「明治の11番」を背負う矜持を、136球に込めた。9回。炎天下の神宮のマウンドに立っていたのは、明大のエース・入江大生(…
「明治の11番」を背負う矜持を、136球に込めた。9回。炎天下の神宮のマウンドに立っていたのは、明大のエース・入江大生(4年)だった。
14日の東京六大学春季リーグ戦・法大戦に今季初先発した右腕。8日間で5試合という短期決戦、チーム方針でフル回転すべく前半3試合はブルペン待機。11日の立大戦は2イニング、前日13日の慶大戦も1イニング投げたが、チームは3連敗。優勝の可能性はあっという間に消滅し、1勝もできないまま、この日の先発マウンドを託されたのが入江だった。
エースとして、チームの状況を痛いほど感じていた。
「どうしても勝ちたいという一心だけ。勝ちたい気持ちが100%占めていました」
その勝利への執念は、ボールに表れていた。
連投にもかかわらず、序盤から150キロ超の直球を投げ込み、味方を鼓舞。3回に1点を失ったものの、4回に味方が追いつくと、6、8回には走者を三塁に背負ったが、ともにピンチを断った。打っても5回に二塁打、7回に中前打。どちらも先頭で出塁し、走者として本塁を目指した。そして、1-1のまま9回に突入。この回も背番号11がマウンドに上がった。
田中武宏監督は言う。
「100球をメドに考えていたけど、マウンドでの目力が全然衰えなかった。100球を超えても、その目力が弱くならない限りは投げさせようと思った」
100球を超えていたのは7回。監督の目論見も変えるほど、入江の闘志は凄まじかった。
9回も先頭に安打を許し、1死三塁のピンチを作った。しかし、だ。この日何度も見せたように、走者を背負うとギアが上がる。後続2人も死力を振り絞り、抑えた。上限が設定された観衆2200人から、割れんばかりの歓声が上がる。球数は136球。ベンチに下がる入江の背中に大きな拍手が降り注いだ。そこにある「11」が、夏の日差しに光った。
数々の名投手が背負ってきた明大の伝統あるエースナンバー。今シーズンから就任した田中監督が、入江に託したのは理由がある。
「高校時代から見ていて、今井君との争いも知っている。今井君は大ブレークしたけど、彼と変わらない、それ以上のものがありましたから」
16年夏の甲子園で優勝した作新学院(栃木)時代、今井達也(現西武)がエースに君臨。入江は打撃センスを買われ、4番打者として貢献したが、希望していた投手としては2番手扱い。しかし、当時コーチとして入江の姿を見ていた田中監督には、マウンドの上で大成する未来を感じていた。それほど惚れ込んだ逸材だったから、勧誘した際に思いが一致した。
「『投手として』というのは、本人もこちらも同じ思いだったので」
3年間で最速153キロのドラフト候補に成長。指揮官が最初に託した11番は、信じた才能への一つの答えだった。
「明治の11番」らしさを発揮したのは、投球だけじゃない。延長戦にもつれ込み、迎えたタイブレーク。救援に託した入江は、ベンチで誰よりも声を張り上げ、味方を鼓舞した。応援団のいない神宮に何度も、その声が響いた。
「ベンチに下がった以上、チームを鼓舞して、みんなが1球に気持ちが入れる雰囲気作りをしたいと思って声をかけました」
その気持ちに押されるように、10回に1点を勝ち越された後攻の明大は、その裏に追いついて同点。11回は両校ともに無得点。12回にまでもつれ込んだ。ただ、最後は法大が1点を勝ち越し、明大が無得点に終わり、勝敗が分かれた。
入江は自分を責めた。敗戦後の会見、試合の感想を問われると俯き、数秒間の沈黙の後、言葉を絞り出した。
「自分が任された試合は絶対に負けたくないという気持ちがあったけど、先制点を許してしまい、自分の甘さが見えた試合だったと思います」
加えて「田中監督になって初めてのエースナンバーをもらったのが自分。どうしてもチームを勝たせたい気持ちがあった。自分があの1点をやらなければ、タイブレークにならずに勝てた試合です」とも言った。
しかし、田中監督は入江を称えた。
「9回まで136球を投げてくれた。彼には背番号11の重みを日頃から話していたので。これだけ投げてくれたら柳(裕也)も(山崎)福也も野村(祐輔)も納得くれるかな、と。負けたけど、その姿が一番の収穫でした」
田中監督がコーチ時代も含め、指導してきた歴代エースの名を挙げ、託した背番号が間違いじゃないと証明した教え子を労った。「背番号11をつけての神宮の立ち振る舞い。ここについて、本当に素晴らしい姿だったと思います」とも語った。
結果以上に価値があったエースの136球。隣に本人が座っていても包み隠さず、むしろ、思いを伝えるかのように「あと1試合。あと1か月したら秋も始まる。いかなる相手、いかなる状況であっても、あの姿を見せてほしい」と期待を明かした。
敵将の法大・青木久典監督が「壮絶な試合。血の法明戦と言われるくらいですから、お互いが意地を張り合った良い試合だった」と振り返った3時間35分の死闘。勝つことがあれば、負けることもあるのが野球だ。いつまでも下を向いているのも「明治の11番」じゃない。
入江は最後に言った。視線が上がった。
「あと1試合。やってきたことを試合で出せるような雰囲気作りをして、早く田中監督にウイニングボールを渡したいと思います」
マウンドで見せた目力が、戻っていた。
<Full-Count 神原英彰>