。緊張を和らげる方法を教えてほしい」という質問に対しては、五輪選手も取り入れているルーティンを伝授した。
「一番の方法は、僕もやっているんだけど呼吸。わかりやすく言うと、吸った呼吸の倍、吐く。例えば4秒吸ったら、8秒間かけて吐くという動作が落ち着くけれど、あまりにもそれを意識しすぎてもダメ。無意識にやるように、練習の時からシミュレーションとしてやっていくというのを徐々に積み重ねていくのが、本番でしっかり成功できる秘訣だと思う。
例えば普段のタイムトライアルで、スタート直前にあらかじめ動作を決めるというのがある。それがルーティンというのだけれど、ルーティンを決めて、呼吸も例えば3秒鼻で吸って、6秒かけて口で吐く、という動作を練習の時から叩き込めば、本番でも練習の雰囲気のまま戦えるようになる。五輪選手もやっていることなんだけれど、しっかり参考にしてもらえたらと思っています」
高校生でも手軽に参考にできる事例を紹介した脇本。自身は実績十分の高校生活を過ごしたが、伸び悩んだ経験も明かした。「過去にタイムが伸びなくて悩んだ時期はありましたか? それをどう乗り越えましたか?」という質問が飛んだ時だ。
「もともと国体で1000メートルをやってたけど、その前は個人追い抜きという種目をずっとやっていて。その時のタイムが1年生の時はすごく悪くて、3000メートルのタイムトライアルでいうと4分10秒以上かかっていたことが多々あった」
なかなかタイムが伸びないとき、どんなことを考えていたのか。「その時って、自分の体力がどれだけ持つか考えながら走っちゃう傾向があって、基準を自分の中で作ってしまっていた」と当時を回顧。こう続けた。
「その基準を自分の中で『止めよう』って思った瞬間が一番タイムが伸びる瞬間だと思います。ただ、そこってなかなか自分ひとりでやるのってすごく難しくて。1人で実行しようとせず、高校の先生などに1周のタイムをしっかり測ってもらって、その疲れ具合を記憶して(基準を)作るというのが一番効果的かなと思う。一度、最初から最後まで全力でやってみる。やった後、そこから自分で基準を作っていくというのが近道だと思います」
進路などの不安を打ち明ける大切さ「1人で悩まない事が一番」
1つ1つの質問に親身に答える中で、最も印象的だったのは、悩みを抱える生徒に対して投げかける「1人で悩まないで」という言葉だった。
周りの同級生が続々と進路を明確にしている中、「自分だけ決まらない。すごくどうしようかなという状態です」と不安を打ち明けた3年生の生徒に対しては「解決策というのは人それぞれだから、何とも言えないところはある」と前置きしつつ、自身の経験も踏まえて語り掛けた。
「例えば僕なら、お金の余裕が全くなかったから、お金を稼ぎながら自転車競技をやりたいという意志があった。どうしても進路が決まらない、例えばこういう会社に就いて頑張りたいという意志もないのであれば、一度大学に行って、自分を高めながら進路を探すのも手だと思います。
自分の中の進路を作ってもらうのに、両親や学校の先生に相談する。それもすごくいいこと。1人で悩まないのが一番いいことだと思います」
周りの人に、悩みを打ち明けること。脇本はその大切さを高校入学早々に感じていた。
自転車競技部に入部する際、気がかりとなっていたのが「両親の理解を得られるか」だった。ロードバイク代にかかる費用などは決して安いとは言えない。「いきなり自転車部に入って、新しい自転車がどれくらい(費用が)かかるというのを説明した時に、僕自身が説明してもなかなか納得してもらえなかった」と振り返る。
そこで、自転車部の顧問を務めていた先生に、部活動について説明してもらうことを依頼。情熱を持った先生からの説明が両親の不安を取り除き、入部OKを得ることができた。
「『僕の方でもしっかり支援できるように頑張りますので』と説明してもらって、両親の了承を得て部活を続けることができた。自分で悩まず、周りに相談するというのが一番大きいと思う。僕は先生の熱意がなければ部活動を辞めています」
目を輝かせて質問をする生徒と真っすぐに向かい合った1時間は、あっという間に過ぎた。最後に、参加者を代表して1人の生徒から感謝を伝えられた。「コロナの関係で選手や関係者一同、目標を見失いそうになる時もあるんですけど、これをプラスにとらえて、自分を見つめなおして、今日いただいた貴重な言葉を力に変えて、目標を達成できるように頑張っていきたいです」。脇本の言葉に、勇気をもらった様子だった。
脇本も「明日へのエール」として高校生にメッセージを贈った。
「今回コロナの影響でインターハイが中止になったんですけども、代替で京都で大会をやることが決まっている。参加する生徒さんもいるんじゃないかと思いますが、中止と発表されても諦めてはいけないです。もちろんコロナの影響で気持ちが落ちてしまうのはあるんですけど、僕たち大人たちがいかにして無駄にしないように、どうにかして開催していくという努力をしているので、それを楽しみにしている両親だったり、自転車競技を楽しく観ているファンの人ももちろんいるので、目標を見失わずに頑張ってほしいなと思います」
1963年から毎年行われていた全国高校総合体育大会(インターハイ)は、史上初めての中止が決まっている。それでも、別の舞台が用意された。脇本とかわした言葉を胸に、高校生たちは目標へ歩み続ける。
■オンラインエール授業 「インハイ.tv」と全国高体連がインターハイ全30競技の部活生に向けた「明日へのエールプロジェクト」の一環。アスリート、指導者らが高校生の「いまとこれから」をオンラインで話し合う。授業は「インハイ.tv」で配信され、誰でも視聴できる。(THE ANSWER編集部・宮内 宏哉 / Hiroya Miyauchi)