──あいつはタイミングを計れない男なんです。 1年前、明石商(兵庫)の狭間善徳監督は来田涼斗(きた・りょうと)のことをそ…

──あいつはタイミングを計れない男なんです。

 1年前、明石商(兵庫)の狭間善徳監督は来田涼斗(きた・りょうと)のことをそう評した。



プロ注目のスラッガー、明石商の来田涼斗

 来田は神戸ドラゴンズに所属した中学時代から、30校近い有力校の間で争奪戦が繰り広げられた逸材外野手である。1年夏から3季連続で甲子園に出場し、2年春の選抜高校野球・智弁和歌山(和歌山)戦では、史上初の先頭打者本塁打とサヨナラ本塁打を同一試合で放つ離れ業を演じている。

 当然、高校野球界では知らぬ者はいないほどの有名人になり、プロスカウトからも注目されている。だが、狭間監督は来田について辛口だった。

 2年夏の甲子園の試合後、狭間監督はこう語っている。

「ピッチャーがボールを離したところからホームまでボールが到達するのに0.43秒かかると言われています。高校生のバッターはトップからインパクトまで0.2秒弱かかる。つまり0.43から0.2を引いた0.23秒がバッターに残された時間なんですが、来田はまだその間(ま)を感じられていない」

 昨年までの来田の打席を見ていると、タイミングの取り方が一定ではなかった。ボールを呼び込む際に右足を着地するのが早く、苦し紛れに上体だけでスイングするシーンも見られた。

 センバツで放った先頭打者本塁打もサヨナラ本塁打も、2ストライクと追い込まれ、ノーステップ打法に切り替えてから放ったもの。狭間監督は「時間を感じられない選手が足を高く上げるのはどうなのか」と、来田に苦言を呈していた。

 この来田の「タイミングを計れない」という性質は守備にも悪影響を及ぼしていた。昨夏には、高いセンターフライに対して落下点に入るのが遅れ、あやうく落球しかけたこともあった。狭間監督は「フライを捕るのも危なかったでしょう。そのあたりのタイミングを計れないんですよ」と語っている。

 あれから1年が経ち、来田は2020年甲子園交流試合で再び甲子園の舞台に立った。チームは桐生第一(群馬)に3対2と競り勝ったが、来田は4打数1安打。唯一のヒットも外角のボールに対して引っかけたゴロが内野の間を抜けたもので、会心の当たりとは言いがたかった。

 試合後、来田は「宮下(宝)投手も蓼原(慎仁)投手も厳しいコースばかりで自分のバッティングが全然できませんでした」と反省の弁を口にしている。

 一方、狭間監督は試合前、来田に対してこんな「予言」をしていたという。

「今日、おまえ、ファーストゴロとセカンドゴロで終わりやで。俺、だいたい当たるから」

 実際にはファーストゴロはなかったが、セカンドゴロがひとつ。ヒットも当たり損ねの引っかけた打球だった。

 狭間監督が予言した根拠はこうだ。

「(交流試合は)1日しかないので、『狙ったろう』と力が入って、チェンジアップやスライダーに前の肩でカベをつくらずに引っかけて、ファーストゴロやセカンドゴロになる。それは目に見えていたんです」

 狭間監督としては、あえて口にすることで来田に逆方向を狙う意識を持ってもらうことを期待していた。だが、思うような結果は出なかった。試合後、狭間監督は来田に「ほら見てみい。(予想が)当たったやないか」と語りかけたという。

 そして、狭間監督は「まあまあ」と言葉をつなげ、こう語った。

「これからやと思います。粗削りでいいと思います」

 ところで、1年前に「タイミングを計れない男」と評した件は、どうなったのだろうか? そう尋ねると、狭間監督は質問が終わる前にスラスラと答え始めていた。

「計れるようになりつつあります。ちょっと、きっかけをつかみつつあるのでね。これから上に行けば、修正できると思いました。最初は本能だけでやっていて全然ダメやったんですけど、今はタイミングを計ろう、間を感じようというものができてきました」

 来田本人にも聞いてみると、6月くらいからタイミングの取り方に関して手応えがあったという。

「コロナの影響で自主練習をする期間が2カ月あって、そこでタイミングの取り方がよくなってきていました。右肩を開かずに、ボールを呼び込んで打つことを意識しています。今日はそれができなかったんですけど」

 完璧主義者でもある来田は「今日のバッティングには課題しかなかった」と吐き捨てた。気になる進路については、「親や監督さんと話して慎重に決めたい」と語るに留まった。

 どんな道を選ぶにしても、「タイミングを計れるようになりつつある男」のパフォーマンスがどのように進化していくのか、興味は尽きない。いつか狭間監督をうならせるような一打が飛び出る日を気長に待ちたい。