夏の日差しに、帽子の奥でメガネがキラリと光る。この男がマウンドで投げると、神宮の視線が一気に集まり、その個性も光る。 4か月遅れで10日に開幕した東京六大学春季リーグ戦。昨秋王者の慶大に8回までリードし、あとアウト3つで勝利というところま…

 夏の日差しに、帽子の奥でメガネがキラリと光る。この男がマウンドで投げると、神宮の視線が一気に集まり、その個性も光る。

 4か月遅れで10日に開幕した東京六大学春季リーグ戦。昨秋王者の慶大に8回までリードし、あとアウト3つで勝利というところまで追いつめるなど善戦を見せ、3試合終わって他校を苦しめてきた東大。活発な打線の一方で赤門軍団の投手陣、とりわけブルペンでチームを支えているのが「次期エース」と期待される背番号18、小宗創投手(3年)だ。

 冷静な口ぶりながら、今、感じている手応えを隠さない。 

「今は主に先発の次。抑えにつなぐ中継ぎをやらさせてもらっているけど、だいぶ良い感覚で打ち取れていたり、空振りが取れたりしていて、今までで一番良いシーズンになっていると思います」

 10日の開幕戦・慶大戦は2-3の6回から2番手で救援。1回を1安打無失点に抑えてリズムをもたらし、直後の味方の逆転を呼び込んだ。13日の早大戦は0-1の4回から救援し、大阪桐蔭出身の中川卓也(2年)から空振り三振を奪うなど、2回で2者連続を含め3奪三振無失点。雷雨によりノーゲームとなった影響もあり、登板3試合で防御率6.00という数字以上に存在感を発揮している。

 何より目を引くのが、そのフォームである。

 右足をゆったりと上げた後、ふっと体を沈ませるようにしながら、腕を177センチの体の真横から振る。同僚から「気持ち悪いフォーム」と突っ込まれる変則投法。打者に対して角度のあるリリースから最速137キロの直球にスライダー、カーブを投げ分け、打者を翻弄する。そして「高校時代にコンタクトにしたら合わなかった」という理由で使い続けるオークリーのスポーツ用メガネが個性を際立たせる。

 変則サイド投法のきっかけは昨夏。従来はオーバーハンドで投げていたが、肩に痛みがあり、投げやすい位置を探していると自然と腕の位置が下がった。「それでも球速が変わらず、いいボールを投げられたのでサイドにしようと」。昨年まで在籍していた法大・新井悠太朗がサイド左腕として活躍しており、参考にした。自らの感覚も大切にしながら動画も撮影し、フォームを固めていった。

 そうして秋のフレッシュリーグで投げ、春のオープン戦まで感覚は良く、手応えとともに唯一無二の個性を掴んだ。このフォームのメリットについて「左打者の外角に投げるストレートがかなり遠く感じているんじゃないか。実際にシート打撃でチームメートに言われるので、そういうところを特徴にしていきたい」と力説。一方、神宮でじわじわと注目度が上がっていることについても、控えめに歓迎する。

「注目されるのは本当にうれしいこと。(変わったフォームに)賛否両論あると思うけど、その中で結果を出せば、良い評価を得られると思うので」

 神宮に憧れた野球人生だった。

 野球を始めたのは小4の時。左投げということもあり、主に投手か一塁だったが、小6からは並行し、受験勉強も始めた。「それまで通信教育で勉強もしていたし、練習は土日だけだったので」と言いながら、1年間で東京の私立御三家の一つ、武蔵中に合格。「学校の制服がなく私服。自由な校風で、子供心にはそれが良かった」という。

 中学の軟式を経て、高校では「神宮で戦うこと」を目標に掲げ、白球に青春を捧げた。しかし、2年夏は16強で聖パウロ学園に負け、敗退。あと一歩神宮に届かず、エースを務めた3年夏は初戦敗退した。その悔しさが進路に影響を与えた。現役で慶大に合格したが、神宮でプレーする最短距離を考え、浪人で東大受験を決意。1年間の雌伏の時を経て、赤門をくぐることになった。

「やっぱり、高校で神宮で試合をするという目標が達成できなかったことが大きかった。高校野球部の同期が現役で東大応援部に入ったこともあって『東大でやりたい』という意志が生まれました」

 浪人生活の野球との接点は「息抜きでたまにバッティングセンターに行く」くらい。いざ、入学後に野球部に入ると投げる筋力が衰え、最初は体を痛めてばかり。それでも、憧れの神宮に立つためなら、どんな努力も惜しまなかった。

 1年秋のリーグ戦に迎えた神宮デビュー。中山翔太(現ヤクルト)、福田光輝(現ロッテ)らを擁する法大戦。「プロに行くようなメンツばかりで圧倒されたことを覚えている」という1回1失点。しかし、着実に経験を積み、腕の位置は下がったが、投手としてのステージは上がった。

「相手を見ると甲子園常連ばかり。感覚がマヒしてしまいそう。注目されている打者だと力んでしまう」とは言うものの、最近は痛快な元甲子園球児斬りも珍しくない。神宮を沸かせる役者の一人と言っていいだろう。

 主に障がい者教育について学んでいる教育学部の3年生。「来年、就活だけど、将来のことは全く何も……」と苦笑いするが、今は夢に描いた舞台に立ち続けながら、あと1年半を完全燃焼することしか考えていない。

「神宮はプロ野球も使っている中で、六大学野球が優先して使える。そういうカッコいいグラウンドであることに魅力を感じるし、相手校の凄さもある。東大がいろいろと頑張ってもなかなか勝てない。でも、そういうところに1つでも勝ちたいと思って神宮で投げています」

 尊敬する人は両親。慶大に合格しているのに浪人を希望しても「東大で野球をするのも良い経験になるから」と背中を押し、自由に育ててくれたことへの感謝が胸にある。「東大野球部なら、他の大学だったら投げられない神宮という場所で投げられ、強豪校の大学と戦える。それがやっぱり楽しいし、感謝している」。関西出身で父が阪急ファンだった影響で、自身も東京出身ながらオリックスファンという。

 今シーズンは今日17日に行われる明大戦の残り1試合。1か月後には秋季リーグ戦があっという間に幕を開ける。

「『1勝』『最下位脱出』を目標にやっているけど、今年のチームは良い打者も多いのもあって、それを達成したいし、自分も任されるところで投げて勝ちにつなげたい。ゆくゆくは先発で試合を作って自分で勝ちを掴み取るようなピッチングができればいい」

 まだ光り始めたばかりの個性。目標の東大エースへ、残りの大学生活は1年余り。成長の余白は、十分にある。

 

<Full-Count 神原英彰>