「ボールの勢いがあるとか、いいものを持っている選手はこれまでいくらでも見てきましたよ。でも、もうひとつ突き抜けていか…
「ボールの勢いがあるとか、いいものを持っている選手はこれまでいくらでも見てきましたよ。でも、もうひとつ突き抜けていかないと、上(NPB)のレベルには行けません」
マスク越しに見える眼光は鋭くも温かみがある。まるで西田真二監督の指導者としてのスタンスを象徴しているかのように。

今年1月1日付けでセガサミーの監督に就任した西田真二氏
現役時代はPL学園のエースで4番を担い、1978年夏の甲子園優勝。法政大でも外野手として5度のベストナインを獲得。エリートコースを歩んだ末、西田は1982年にドラフト1位で広島に入団した。
プロではおもに代打の切り札として存在感を示し、1991年には規定打席にこそ到達しなかったものの、シーズン後半に4番打者としてチームのリーグ優勝に貢献。「トラ」の愛称で親しまれた。
現役引退後は、長らく独立リーグの四国アイランドリーグplusの指導者を務めた。リーグが創設された2005年は愛媛マンダリンパイレーツの監督に就任。1年挟み、2007年から2019年までの13年にわたり、香川オリーブガイナーズの監督を務めた。
又吉克樹(中日)ら、NPBのドラフト指名を受けた教え子は20人を超える(育成ドラフト指名を含む)。西田監督の確かな指導力と、NPBスカウト陣へのプレゼン能力の高さは球界で評判になっていた。
そんな西田監督はここ数年、「独立リーグではやり切った」という思いを抱いていたという。そんな折、タイミングよくセガサミーからの監督就任の打診を受け、社会人野球の世界に移ったのだった。
独立リーグと社会人野球の違いを聞くと、西田監督はこう答えた。
「独立リーグはNPBと比べて規模は小さいけど、地域密着でスポンサー収入や観客動員、グッズで収益をあげる。社会人野球はセガサミーのような企業チームの場合、野球で就職しているところもある。野球を通じて仕事も学び、家族を養う人もいます」
独立リーグに所属する大半の選手はNPBからのドラフト指名を目指し、報酬や練習環境に恵まれているとは言えない。一方の社会人野球はチームによって千差万別ながら、有名企業チームであれば会社員として恵まれた環境でプレーし、引退後には社業に専念するため生活が安定しやすい。
集まる人材も対照的で、社会人野球には名門大学出身のエリートやドラフト候補が入社する一方、独立リーグには高校・大学の中退者など野球界のエリートコースから外れた選手が集まる。
西田監督は「独立リーグの選手には自活する力がある」と語る。
「危機感を持って過ごしているし、シーズンオフは球団から給料が出ないからアルバイトをして生活しなければなりませんから」
かといって、社会人野球が「温室」だというわけではない。西田監督は続ける。
「会社あっての社会人野球やから。選手にしても、引退後に企業に残って会社の戦力にならなければいけないわけです」
企業がチームを保有するには、年間数億円のコストがかかる。業績が悪化し、野球部を休廃部するケースも珍しくない。
社会人野球には都市対抗野球大会、社会人日本選手権の2大大会があり、とくに都市対抗では各企業が威信をかけて集客をかけ、応援に力を入れる。都市対抗への出場権を逃した企業チームの野球部員は、しばらく社内で肩身の狭い思いをしなければならない。
ましてやセガサミーの場合は昨年の2大大会とも予選で敗退し、出場できなかった。さらに大手パチスロ・パチンコ、ゲームメーカーとして知られるセガサミーホールディングスは、コロナ禍の被害を大きく受けている。すでに来年度の野球部員の採用が見送られることになった(※4〜5名の採用を予定していたところ、4月時点で内定していた2名のみの採用となり、以降は凍結した)。
今年は7月開催予定だった日本選手権が中止になり、ビッグイベントは11月開催予定の都市対抗しかない。監督就任1年目とはいえ、早くも西田監督の手腕が問われる。
今年のセガサミーには、有望な若手選手がひしめいている。とくに西田監督が期待を込めるのは、高卒3年目の森井弦斗(げんと)、飯田大翔(やまと)の2投手だ。
「ふたりにははっきり言いましたよ。『おまえらが軸にならないとあかん』と。ウチにはベテランの陶久(亮太)、球のキレがある草海(光貴)、新人も横山(楓)、久保田(淳希)と力のあるピッチャーがいます。でも、私は森井と飯田がセガの命運を握っていると考えています」
ともに最速150キロを超える本格派右腕であり、将来性豊かな逸材であることは間違いない。だが、森井も飯田も20歳を超えたばかりで、2大大会での登板機会すらない。西田監督も「経験値が少ないので、勝てるピッチャーになるには試合のなかでコツをつかんでいかないと」とふたりの課題を語る。
その課題以上に、ふたりの魅力と期待が上回っているのだろう。
「森井は体に力があるし、変化球もフォークの精度がよくなっています。年齢のわりに安定感も出てきましたからね。飯田はボールの回転数が高く、質がいい」
両投手とも、強いプロ志望を抱いている。西田監督は「今しかない」と発破をかける。多くのNPB選手を輩出してきた西田監督の「旬を逃してはならない」という言葉には実感がこもっている。
そして、西田監督は森井と飯田に対する注文も忘れなかった。
「『真っすぐは150キロ前後必要』とみんな言うけども、結局は球の質ですからね。それとストライク率。変化球を含めてストライク率を70パーセント以上に高められれば、一軍レベルの投手になれる。あとはウイニングショット。真っすぐは軸として大事だけど、いい投手はカウントになる球と決め球の変化球がありますから」
社会人野球はプロ野球とは違い、基本的に短期決戦である。潜在能力が高くても、パフォーマンスにムラがある若手選手は起用しづらい。だが、西田監督は「たとえ失敗しても、そこから学べばいい」と語る。
「僕はラグビーも好きなので、エディー・ジョーンズ(元日本代表ヘッドコーチ。現イングランド代表ヘッドコーチ)の指導論を学びました。彼は『コーチングとは信じ合うことだ』と言うんです。指導者は選手を信じて、背中を押してやればいい。結果的に悪い方向に行ったとしても、また準備すればいいだけのことなんです」
西田監督は独立リーグ指導者時代から今も、一貫して選手に伝え続けていることがあるという。
「ユニホームを着ているうちが華だよ。高校、大学、今を含めて、いつかユニホームを脱ぐ日がくる。その日まで、瞬間、瞬間にできることをやろう」
舞台は変わっても、「人を育てる」という根底は変わらない。西田真二という野球人はまた新たな人材を育て、野球界に捧げようとしている。